第74話 辻斬り
それは真昼間の出来事だった。四番隊の団員が2人、王都の町に巡回に出ていた。そこは人通りは少なく、静かな所だった。
「ここは大丈夫なようだ」
「そうですね。では別の地区に行きますか」
そんな会話をしながら歩いていると、急に強い殺気を感じた。
「なんだ?」
2人は辺りを見渡した。すると角から一人の中年男が現れた。頭が禿げ上がり、痩せて貧相な男だった。だがその男から殺気が出ている。そしてその手には黒い剣が握られている。
「なんだ? おまえは」
団員の1人が問うた。だがその男は何も言わずにいきなり剣を振り上げて団員に向かってきた。
「やめろ!」
2人の団員は剣を抜いて応戦したたが、その男の剣さばきは鋭い。瞬く間に2人とも斬られてその場に倒れた。男はそのまま立ち去って行った。
◇
最近、巡回に出た団員が斬られる事件が頻発していた。幹部が集まって本部でその対策を協議した。
「本部で調査している。犯人はかなりの剣の腕を持っていると思われる。2人とも同時に一撃で斬られている・・・」
カルヴァン団長が説明する。王都の地図にその場所と時間が記されている。四番隊のマバラ隊長が尋ねた。
「目撃者は?」
「わずかながらいる。ただ頭の禿げあがったやせた中年男という者もいれば、体格のいい若者だという者もいる。バラバラだ」
オーガ副団長が答えた。
「そうなると一人ではないのか」
「そうだ。犯人は複数だ。それぞれが腕が立つ。それに確かではないが、犯人が使う剣は黒かったという」
「剣が黒かったのか!」
ナラク隊長が声を上げた。
「ああ。見たのは一人だけだが。それもちらっとしてみていないらしい」
「しかしそれが本当だとしたら大ごとだ」
ナラク隊長は左手で顎を触った。オーガ副団長が眉をひそめて尋ねた。
「ナラク。それはどういう意味だ?」
「ミハイルも黒い剣を使った。黒魔術の剣らしい。それを使うと普通の者でも剣の達人と同じように剣を振るえる」
その黒い剣と戦って負傷したナラク隊長は身をもってそれを知っている。
「ではその剣がいくつか市中に出回っているというのか?」
「多分、そうだろう」
「それじゃ、剣の達人の敵がそこらに湧いているってことか。団員を殺すために」
「そう思った方がいい」
ナラク隊長は静かにうなずいた。カルヴァン団長は「ふうっ」と息を吐いてから言った。
「それは大変なことになった。その黒い剣が普通の者が扱うとどれほどの強さになるかははっきりわからないが、少なくとも隊長クラスになる」
「どうするんだ? このままでは巡回に出た団員は殺されてしまう」
サイト隊長が言った。するとダダ隊長が発言した。
「巡回をやめるしかない。対策ができるまで」
そこで静かに聞いていたマリウスが手を上げた。彼は一番隊の隊長に昇格して初めてこの幹部会に出て来ていた。カルヴァン団長が彼の方を見た。
「マリウス。意見があるのか?」
「はい。僕が巡回に出ます」
「君がか?」
「はい。それで黒い剣を持つもつ者をとらえて、どこから入手したか話を聞きます」
「しかしそれは危険だ! 相手は隊長クラスの腕を持つ敵だ!」
カルヴァン団長はマリウスであっても危ういと見ていた。
「いや、隊長が出て行かねばどうにもならないかもしれない。俺も行くぞ!」
マバラ隊長もやる気だった。するとサイト隊長も手を上げた。
「それなら俺も加わる!」
「ならば俺もだ!」
オーガ副団長も手を上げた。
「わかった。ではそういうことにしよう。だが幹部が巡回に出てしまったらあとが困る。人選は私に任せてくれ」
カルヴァン団長がまとめる形になり、散会となった。
その会議の後、ナラク隊長が団長室を訪ねた。彼はカルヴァン団長に提案することがあったのだ。
「どうした? ナラク。会議で言えないことはあったのか?」
「ああ、巡回のことだ。人選について迷っているのではないかと思ってな」
「確かにそうだ。危険な任務だ。2人組を考えているが、隊長またはそれに準ずる力の者を当てなければならない。誰にするかと考えているところだ」
「それに対して案がある」
「それは?」
「アリを使ってくれ。彼の剣はミハイルの暗黒剣と対等に戦えていた。黒い剣の使い手でも通用するはずだ」
「それは私も考えていたところだ」
カルヴァン隊長はうなずいた。彼も先日の戦いでアリが奮闘したことを知っている。もしかしたらこの役目はアリしか務まらないのではないかと思っていたほどだ。隊長たちを差し置いて任務を与えることに少し抵抗があったが、ナラク隊長にそう言われて決心がついた。
「ジークもマバラもサイトも手を上げてくれたが、ここはアリでいきたい。そしてマリウスをつければいいだろう!」
「では決まりだ。マリウスとアリ。これが一番いい組み合わせだと思う」
ナラク隊長も大きくうなずいた。
「ではまず2人を巡回に出そう。念のためジークを待機させる。本部の団員をつけて・・・」
こうしてマリウスとアリがおとりとして町に巡回に出ることになった。




