第55話 マリウスの意地
アリたち5人は王城の守備に就くことになった。王城は親衛隊の「縄張り」である。そこに聖騎士団が入り込むことに親衛隊はいい顔をするわけがない。
アリたちは親衛隊にもあいさつに行った。本当はマリウスが代表として話をするべきであるが、若年であるためなめられないように、エバンス正団員が代わりにあいさつをした。年は30くらいであるが落ち着いて見える。
「聖騎士団のハリー・エバンスです。今日からここにいる我ら5名が王城の警備に就くことになった。お見知りおきを」
「そうでしたか。しかしわざわざお忙しい聖騎士団の方々のお出ましいただけなくてもよかったものを」
親衛隊のフランツ隊長は嫌みな男だった。偉そうなひげを生やしてその態度は傲慢だった。
「我ら親衛隊が警備をいたす。聖騎士団の方々は邪魔にならぬようにしていただければよい」
「それでは・・・」
「魔獣などといえ、ただの獣にすぎぬ。我らだけで十分。大臣の命令ゆえ、受け入れたまでのこと。そのことをお忘れないように」
「魔獣を侮られない方がよろしかろう。かなり危険な奴です」
「ふふん。我らはえり抜かれた親衛隊。恐れるものなどない。聖騎士団というところはたかが獣におそれをなしているようですな。剣の腕でももう少し磨かれたらいかがかな?」
あまりにも馬鹿にしたようなフランツ隊長の言葉にマリウスがカチンと来たようだ。エバンス正団員の後ろから口をはさんだ。
「では我らを腰抜けと申されているのですね」
「そうとは言っておらぬが、獣を恐れるには剣の腕に問題がるのでは?」
「わかりました。試していただきたい」
マリウスは辺りを見渡し、落ちていた長い木の棒を右手に持った。
「どうぞかかって来てください。真剣で、いっぺんでよいですから」
「無理をせぬ方がよかろう」
「さあ、それはどうでしょう?」
マリウスは木の棒を振り回して挑発する。
「ではケガをしても知りませんぞ。それ!」
フランツ隊長は顎をしゃくった。するとその部屋にいた5人の親衛隊員が剣を抜いてマリウスを取り囲んだ。
「さあ、どうぞ!」
「では遠慮なく」
親衛隊員5人が向かってきた。だがマリウスはあわてない。右手に持った棒で相手の右手の小手に打ち込んでいく。
「ガチャーン!」
親衛隊員はすべて剣を床に落とされていた。それを見ていたフランツ隊長はど肝を抜かれて言葉も出ない。
「では我らはこれで。くれぐれも言っておきますが魔獣を甘く見ると痛い目に遭います」
マリウスはそう言って部屋を出て行った。そのあとをアリたちも続いた。
しばらくしてエバンス正団員がマリウスに話しかけた。
「マリウスさん。奴ら、ぐうの音も出ませんでしたな。これで少しはやりやすくなりますな」
「我らの相手は魔獣です。王家の方々が安全であるように努めねばなりません。それには親衛隊の協力も必要になります」
「それはそうですが・・・」
「我らの配置をきめますから、明日にでもまたフランツ隊長のところに出かけるつもりです」
マリウスはそう言った。その態度は堂々としたものだった。
それを見ていたアリは思った。
(マリウスは人間的にも大きくなっている。上に立つ者としての意識が芽生えているようだ。剣の鍛錬が彼の器を大きくしていっている)
前世のアリは羽原丈一郎という宗隆の側付きの一人に過ぎない。上に立つ者、人間性の大きさについてはマリウスに及ばないだろう・・・そう感じていた。
◇
それからしばらく王城に魔獣が現れる気配はなかった。親衛隊の協力もあって厳重な警備体制を敷いていたが、それも無駄になりそうだった。
アリはスレッド王子に気に入られたのか、彼に召し出されることが多くなった。それに対してマリウスは「王家の方の警護になるから」と承諾してくれた。
「アリ。私に剣術を教えてくれ」
「王子様。剣術は不要と存じます。我らがお守りいたしますので」
「いや、王になるには一通りのことを知っておきたい」
そう頼まれて庭に出て木剣で稽古をつけることになった。もちろん16歳から始めるのだからモノになることはない。だが剣術で精神が鍛えられる・・・それは前世からアリにはわかっていた。
「さあ、打ち込んできてください」
「いくぞ!」
スレッド王子が木剣を振り下ろしてくる。それをアリは難なく避ける。
「さあ、王子様。まだまだです」
「きっと当ててみせるぞ!」
スレッド王子はさらに打ち込んでいく。それをアリは剣でいなしていく。
「まあ、やっていますね。お茶でもどうですか?」
王妃様がよくお見えになった。侍女に庭のテーブルにお茶の用意をさせている。それがアリのひそかな楽しみがあった。
「私はもう少し素振りをする。アリはお茶でも飲んでいてくれ」
スレッド王子様に言われてアリはテーブルについた。王妃様もお座りになり、そのお顔が近くに見える。
(それにしても糸殿によく似ている・・・)
王妃様を見るたびにアリはそう思った。糸はその奥に激しい気性を隠していたが、普段はしとやかな娘だった。そのやさしい微笑は丈一郎を癒してくれた。自分の都合のために別れることになったが、前世では唯一愛した女人であった。その思いは今でも引きずっている。




