第60話 落ちた仮面
(王子様が狙われている!)
そう思ったアリはとっさにスレッド王子を抱きしめて床に伏せた。魔鷹の爪は空を切っていった。
「ここは危険です。お逃げください」
「しかしどこへ?」
「お連れします」
アリはスレッド王子とともに出口に向かった。しかしそこは逃げ惑う人々でいっぱいだった。これでは救援も来られないだろう。
一方、マリウスは王様のもとに駆けつけた。そこで剣を抜いて魔獣からガードしようとしている。
(私が王子様を守るしかない)
だがアリは丸腰だ。振り返るとまた魔鷹が向かってくるのが見えた。
(何とか王子様を守らねば・・・)
アリは辺りを見渡した。すると壁にかかっている装飾した剣を見つけた。
(あれなら使える!)
アリはそれを壁からもぎ取った。だが抜く間もなく、魔鷹はすぐそこまで迫っている。
(こうなったら・・・)
アリはスレッド王子の前に立った。そして腰を落とし、居合抜刀術の構えを取った。魔鷹が間合いに入ってくる。
「バサリ!」
アリの抜いた剣が見事に魔鷹を真っ二つにした。それは地面に落ちて灰になった。
「何とかやれたか!」
だが危機はまだ過ぎ去っていない。3羽の魔鷹が会場に飛来したのだ。それはまっすぐアリの方に向かってくる。多方向からなので居合抜刀術は使えない。アリは剣で魔鷹の爪を防ぐので精一杯だった。
アリは違和感を覚えていた。多くの魔鷹がいるのに1羽たりともスレッド王子を襲おうともしない。王様に至ってはいまだに何の攻撃も受けていない。
(おかしい。まるで私が標的みたいだ)
それならば戦法がある。アリは会場の隅に陣取った。ここなら後ろから攻撃を受けない。頭上を注意して向かってくる魔鷹を斬るだけでいい。
これには魔鷹の方も攻めあぐねたようだ。それで3羽が一斉にアリに向かってきた。一列になって波状攻撃をかけようというのだ。アリの方も迎え撃つべく駆け寄った。
まず先頭の1羽目を袈裟斬りにする。するとその背後から2羽目が爪を突き立てんと飛び出してきた。アリはそれを間一髪、避けた。爪に引っかかって仮面が飛んでいく。アリはそれを気にせず、2羽目を下から突き刺す。すると今度は3羽目が真正面から迫ってくる。それを振り下ろした剣で斬り裂いていく。
「ふうっ!」
アリは息を吐いた。何とか魔鷹の連続攻撃を退けた。周囲を見渡したが、もう魔鷹が現れる気配はない。危機は過ぎ去ったようだ。だが・・・
「アリ、アリじゃないか!」
仮面がとれた顔をスレッド王子に見られてしまった。アリは顔を隠してバルコニーの方に逃げて行った。
「待ってくれ! アリ!」
スレッド産王子が追いかけて行った。アリに逃げ場はない。彼女はバルコニーで後ろを向いたまま言った。
「王子様。どうかこのことは忘れてください」
スレッド王子は一呼吸開けて優しくアリに問いかけた。
「アリ。君は女だったんだな」
「いえ、それは・・・」
「隠さなくていい。君の体に触れたからわかる。だがどうして?」
「女だと知れると聖騎士団から追い出されるからです」
アリは振り向くと、観念して本当のことをスレッド王子に告げた。
「そうだったのか。でも心配しなくていい。私は君の秘密を守る」
スレッド王子はそう言ってくれた。
「ありがとうございます。王子様も今夜のことは忘れて普段通り接していただければありがたいのです」
「もちろんだ。アリ。君には謝らなければならないことがある。私は君を誤解していた。母上とあまりに親しかったからあらぬことを疑ってしまった。女であればその心配はない。すまなかった」
そう言われればアリの方が心苦しい。アリの中の丈一郎の心が王妃様にひかれていたからだ。
「いえ、私が誤解を与えるようなことをいたしておりました」
「これからは私の側にもいて欲しい」
「王子様・・・」
その時、マリウスの声が聞こえた。
「アリ! アリはどこだ!」
「ここです。バルコニーにいます」
アリが答えるとマリウスが駆け込んできた。
「アリ! 大丈夫か? あっ! これは王子様! ええと・・・」
マリウスはスレッド王子がそこにいるのに気付いて慌てていた。連れてきた女性がアリだと思わずばらしてしまったからだ。
「これには訳が・・・」
「隠さなくてもすべてわかっている。アリは大丈夫だ。私を守ってくれた。それにもっと深い秘密についても知ったところだ」
アリが女であることをスレッド王子が知ってしまった・・・マリウスは「しまった!」という顔をしていた。
「大丈夫だ。誰にも言わぬ。安心しろ!」
スレッド王子は会場に戻ろうとした。その途中、マリウスの肩をポンと叩いて、その耳にささやいた。
「アリは渡さぬ」
それだけ言ってスレッド王子は行ってしまった。マリウスはその後姿をじっと見ていた。その様子がいつもと違うと感じたアリが尋ねた。
「どうかしましたか? 王子様がマリウスさんに何か言われました?」
「いや、なんでもない。ばれないうちに引き上げるぞ」
マリウスは自分の仮面をアリに渡した。アリはそれを受け取って顔を隠した。
「後は五番隊とエバンスが何とかするだろう。アリは王城に戻っておいてくれ」
マリウスもまた会場に戻っていった。アリは「ふうっ!」と息を吐くと夜空を見上げて考えていた。
(今夜は私が狙われたのだ。例の者がまた私を葬ろうとしていた。一体、誰なんだ・・・)




