第75話 峰打ち
アリとマリウスは巡回のために町に出た。王宮で別れて以来、何となく気まずくて、あいさつ程度しか交わしていない。それが2人してこの重要な任務につくことになってしまった。
マリウスは黙ったままだ。ロンチェスター寺院から出た後、アリに言葉をかけようとしない。重苦しい雰囲気だったからアリの方から声をかけた。
「マリウスさん。こうしてまたご一緒できるのはうれしい限りです」
「あ、ああ。上が決めたことだから・・・」
マリウスはぎこちない。アリは何か、話題はないかと考えたところ、マリウスの指している剣に目がいった。彼女が見る限り、かなりの年代物で不思議な力が感じられる。
「その剣はどうされたのですか?」
「亡くなったキタ隊長のものだ・・・」
そういえばその剣を以前、見たことがあった。キタ隊長が確かに差していた。しかしその時は今ほどのオーラは感じられなかった。
「すいません。嫌なことを思い出させてしまって・・・」
「いや、いいんだ。これは極星十字剣という聖剣だ。キタ隊長がかつてダンジョンから持ってきたもので、邪悪な黒魔術師を斬るという運命があるらしい。だからキタ隊長がミハイルを葬ると思っていたのだが・・・」
アリはその剣にそんな《《いわくつき》》なものだとは知らなかった。
「そうだったのですか。でもその志はマリウスさんが受け継いでいるのですね」
「ああ。だから僕がミハイルを討つ・・・そう決めたのだ」
マリウスはそう話した後、アリの剣を見た。
「ところで君の剣も変わったな」
「はい。剣ではなく刀です」
「刀? 片側にしか刃がついていないのだな。それに妙に湾曲している。使いにくくないのか?」
「いえ、この方がしっくりくるのです」
アリはそう答えた。アリにとって日本刀の方が扱いやすい。しかもこれは前世で使っていた茨丸だ。手になじんでいる。これならば無心一刀流の様々な技が鋭く繰り出せると思っていた。
「これをどこで?」
「ナラク隊長から頂きました。私の戦い方からこの刀の方が合っているとおっしゃられました」
「そうか。ナラク隊長が・・・。それなら間違いないだろう。君の戦いが見たくなった」
剣や刀の話をすることで、2人の間の重苦しい空気が払しょくされ、ぎこちない感じがなくなった。
しばらく歩くと、人通りの少ない場所に出た。不気味な気配さえしている。
(ここなら襲ってくるのに絶好な場所だ・・・)
アリは緊張して辺りを目で追っていた。それはマリウスも感じているようだ。彼も話をやめて慎重に歩いている。すると殺気が急に辺りにみなぎった。
「来るぞ!」
マリウスが歩みをやめて剣を抜いた。その時だった。曲がり角から黒い剣を持った中年男が飛び出してきた。何も言わず、いきなりマリウスに剣を振り下ろしてきた。
「カキーン!」
マリウスは剣を受け止めた。そこでその男を間近で見ることができた。そこらにいる普通の民と変わらない。ただ目だけが黒く染まっている。
「マリウスさん!」
「アリ! 危険だ! 下がっていろ!」
マリウスはそう言ってつば競り合いをしている。やがて男は剣を押し返して再び挑んできた。その剣の動きは速くて鋭い。普通の団員なら斬られてしまうほどだ。だがマリウスはそれをはね返していて反撃する。
目の前で戦いが繰り広げられているが、マリウスにそう言われてアリは手を出すことができない。ただ彼女の目から見てマリウスに分があるように見えた。
マリウスは一旦、後ろに下がった。そして剣で空中に大きく円弧を描いた。男はそれに飛び込んでいく。そうなるとマリウスの必殺技「満月剣」の餌食だ。マリウスはその動きから自在に剣を繰り出せる。
男は剣で受けることもできず、斬られていった。黒い剣は飛ばされて少し離れたところに突き刺さった。
「ぐええ!」
断末魔の叫びを残して男は倒れた。そしてその体は灰となって風に飛ばされていった。
「しまった! やりすぎたか!」
マリウスは声を上げた。目的は黒い剣を使う者をつかまえて首謀者を吐かせることだった。それを倒してしまってはどうにもできない。
だが黒い剣の恐怖はそれで終わるわけではなかった。その現場に若い男が飛び出してきて、地面に突き刺さった黒い剣を抜いた。するとその若い男の目が黒く変わった。そしてその男はマリウスの背後から剣を振り上げて襲い掛かってきた。
「マリウスさん! また来ます!」
アリが声を上げた。マリウスは振り返った。その背後には黒い剣が振り下ろされようとしていた。
「カン!」
アリが刀を抜いて防いだ。
「アリ!」
「ここは私に任せてください!」
アリは男から離れた。そして刃の向きを逆にして構えた。それでは男を斬ることはできない・・・マリウスはそう思った。
「どうするつもりだ!」
「これでいいのです!」
男が剣を振り上げて向かってきた。アリも間合いを詰めて刀を横に払った。
(鎧胴斬り!)
すると男は剣を放してそのまま倒れた。マリウスがそばに寄ってみると息はあり、ただ気を失っているだけだった。
「刀にはこんな使い方もあるのです。峰打ちです」
「そうか。これでこの男を尋問することができる。この黒い剣も他の者が使う前に回収しなければ・・・」
マリウスはそう言って自らの剣をしまうと、落ちている黒い剣を拾うとした。
「マリウスさん! ダメです! 剣に触れないでください!」
アリは叫んだがすでに遅かった。黒い剣をつかんだマリウスの目は黒く変わっていた。




