第57話 怪しい関係
その日の魔鶏の襲撃はそれで終わった。何者かによって持ち込まれた鶏が魔鶏になった・・・それが調査の結果、わかった。
「王様が狙われている。それもこの王宮でだ。これは由々しき事態だ」
報告書を読んだマリウスが顎を触りながら考えていた。こんな簡単に王城の門を突破されて魔獣が中に入り込むとは思わなかったのだ。だが王宮内の警備は親衛隊と協力して強固なものにしてある。しばらくは今の体制で行くしかない・・・彼はそう考えていた。
あれから王妃様は不安な日々を送っていた。またいつ、魔獣が襲撃してくるかわからない。それでアリを常にそばに置くようになった。アリの方もそんな王妃様を支えようと心を砕いていた。
今日も王妃様は庭の散策にアリだけを伴っていた。侍女を連れないのは異例であったが、それは王妃様が強く希望した。2人だけにしてほしいと。
アリは王妃様の手を取って歩いていた。
「地面が荒れておりますのでお気を付けください」
「ありがとう。アリ」
「今日は素晴らしく薔薇が咲いております」
「そうね。きれいだわ。この王城で一番かしら」
「いえ、王妃様の美しさにはかないません」
「まあ、アリったら!」
2人は顔を見合わせてにっこり笑った。王妃様の気分はアリのおかげですっかり晴れていた。
アリの方も王妃様といると前世のことが思い出された。糸殿とこんな風に仲睦まじく、よく庭を歩いたものだった。振り返ってみたら、あのころが一番幸せだったかもしれない。
(王妃様は糸殿の生まれ変わりなのかもしれない)
いつしかアリはそう思うようになった。丈一郎は誰かの執着を受けて、死者の世界に行けずこの異世界に転生した。それは多分、糸殿だと思えた。あのような形で別れるようになってしまったのだから・・・。
あの老人の話では執着した者もこの異世界に転生しているという。すると糸殿もこの世界にいることになる。
(その執着を解けば、死後、私は安らかな死者の世界に行ける)
そのこともある。だがアリの中にいる丈一郎の心はあの幸せだったころに戻りたい・・・そんな気持ちが強かった。
だがここは王宮だ。そんな2人を放っておくわけがない。王妃様とアリはとても親しそうに周囲の者には見えた。それが口さがない者たちの恰好のうわさ話のネタになった。
「王妃様が連れている聖騎士団の男、見た?」
「見た!見た! 小柄でかわいらしい感じ。まるで少女のよう」
「でも王妃様に言い寄っているのよ」
「ええっ! 本当?」
「王妃様もまんざらでもないみたい。最近、王様は冷たくなさっているから・・・」
「これはもしかして・・・」
「ええ、寝室にも入り込んでいるようよ。警備と称して。中で何をしているかわからないわ!」
「まあ! 破廉恥な!」
そんなうわさ話が王宮に広まっていた。確かにアリは王妃様を寝室まで送り届けることはある。だが中に入るようなことはしていない。そこは節度があり、しかもアリはこの世界では女であるのだから・・・。アリの中には16歳の少女の心もある。
スレッド王子はそんなうわさ話を信じようとしなかった。彼はアリのことが気に入っていたからだ。いつもやさしい笑顔で接してくれて気遣ってくれる・・・。
だが彼は見てしまったのだ。アリと王妃様が庭で抱き合うところを・・・。
「まさか母上がアリと・・・。そんなことが・・・」
スレッド王子はそれを咎めようともせず、見なかったことにしてその場を立ち去った。内心はかなりショックだった。
だがそれは王妃様が地面に足を取られて転びそうになった時のことだった。アリがすぐにその体を抱きかかえて支えた。それが抱き合っているようにスレッド王子には見えたのだ。彼の誤解であった・・・。
だがそうとも言い切れないところがある。実際、そうした時は王妃とアリはお互いを見つめ合っていた。距離が近づくと、お互いに引き寄せられる気がしていた。だが理性がそれをさせずにいた。一人はこの国の王妃、もう一人はその王家を守る聖騎士団員なのだから・・・。
このことはマリウスの耳に入った。だが彼はそんなうわさ話を信じることはなかった。だが注進する者はいた。それはレイクだった。
「アリが王妃様とおかしなことになっているようです。何とかしないと・・・」
レイクがそう心配していたが、マリウスはきっぱり否定した。
「アリがそんなことをするわけがない」
「しかし・・・。幹部に報告した方がいいのでは・・・。何かあってから、いやもうあるのかもしれません」
「そんな不確実な話をするからうわさ話が広がるのだ。いらぬことを考える必要はない」
マリウスはそんな話を取り上げようとしなかった。彼がアリが女であることを知っていた。だからそんなことはありえないと・・・。
(アリ。君は僕の心の中にいつもいる。ライバルとして・・・)
彼は気づいていなかったが、その心の中ではアリに対する思いが少しずつ大きくなっていた・・・。
そんな時にあの話が持ち上がった。それでマリウスは頭を悩ますことになった。




