第66話 極星十字剣
それはアリが実家に帰って3日経った日の午後だった。緊急事態の報告が本部にもたらされたのだ。緊急招集がかかり、本部の団員たちがあわただしく偵察に出て行った。合わせて幹部たちが本部に集められた。
会議の冒頭、カルヴァン団長が詳細を話した。
「魔獣が王都の門を破り、侵入している。その数は計り知れない。今、本部の団員を総動員して偵察に当たらせている・・・」
机の上には王都の地図が広げられていた。4つの門すべてから魔獣が侵入したようだ。キタ隊長が尋ねた。
「魔獣が向かうのは?」
「ここだ。ロンチェスター寺院!」
それを聞いて幹部たちはあっと息を飲んだ。とうとう敵は大攻勢をかけてきたのだ。ロンチェスター寺院の4つの門をそれぞれの隊が担当してくれ。一番隊は北門、二番隊は・・・」
各隊の担当をきめていく。だがこの場には5番隊のダダ隊長の姿はない。レイクの監督責任を問われて謹慎処分となっていたのだ。代わりにラルフ正団員が代理で来ていた。
「五番隊は隊舎で待機。必要に応じて応援に行ってもらう。では各自、配置についてくれ」
それで幹部たちは隊舎に戻っていった。これから多くの魔獣と血で血を洗う戦いが始まる。カルヴァン団長はオーガ副団長に言った。
「ジーク。団員たちが戻ってきたらガゼル塔に来てくれ。私は一足先に行っている」
ガゼル塔はロンチェスター寺院の中で最も高い塔である。そこからは四方が遠くまで見渡せる。もちろん寺院の4つの門の様子もよくわかる。ここで指揮を執ろうというのだ。
「気に入らねえな・・・」
1人本部に残されたオーガ副団長はつぶやいた。この聖騎士団の本拠地というべきロンチェスター寺院に攻撃を仕掛けてくるとは・・・。いくら魔獣の数が多くても精鋭ぞろいの聖騎士団に敵うわけがないと・・・。だが胸騒ぎを覚えていた。
◇
一番隊は北門に配置されていた。ここで寺院の中への侵入を防ぎ、場合によっては反撃に転じて王都の外の追いやろうとキタ隊長は考えていた。
やがて本部付きのロウ従団員が馬に乗って戻ってきた。門を通してもらった彼はすぐにキタ隊長に報告した。
「魔獣が迫ってきています。魔狼、魔猪、魔鹿、魔猿など多彩です。その数は・・・」
かなりの数だが一番隊で防ぎきれるとキタ隊長は判断した。
「ご苦労だった。ここは一番隊が引き受けた。君は本部に戻れ」
「はっ!」
ロウ団長は急いで本部に向かった。いよいよ魔獣との戦いである。魔獣の勢いではこの門などすぐに吹き飛んでしまうだろう。だから門の外で戦う必要がある。
「皆! 行くぞ!」
「おう!」
一騎当千の強者たちが門の外に出た。もちろんキタ隊長も外に出て陣頭指揮を執る。
(マリウスがいてくれたら心強いのだが・・・)
マリウスは王宮の警備のためにここにはいない。だから彼なしで戦わねばならない。
(こいつが頼みだ)
キタ隊長の腰には極星十字剣がある。この剣ともに幾多の戦いを潜り抜けてきた。今回もこの剣にすべてを託す思いだった。
(この剣は俺の運命を変えた・・・)
キタ隊長はこの剣との出会いを思い出した。
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ソウ・キタ・・・彼は地方貴族の3男だった。家を継ぐこともなくこのまま兄の手伝いで一生を終える・・・彼はそんな未来を嫌がり、剣を極め、家を出た。冒険者になって一山当てようと・・・。
仲間は旅の途中で出会った魔法使いのシェル、弓使いのリンダ、シーフのウイル、そして聖者のジョンだ。5人でパーティーを組み、魔物退治などギルドからの依頼を引き受けて日々の糧を稼いだ。
そんな時、聖者のジョンに天啓が下りた。仲間5人で森の中で焚火を囲んでいるとき、彼は急に意識を失い、目を閉じたまま立ち上がった。
「よく聞け! 人間たちよ! もうすぐ忌まわしい黒魔術が力を放つだろう。それに打ち勝つには聖剣が必要だ。取りに行くがいい! この山向こうの洞窟のダンジョンの奥にある・・・」
それだけ言ってジョンは倒れた。慌ててソウが助け起こした。
「しっかりしろ! ジョン!」
「う、ううむ・・・。私はどうしたんだ・・・」
ジョンは全く覚えていなかった。ソウたちはジョンに何が起こったか、わからなかった。だがシェルだけにはピンときた。
「これこそ天啓よ!」
「天啓?」
「そうよ。神様の言葉よ! 私たちの大事なことを伝えに来たのよ!」
「そうなると行かないとね。多分、お宝の剣がそのダンジョンに眠っている」
シーフのウイルもそう確信した。ダンジョンは危険だがそれに見合う以上のお宝があることを知っているのだ。
「よし! ダンジョン探検だ!」
ソウたちは山向こうにある洞窟のダンジョンに挑むことにした。
シーフのウイルが先頭に立ち、ダンジョンの罠を避けて進んだ。彼らは冒険者のパーティーとしては経験が浅い方だった。しかしそれぞれが一流の腕を持っていた。だからダンジョンでどんな魔物が出て来ても対処できた。それで経験値を得て、さらに個々のレベルが上がっていった。特にソウは一流の剣士のレベルまで・・・。
そしてやがてダンジョンの最下層にたどり着いた。そこにはこのダンジョンの主、レッドドラゴンがいる。その巣に足を踏み入れた5人を見て、早速、焼き殺そうと火を噴いてきた。
「結界!」
魔法使いのシェルが炎を防ぐ。そしてリンダが弓を放ってレッドドラゴンをけん制し、その間にジョンが聖魔法をレッドドラゴンに浴びせる。
「神の名のもとに汝を拘束する!」
するとレッドドラゴンは身動きができなくなる。そこにソウが剣で斬りかかる。動きが封じられたドラゴンなど物の数ではない。大技「大岩崩し!」を放ち、レッドドラゴンを一刀両断にした。
「ぐおおおお!」
レッドドラゴンの断末魔の叫びがダンジョン内に響き渡った。それで今にも崩れそうに地面が揺れた。
「なんだ!」
5人は驚いて辺りを見渡した。するとレッドドラゴンの姿が消えるとともに、地面の一部が割れて、巨大な石が盛り上がってきた。
「あれだ!」
ジョンが大岩の上を指さした。そこには光り輝く剣が突き刺さっていた。
「ようし!」
身軽なウイルが岩に上って剣に手をかけた。だが抜けない。
「だめだ! かなり中に入り込んでいるようでびくともしない」
「わかった! 私に任せて!」
シェル呪文を唱える。魔法で剣を引き抜こうとした。だが剣は魔法をはね返した。
「ここはソウに抜いてもらうしかない! 彼が選ばれた者であれば抜けるはず」
ジョンはそう言った。それでソウは大岩を何とか上り、その剣の柄に手をかけた。
「聖なる剣よ! 私を選ぶなら抜けよ!」
そう言いながら力を籠める。だが・・・剣は抜けなかった。




