第54話 王宮派遣
アリは16になった。そんなある日、彼女はサイト隊長に呼ばれた。部屋に入ると机の上に書類が乗っている。何かの任命書のようだ。サイト隊長が話を切り出した。
「アリ。君に話がある」
「何でしょうか?」
「最近、王都に魔獣の出現がよくある。王宮の近くでもそんなことがあった・・・」
ミハイルがどんどん魔獣を出現させている。今の王政への不満を大きくするために・・・。
「幸い、王宮にはまだ魔獣の侵入を許していない。だが現れるのは時間の問題だろう。そこで聖騎士団員を派遣することになった・・・」
王宮には親衛隊がいる。だが彼らでは魔獣の対処はできないだろう。
「そこで各隊1名ずつ派遣することになった。三番隊からは君が出てくれ」
それがその任命書の内容だったようだ。アリは特に不服はない。命令に従うだけだ。
「わかりました。王宮の警備に就きます」
「多分、一番隊からはマリウスが出る。彼が指揮を執ることになるだろう」
マリウスとともに剣を振るうことになるかもしれない。アリはそれが楽しみでもあった。
◇
特別派遣団としてアリたちは王宮に赴くことになった。一番隊からはマリウス・トッド正団員。二番隊はベン・フレッチャー従団員、四番隊からはハリー・エバンス正団員、そして五番隊からはレイクビア・アーデント従団員、あのレイクだった。
「久しぶりだな。アリ」
レイクから声をかけてきた。
「レイクさん。ご一緒できますね。よろしくお願いします」
「ああ。俺もいろいろと魔法が使えるようになった。剣の方はパッとしないがな」
レイクは自虐気味にそう言った。確かに彼以外は剣技会で優秀な成績を残した者ばかりだ。
「どんな魔法が使えるようになったのですか?」
「魔法で剣を光らせるんだ。暗闇でも戦える。どうだ? すごいだろう」
レイクの魔法はあまり進歩していないようだ・・・アリはそう思わざるを得なかった。それでも彼が選ばれたということは魔獣相手で何か役に立つだろう。
それに対してマリウスはアリを見ても何も言わなかった。ただ目を合わせて少しうなずいただけ・・・。それでもアリにはマリウスの気持ちが読み取れた。期待しているぞと・・・。
5人は謁見場に連れて行かれた。そこの1段高い場所の玉座にはこの国の王、ギルス4世が座っている。立派な口ひげを生やしているが、怠惰な生活に口元はにやけたように緩み、目に生気がない。
「派遣された聖騎士団でございます」
側近によりそう上奏される。5人は王様の前に出て、片膝をついて頭を下げた。マリウスが王様に申し上げる。
「聖騎士団、マリウス以下5名。王様のために忠義を捧げます」
「うむ。大儀」
王様の言葉はそれだけだった。それでアリたちは退場となる。
アリは王様を見て前世の「御屋形様」を思い出した。御屋形様は丈一郎のいた国に旧権力として君臨していた。だが何もかも家来任せ。自らは遊興にふけり、ついには殿である宗隆様にとって代わられたのだ。
(この暗君のもとでは家臣がよほどしっかりしない限り、民衆の不満はたまる。それが高じると・・・)
アリはそこに暗い未来しか見いだせなかった。
次にアリたちが案内されたのは別の謁見部屋だ。そこは豪華に飾り付けられており、香水の良い香りが漂っていた。そこで王妃様や王子様に謁見する。
王妃様はサミエル侯爵家の出だ。その実家は王様の権力で肥え太ったという。彼女は17年前に18歳で王様のもとに嫁ぎ、スレッド王子を産んだ。王様のお子はその王子だけなので、次の王になることが決まっている。
マリウスを先頭として5人が部屋に入り、正面に座る王妃様と王子様の目で片膝をついて申し上げた。
「聖騎士団のマリウス・トッド、そしてハリー・エバンス、ベン・フレッチャー、アリ・ローザン、レイクビア・アーデントでございます。今日からこの王宮の警備に就きます。王妃様。王子様におかれましてはご安心いただき・・・」
アリは顔を上げた。彼女はそこで驚くものを見た。
(い、糸殿!)
王妃様の顔が前世で縁があった糸にそっくりだったのだ。年は糸の方がずっと若かったのだが、王妃様はその年齢を感じさせないほどに若く見えた。
(そんなことはありえぬ。糸殿がここにいようはずはない・・・)
アリは動揺しながら心の中で無理に否定しようとしていた・・・。
王妃様は5人の顔を見渡した。その中でも小柄なアリが目についたようだ。
「聖騎士団というからどんな《いかつい》者が集まるかと思えばそうでもないのですね。確か、アリでしたわね。年は?」
王妃様はお尋ねになったが、アリは考え事をしていて聞いていなかった。横にいたレイクが肘で小突いてささやいた。
「おい! アリ! 王妃様がお尋ねだぞ」
「えっ! これは失礼しました。つい・・・」
アリははっとして頭を下げた。
「いいのです。スレッド王子と同じ年くらいかしら?」
「16になります」
「そう。この王城に同い年の人は少ないの。スレッド王子の話し相手になってね」
「はっ!」
アリはそう返事をしてスレッド王子を見た。母親譲りの端正なきれいな顔をしている。だが顔色はあまりよくなく、体は弱そうだ・・・アリはそう思った。
スレッド王子が口を開いた。それは優しげな声だった。
「では頼むよ。ここでは話し相手もいないから」
「わかりました。私でよければ・・・」
アリはそう答えたが、まだ王妃様の方に気をとられていた。




