第76話 マリウス VS アリ
マリウスは黒い剣を振り上げた。すでに意識はその黒い剣に飲み込まれている。
「マリウスさん! しっかりしてください!」
アリは叫ぶが、マリウスは剣を振り下ろしてきた。それをアリは刀で受け止めた。
(だめだ! 完全に黒い剣にあやつられている)
マリウスはアリに何度も斬りかかってくる。マリウスの元々の剣の腕に加えて、黒い剣のためによりその動きの鋭さが増している。さすがのアリも何度も斬られそうになっていた。
(まずい・・・。このままでは・・・)
アリは刃を向けていない。峰打ちにしようと思うがマリウス相手ではそれはできないだろう。だからといって本気で斬り合うわけにはいかない。やがてマリウスはゆっくり剣を回し始めた。
(満月剣が来る!)
それを向けられたらさすがのアリも防ぐことはできないだろう。
(この上は・・・)
アリは柄を回して刃をマリウスに向けた。そして左半身になり、刀をも右上に振り上げた。奥義草なぎを放つ構えだ。
「待て! 待て!」
そこにオーガ副団長が駆け寄ってきた。いざというときに助けにはいることができるようにと2人の様子を遠くからじっと見ていたのだ。
「副団長。マリウスは黒い剣に操られています」
「そのようだな。アリ」
「ここは任せてくだ・・・」
アリがそう言い終わらないうちに、マリウスが向かってきた。剣で空中に円を描いている。
(奥義 草なぎ!)
アリは刀を地面すれすれまで下ろしてから振り上げた。すると砂ぼこりの混じった突風がマリウスを襲った。アリの意図はそれでマリウスの体勢を崩し、その間に踏み込んで返した刀で峰打ちすることだった。
だがその目論見は崩れた。マリウスは風を避けて飛び上がり、上方からアリに剣を浴びせようとしていた。アリはすでに踏み込んでいる。その上は無防備だ。
(しまった!)
アリは不覚を取ったことを悟った。マリウスの剣が迫る・・・。
「カキン! カキン! カキン!」
そこにオーガ副団長が飛び込んできて、その得意技「疾風迅雷剣」でマリウスの剣を阻んだ。マリウスは一旦、後ろに下がった。
(危なかった・・)
アリは冷や汗が出ていた。
「副団長。助かりました」
「アリ。下がっていろ! マリウスは俺が引き受ける!」
オーガ副団長はマリウスに向かって行った。だがマリウスは満月剣で待ち受けている。
「副団長! うかつに飛び込むと危険です!」
だがオーガ副団長は疾風迅雷剣で斬り込んでいく。マリウスは間合いに入ってくるのを待ち受けて空に描いた円から攻撃を仕掛けていく。2つの剣がぶつかる・・・。
「うわあ!」
地面に倒れたのはオーガ副団長の方だった。マリウスの満月剣が勝ったのだ。
「副団長!」
アリが慌てて駆け寄ろうとした。しかしその前にマリウスが襲い掛かってきた。アリは剣で受け止めるが。その激しさに防戦一方になっていた。
(操られているとはいえ、マリウスは強い。ここはあれを使うのみ・・・)
幸いにも手元にあるのは前世でも愛刀であった茨丸。となればあの奥義を使うしかない。
「マリウスが剣の動きを止めた時が勝負だ!」
アリはそう思ってその奥義を心に思い浮かべていた。一瞬の正確で素早い刀さばきが必要になる。
一方、マリウスはまた満月剣の構えに入った。彼の剣が円を描く。
(満月剣を放った後にマリウスは一瞬、動きが静止する。この技を受けきれれば勝機はある)
アリは刀を構えた。マリウスが向かってきた。彼の描いた円の中から剣が高速で出てくる。アリは必死に刀で防戦した。だが浅くはあるが体や腕が斬られている。鮮血が飛び、鋭い痛みが体中を駆け巡った。
(ここは耐えねば・・・)
やがてマリウスの剣は止まった。
「今だ!」
アリは痛みに関わらず、新たな奥義を発動した。
「奥義! 鉄斬り!」
マリウスの剣に向かって刀を振り下ろした。するとその黒い剣が真二つに切断された。鉄斬りとは相手の刀を斬る無心一刀流奥義の技である。名刀と剣の達人がそろって初めて成し遂げられる技である。
マリウスは折れた剣を放し、その目の色が元に戻った。
「一体、僕は・・・」
やっと我に戻っていた。
「よかった。マリウスさんが元に戻って・・・」
傷だらけになったアリはそのまま倒れた。
「おい! どうしたんだ! アリ!」
マリウスはあわててアリを抱き起した。かなりの深手を負っている。
「どうしたんだ! アリ! アリ! しっかりしろ! 目を覚ますんだ!」
だが目を開ける様子はない。ぐったりとしている。
「元に戻ったか・・・。アリが止めてくれたんだ。おまえを・・・」
傷を負ったオーガ副団長がそばに来た。彼もマリウスにやられたが、何とか起き上がれたのだ。
「副団長! どうして?」
「おまえが黒い剣を不用意に持ったために、操られて襲いかかってきたんだ。俺もやられてしまった。アリは傷つきながらもその剣を破壊してくれたようだ。それでお前は元に戻った」
「それじゃ、アリは・・・」
「おまえにやられたんだ。その剣に操られていたから・・・」
それを聞いてマリウスはショックを受けていた。
「僕が・・・僕がアリを・・・」
マリウスはアリを抱きしめながら茫然としていた。




