第62話 黒魔術師
「うわあ!」
エバンス正団員は袈裟斬りにされてその場に倒れた。
「何をする!」
アリは叫んだ。目の前で起きたことがまだ信じられない。レイクは半笑いで、近くにいた親衛隊の兵たちを斬り捨てていった。その手つきは鮮やかだった。剣術が今一つだったレイクの腕とは思えない。
「きゃあ!」
王妃様はその光景に悲鳴を上げてアリにしがみつく。それでアリは身動きが取れない。
「王子様。王妃様をお願いします。離れに隠れていてください」
アリは王妃様をスレッド王子に任せた。そして剣を抜いた。その間に親衛隊の兵たちはすべて斬り殺されてしまっている。
「レイク! どうしてこんなことを!」
「貴様を葬るためだ。それが俺の役目だ。さっさと聖騎士団をやめればよかったのに、しつこく居座るからこんなことになるんだ!」
「何だって!」
レイクはアリを狙っていたのだ。
「じゃあ、おまえが・・・」
「ああ、そうだ。最初は偽の手紙を使ってな。だがダメだったから実力行使した。魔獣を使って」
「おまえが魔獣を?」
「かつては黒魔術をかじったから魔獣を操ることもできる。都合がいいことによく魔獣が出現する。魔獣退治に出動した貴様に俺がその魔獣を操ってけしかけた」
「じゃあ、マックスという見習いに化けて誘い込んだのも・・・」
「俺さ。いろんな顔に化けることもできる。貴様は愚かにも気づかなかったな。ははは」
「笑うな! お前のせいでコリンさんが・・・」
アリに怒りがわいてきた。
「誰の命令だ?」
「貴様が知る必要はない! ここで死ぬのだから」
レイクは呪文を唱えた。すると彼の剣が炎を帯びた。
「魔法の剣だ。俺があまり魔法を使えず、剣もうまくないと思っていただろう。苦労したぜ。馬鹿で無能なふりをするのに・・・。これもあの方のためだ」
レイクは炎の剣を振り上げてアリに向かってきた。それを受け止めたが・・・・
(熱い! 体が燃やされそうだ!)
アリはすぐに後ろに下がった。
「ははは。火炎剣だ。触れたら燃え上がる。いくら貴様が剣の腕が優れていてもこれには勝てまい!」
レイクは剣を振り回してきた。アリはそれを避けるしかない。
「逃げてばかりでは勝負にならん!」
レイクが呪文を唱えた。すると周囲から多数の魔犬が飛び出してきて辺りを囲んだ。暗闇の中でこれらの魔犬がじっと見ていたのだ。
「これでもう逃げられまい!」
アリは剣を両手で持って構え直した。
「いよいよ本気になったか! それでいい。そこで炎に焼かれて死ね! おまえは魔獣に殺されたことにする。すべてを焼き尽くして証拠は消す。もちろん王妃や王子もな。ははは」
レイクは火炎剣を回し始めた。炎が飛び散る。
「これまで俺に恥をかかせた。せいぜいいたぶってやろう」
レイクは火炎剣を振った。それから放たれた炎がアリを襲う。当たれば体が燃え上がってしまう。アリは横に飛んで避けた。
「それ! それ!」
レイクは連続して火炎を放っていく。アリは避けたり。剣で払ったりする。だが落ちた火炎で地面が燃え上がっている。辺りが火で包まれた。アリの逃げ場がなくなった。
「そこで身を焼き尽くされて死ね!」
レイクは冷酷な顔で見ている。アリは剣を構え直した。
(この火を越えて戦うには・・・それにはあの技が必要だ)
アリは心の中に思い起こした。前世の無心一刀流の奥義を・・・。この体、この剣で蘇らせることができるか・・・。
火はアリを飲み込もうとしている。煙がもうもうと立ち、息をできにくくしている。離れから戦いを見つめる王妃様とスレッド王子は神に祈るしかない。
(どうかアリをお助け下さい!)
(アリに勝利をお与えください!)
火はアリの周りでますます燃え広がった。レイクは剣を下し、アリが焼け死ぬのを待っている。
アリは腰を少し下げ、体を捻って左の半身になり、剣を下から右上に大きく振り上げた。
(奥義! 草なぎ!)
アリは剣を地面すれすれに振り下ろし、それを大きく引き上げた。すると砂塵とともに地面をなめるように風が起こり、アリの前からレイクの前まで直線状に火を消した。
「なに!」
レイクは驚きの声を上げた。魔法でもない、人間技とは思えないような光景に・・・。アリはすぐに火が消えてできた道を駆け抜けた。接近してレイクに剣を浴びせようと・・・。
だがレイクはすぐに気を取り直して、下げた火炎剣を振りあげようとした。
「小癪な! これでもくらえ!」
だがアリは剣を振るう前に止まり。そこで再び右後ろに剣を引き上げて、再び「草なぎ!」を放った。それは衝撃波となり、レイクが持つ火炎剣を吹き飛ばした。
「まさか!」
レイクは目の前で起きたことが信じられない。魔法ではなく剣のキレで起こしたのだから・・・。だがレイクは本当の魔法が使える。アリがさらに打ち込んでくる前に呪文を唱えた。
「・・・・・! 結界!」
すると彼の前に透明な壁ができ、アリの剣をはね返した。
「まだまだだ!」
アリは何度も結界を斬りつけた。それで今にも崩壊しそうになった。
「まずい!」
レイクはあわてて呪文を唱えた。すると傍観していた魔犬が次々に襲い掛かってきた。アリは結界を崩すのをあきらめて魔犬を次々に斬っていく。そこでレイクに余裕が生まれた。
「僕のとっておきを見せよう!」
レイクは懐から小さな白い蛇を出した。それは彼の腕に巻き付いて舌を出している。
「行け!」
すると白蛇は黒い煙をまとって大蛇になった。その口は人一人の飲み込むほどの大きさである。その魔白蛇はアリを飲み込もうと向かってきた。
アリは魔犬と戦いながら魔白蛇と距離を取ろうと後ろに下がった。すると魔白蛇は大きな口を開けて、味方であるはずの魔犬でさえも容赦なく飲み込んでいく。
「こいつは!」
アリは驚きを隠せなかった。魔白蛇はその場にあるものを何でも飲み込んでいくのだ。
(容易には近づけない。飲み込まれたら終わりだ)
魔犬はもうあらかた魔白蛇の腹に収まった。だがまだ後ろに逃げ場はある・・・アリがそう思ったとき、後方で、
「ぐわあ!」
と獣の威嚇する声が聞こえた。振り返ると魔熊がいた。右手がない・・・
「悪魔熊!」
アリは挟み撃ちにされたことを知った。




