第79話 ローブの男
ダダ隊長も黒いローブの男を追って行った。やがて広いところに出てその男は立ち止まった。
「ようやくやる気になったか!」
ダダ隊長は剣を抜いた。男はゆっくりと振り向いた。その顔には仮面があり、表情は読み取れない。後から来た団員たちが大きく包囲した。
「もう逃げられんぞ!」
ダダ隊長が声を上げるや否や、男が斬りかかってきた。それを結界を張って防ぐ。
「黒魔術師なら魔法でも使ったらどうだ?」
ダダ隊長はそう挑発するが、男は剣で無理に結界を破ろうとしている。
「ふふふ。下種な奴め! 優雅な魔法を見せてやろう!」
ダダ隊長は呪文を唱えた。すると男は何かに拘束されたかのように動けなくなった。
「どうだ? 抜け出せまい!」
男はもがいているが、拘束魔法から逃れることはできない。ダダ隊長はまた呪文を唱えた。すると彼の剣の刃が冷たく凍った。
「では仕上げと行くか・・・。アイスブレード!」
ダダ隊長は男に向かって行き、その剣で斬った。いや、かすったという方が正しいのかもしれない。男は一瞬に凍り付き、やがて氷が割れるとともに四散した。後には黒い剣が残るのみ・・・。
「たわいもない。ミハイルとはこの程度の黒魔術師だったか」
ダダ隊長はニヤリと笑った。彼はその男がミハイルの替え玉だということは全く気付いていなかった。
◇
四番隊の前にも黒いローブの男が飛び出してきた。まるでわざと目につくように・・・。
「追うぞ! 続け!」
マバラ隊長はその男を追った。男は木々の間を身軽に走って逃げていく。団員たちが追いつかない程度に・・・。まるで翻弄しているようだ。その内にマバラ隊長たちは男の姿を見失った。
「散開して探せ! この近くにいるはずだ」
団員たちが2人1組になって捜索していく。だがそれは巧妙な罠だった。
男は2人組になったところをいきなり襲ってきた。声を上げられぬまま団員は斬り捨てられた。それで四番隊の団員が次々に倒されていった。
そんなことになっているとは思わず、マバラ隊長は一人になって団員からの報告を待っていた。すると不意に背後の殺気を感じた。男の魔の手がマバラ隊長にも伸びてきたのだ。
「何者だ!」
マバラ隊長が振り返ると、あのローブの男が立っていた。気配を消して間近まで接近していたのだ。顔には仮面をつけており、その表情は読み取れない。
「おまえはミハイルか?」
マバラ隊長は問うた。だがその答えは帰ってこず、代わりに男は黒い剣を振り上げて向かってきた。マバラ隊長はすぐに剣を抜き、男が攻撃する前に斬りつけていった。その剣はナタのように太くてやや短い。振り回すと「ブーン」とうなりをあげて迫力がある。男は急に突進をやめて後ろに下がった。
「まだまだ!」
マバラ隊長はさらに踏み込んで間合いを詰めると第2撃を放った。風切り音が鳴る・・・。男はそれをひらりとかわして変則的な動きで急に剣を横に払ってきた。
「おっと!」
マバラ隊長はその大きな体躯を揺らしながらよけた。男はさらに剣を振り下ろしてきたがマバラ隊長はやすやすと避けている。男の剣の動きを見切っているようだ。
「ここまでだ! 俺の大技を見せてやる!」
マバラ隊長は剣を持った右腕をぐるぐると何度も大きく回した。
「いくぞ! 肉挽き剣!」
マバラ隊長が右腕に持った剣を大きく振り下ろした。
「ガッキーン!」
男が剣で受け止めて金属のぶつかる音が響き渡る。剛力のマバラ隊長が目いっぱい力を込めたのだから、それはかなり強くて重い衝撃がある。男の体は大きく揺れた。だがそれだけでは終わらない。
「ガッキーン! ガッキーン! ガッキーン!・・・」
マバラ隊長は何度も何度も振り下ろした。さすがにその威力に男は剣で受けきれなくなる。腰をふらつかせて逃げようとしたがそのまま頭を叩き割られた。
「ぐわあ!」
男は断末魔の叫びを残して倒れた。そして灰になって消えていった。マバラ隊長は剣を鞘に納めると「ふうっ」と息をついた。
「こいつはミハイルじゃない」
マバラ隊長にはわかった。ミハイルの戦いを見た者からの話ではいざとなれば転移して逃げることができるという。だが今、戦った男はそうすることはなかった。
「これは偽物だ。多分、何人も放っているのだろう。我々をかく乱するためか。何か目的があるのか・・・。ミハイルは一体どこにいる?」
マバラ隊長な辺りを見渡していた。
◇
三番隊はゾルタン山への入り口を固めていた。すると山の方で大きな声が聞こえた。
「いよいよ始まったか!」
サイト隊長は山を見上げた。だが違和感を覚えてすぐに顔をしかめた。
「おかしい・・・」
山のいくつかの場所で声が上がっている。それぞれが離れた場所だ。ミハイルを討伐していったのだからそんなに何か所も戦いが起きるわけがない・・・。
しばらくして山から下りてくる黒いローブの男が見えた。胸に小さな動物を抱いている。
「ミハイルか!」
団員たちは騒然となった。
「落ち着け! 平静さを保て! ピーターは団長に知らせに行け!」
サイト隊長の命令にピーターは山の中に入って行った。
男はさらに近づいてくる。その邪悪なオーラに辺りの空気が重苦しくなった。サイト隊長は剣を抜いて前に出た。
「俺が相手をする。皆は周囲を固めろ!」
男は抱いている動物を放した。それは隻眼隻腕の子熊だった。
「ミハイルだ。聖騎士団のサイトだな?」
「そうだ! おまえを成敗するためにここに来た!」
「果たしてどうかな?」
ミハイルは黒い剣を抜いた。それには圧倒的な強さが秘められている。
(剣よ! 俺に力を与えてくれ!)
サイト隊長は自らの剣に心の中で訴えながら構えた。それは得意技の突きの態勢である。彼の脳裏には過ぎ去りし日ことが浮かんでいた。




