第77話 尋問
傷ついたアリはマリウスによってすぐにロンチェスター寺院に担ぎ込まれた。その状態をみて魔法使いのエレーヌは真っ青になった。
「こんなにひどく・・・」
「僕のせいだ。頼む! アリを助けてくれ!」
「わかりました。とにかく奥へ・・・」
アリは療養所のベッドに運ばれた。そこでヒーリング魔法を受ける。エレーヌはアリの服を脱がした。傷もひどいがそれより・・・。
「アリ・・・あなたは・・・」
エレーヌはひどく驚いたものの気を取り直して治療を続けた。
マリウスは治療室の前でじっと立ち尽くしていた。操られていたとはいえ、アリにこんなことをしたことに忸怩たる思いだった。
「アリはどうだ?」
そこに応急処置を終えたオーガ副団長が声をかけた。
「まだ何も・・・」
「マリウス。元気出せ! アリは大丈夫だ。そんな簡単にくたばりはしない」
オーガ副団長はマリウスの背中をポンと軽く叩いた。マリウスは顔をうつむけたままうなずくしかなかった。
やがて治療室のドアが開いてエレーヌが出てきた。
「アリは・・・アリはどうだった?」
「アリは大丈夫です。でも傷がひどいからしばらくは安静ですが・・・」
それを聞いてマリウスはほっとしたようだった。
「アリに会わせてください」
「少しだけなら・・・」
マリウスとオーガ副団長が治療室に入った。アリは包帯を巻かれてベッドの上で寝ていた。特に苦しげな表情ではない。マリウスはアリをじっと見つめていた。まるで恋人を心配するかのように・・・。それをエレーヌは敏感に感じ取っていた。
「寝ているわ。しばらくこのままにしてあげましょう」
エレーヌはマリウスとオーガ副団長とともに外に出た。
「では俺は取り調べがあるから・・・」
オーガ副団長は帰って行った。エレーヌは心配しているマリウスに言った。
「しばらくここに入院です。私たちがお世話をするから大丈夫ですよ」
「ありがとう。エレーヌ。また来る」
マリウスはそう言って帰って行こうとした。
「待ってください! マリウスさん」
エレーヌはマリウスを呼び止めた。彼女は確かめたいことがあったのだ。
「何でしょうか?」
「マリウスさんは知っていたの?」
「何をです?」
「いえ・・・別に・・・」
エレーヌはそれ以上、聞けなかった。マリウスはそのまま行ってしまった。エレーヌはアリの秘密を一人で抱えてしまったようで気が重かった。
◇
黒い剣を振るった若い男が尋問されることになった。カルヴァン団長が小さな部屋に入り、隣の尋問室で行われている様子をじっと見守っていた。そこに遅れてオーガ副団長が入って来た。
「すまん。もう始めているのか?」
「ああ。五番隊のシェルが尋問している」
カルヴァン団長が尋問室の中が見える窓を指さした。向こうからは見えないが、こっちからははっきり見える。
「しぶとい。何も吐こうとしない」
「やはり反王家の者か?」
「おそらくそうだろう」
カルヴァン隊長とオーガ副団長がそう話していた。
尋問室ではシェル正団員が男を締め上げている。
「黒い剣はどこから手に入れた? さあ、言え!」
男はじっと口をつぐんでいた。黙秘を貫抜こうというのだ。そこでシェルは呪文をかけて男に服従魔法をかけた。
「さあ、おまえは私の奴隷だ。その黒い剣はどこから持ってきた?」
「あれは・・・・い、言わぬ・・・」
男はかなり抵抗していた。服従魔法でも男の強固な意志には打ち勝てなかった。
その尋問の様子カルヴァン団長は腕組みして見ていた。
「やはり埒が開かんな・・・」
すると小部屋のドアが開いた。
「私の出番のようだな」
それはダダ隊長だった。レイクの件があり、彼はずっと謹慎処分だった。
「ダダ。まだ謹慎が解けていないはずだ」
オーガ副団長が咎めた。だがダダ隊長は薄笑いを浮かべている。
「そんなことを言っているから先日の襲撃の時にミハイルにつけこまれたのだ。私の謹慎をさっさと解けばよかったものを」
ダダ隊長はそれだけを言いに来たのではないようだった。カルヴァン団長が問うた。
「ダダ。君がここに来たのは?」
「尋問しているのだろう? うまくいかないようだな。私が手伝ってやろう。だが条件がある」
「条件?」
「私の謹慎を解け。こんな非常時にばかげている」
ダダ隊長は不遜な態度を示した。それにはオーガ副団長が怒った。
「ばかげているだと!」
「ああ、そうだ」
「おまえの部下だったレイクビアがとんでもないことをしたんだぞ!」
「それはやつが黒魔術師で巧妙に偽装していたからだ。私には責任はない」
2人は言い合っていた。これでは堂々巡りだ・・・カルヴァン団長が間に入った。
「よせ! 2人とも。ダダの言うことはわかった。謹慎を解く。だから協力してくれ」
「ふふん。最初からそう言えばよかったのだ!」
ダダ隊長は小部屋を出て、隣の尋問室に入った。オーガ副団長がカルヴァン団長に聞いた。
「よかったのか? ダダの謹慎を解いて」
「ああ、この際、仕方がない。ダダの力は必要だ。これで黒い剣やミハイルのことがわかれば・・・」
カルヴァン団長は「ふうっ」と息を吐いた。
尋問室ではダダ隊長が男に魔法をかけた。男は目を閉じて椅子にもたれかかり、半分眠ったような状態になっている。
「さあ、黒い剣が目の前にある。受けとるんだ」
「ああ、受け取った・・・」
「誰が渡した?」
「黒いローブの男・・・そうだ。ミハイルだ・・・」
「そう、ミハイルだ。おまえはどこにいる?」
「森の中・・・山小屋がある・・・」
「そうだ森の中だ。他に何か見えるか?」
「遠くに・・・王都が見渡せる・・・」
「そこは山なのか?」
「そうだ、ゾルタン山だ・・・」
ダダ隊長はミハイルのアジトを男から引き出した。




