第53話 さまざまな不安
アダムは正団員に昇格した。だが二番隊からは出ることになった。その代わり王都のはずれのリンダウという街の駐在団員となることになった。非常時にすぐに現場に駆けつけたり、本部に報告を送ったりする仕事だ。
アダムはそれを喜んでいた。街にいればそこで弟たちを引き取っていっしょに暮らせる。彼は出発前にアリにあいさつに来た。
「・・・という任務をいただいた。正団員になり、より一層任務に励むつもりです」
「それはよかったです。これで弟さんたちとともに暮らせますね」
「君が幹部に頼んでくれたそうだな。君には感謝しかない」
「アダムさんが懸命にミラウス寮長のもとで鍛錬したからでしょう」
アリはアダムと握手して別れた。門の外には彼の弟たちが待っているという。共に任地に赴こうと・・・。
(よかった。これで兄弟はまた一緒に暮らせる・・・。それにしても前世の兄弟たちはどうしたのか・・・私が死んだあと)
アリは前世の兄弟のことを思い出していた。だが今となってはどうすることもできない。幸せに天寿を全うしてくれたら・・・そう思っていた。
◇
それからもアリは従団員として三番隊で任務についていた。彼女の剣の腕はさらに磨きがかかった。だが体の成長は止まりかけていた。背は小柄なまま、力は男の団員よりやや劣るくらい・・・女だからそれは仕方がなかった。
(このままでは前世の無心一刀流を極めた腕には到達できまい。この体でできるだけの剣技を身につけるだけ・・・。もしかしてそこに新たな道は開かれ、また奥義を習得できるかもしれない・・・)
無心一刀流には奥義がいくつかある。それを極めることはまだできない。頭には記憶として残っているから、それが体がついて行けるようになるのを根気よく待つしかない・・・アリはそう思っていた。
だがそれよりも気にかかることがあった。それは自分自身の心の変化だ。それに気付き始めていた。以前は前世の丈一郎の意識のままだった。だが最近では少しずつ少女の気持ちが芽生えてきているのだ。
(今までが異常だったのかもしれない。前世の記憶と意識を持っていることが・・・。それが薄れていき、元々のアリの心に近づいているのかもしれない。いやそうなるのだろう。そうなったら今の状況をどう思うのか・・・。きっと女に戻りたいと思うだろう・・・)
だが今さらこの状況をやめることはできない。アリは将来の自分に不安を覚えていた。
◇
王都に魔獣の出現の頻度がさらに増えてきていた。魔犬に魔猫、魔猿、魔鹿、魔狼・・・あらゆる動物が魔獣化してきていた。
この日も魔獣の出現で三番隊が出動した。今回は魔鹿だ。突進してきて頭の鋭い角で攻撃してくる。
「各自、散開して魔鹿に対処しろ!」
アリたちは2人組になって魔鹿の攻撃に備える。最近の彼女のパートナーはピエールだ。剣技大会で準優勝して自信を深めたようだ。以前のおどおどした様子は見せない。
「そろそろくるぞ! ピエール! 後ろを頼む!」
アリは剣を抜いて構えた。するとすぐに魔鹿の一団が向かってきた。彼女も駆け寄って斬っていく。すり抜けた魔鹿は後ろにいるピエールが斬り捨てる。
しばらくしてようやく魔鹿をすべて退治することができた。だが暴れた魔鹿によって家々が壊されて、死傷する人もいた。避難場所から街に戻ってきた人たちはそれを見て呆然とする者、泣き騒ぐ者・・・いろいろだった。
あとは王都警備隊に任せて引き上げようとした。すると群衆の中にいた若い男が声を上げた。
「おい! 待てよ!」
その男は怒りに満ちた顔をしている。
「おまえたちが無茶な戦いをしてこんなことになったんだぞ!」
それはアリたちにとって思いがけない言葉だった。これだけ命を懸けて魔獣と戦っているのに・・・。
「そうだ! そうだ!」
「おまえらの責任だ!」
以外にもその男に同調する者が多くいた。
「皆さん! 我々聖騎士団は王都を守るために戦っているのです!」
ジン正団員が大声で反論した。だが騒ぎは大きくなる一方だった。
「出ていけ!」
「おまえたちなんかいらない!」
「この王宮の犬め!」
さんざんな言われようだった。中には石を投げる者もいる。団員の中にはその人たちの方に向かおうとする者があった。中でもリーはかなり頭に来ていた。
「俺たちがお前たちを守っているんだぞ!」
だがそれをサイト隊長が止めた。
「やめろ! ここは何も言わず、ロンチェスター教会に戻るんだ!」
「ですが団長・・・」
「これ以上騒ぎが大きくなったらどうする? 引き上げる方がいい」
三番隊はその場から逃げるように引き上げた。その背後からは人々の歓声が聞こえる。
「やったぜ! 追い返してやったぜ!」
「ざまあみろ!」
アリは唇をかんでいた。どうしてあの人たちは魔獣やそれを操る者を恨まず、私たちを非難するのか・・・。
その動きはどこでも起きていた。魔獣退治に聖騎士団が出動しても人々に歓迎されないばかりか、石を投げられた。
(王様に対する反逆運動と結ばれている)
アリにはそう思えた。ミハイルが魔獣を使って王都を襲撃することで人々の動揺を誘い、守ってくれない王様への信頼が揺らいだのだ。それは以前から一部の者が起こしていた王様の失政を咎める運動と合わさってきている。
(このままではこの国、王様は危うい・・・)
アリにはそう思えた。そして聖騎士団も・・・




