第52話 二刀流
武道場で幹部がならんでいる。その前でアリはナラク隊長と剣を交わせねばならない。
「剣は訓練用だがこれは試合ではない。君が信じる剣を振るいたまえ。私はそうするから。二刀流だからそのつもりで」
ナラク隊長は訓練用の普通の剣を右手に、左手には訓練用に改造された短い剣を持った。アリはナラク隊長の二刀流の技を見たことがない。ただし前世では二刀流の剣豪と対したことはある。正面を向いて大きく腕を開いて構え、必要とあらば両手の剣で相手の剣を受けとめる。また攻撃においては右手の剣で斬りかかり、それが受けられても左手の剣で斬る・・・なかなか手ごわかったのを覚えている。
(ナラク隊長の二刀流はどんなものか?)
この状況でもアリは興味がある。
「さあ、かかってきたまえ! 試合ではない。実戦と思ってな。つまらぬ遠慮は無用!」
ナラク隊長は構えた。それは半身の姿勢で右手の剣は通常の構えである。ただ左手の剣は後方に下げられている。一見、普通の構えと変わらないようだが油断はならない。
(ここは最初から・・・)
アリは剣を両手で持ち、正眼に構えた。やはりこれがしっくりくる。
「では行きます!」
アリは間合いを詰めて斬りかかっていった。それをナラク隊長はかわしながら右手の剣で受け止める。左手は動く様子はない。アリはさらに攻撃を仕掛けていった。袈裟斬りに横払い、突き・・・。連続して繰り出すが、さすがは二番隊の隊長、すべてを受け止めている。
(ここは決め技を使うしかない)
アリはそう判断した。後ろに下がって剣を抜く位置まで下げる。そして腰を少し下ろして相手が接近するのを待つ。居合抜刀術で決めようとしていた。
「いよいよ出してきたな。それならこちらも少し本気を出すか」
ナラク隊長は腕を広げて駆け寄ってきた。
(何をするつもりだ?)
ナラク隊長の意図はわからなかった。そのまま突っ込んでくれば居合抜刀術の餌食になるだけだ。ナラク隊長はこの技を剣技会で見て知っているはずなのだが・・・。
アリは居合抜刀術が発動できる間合いまでじっと待った。それはかなり長い時間のように感じた。
(来た!)
ナラク隊長が間合いに入った。アリは剣を引き抜くように前に出した。その時、ナラク隊長の動きが急に変わった。その地点で回転し始めたのだ。
「カーン!」
アリの剣ははね返された。そしてナラク隊長は回転したままアリに迫ってきた。
(危ない!)
アリはさっと後ろに下がった。だがナラク隊長はさらに接近してくる。アリが剣を出しても回転しているナラク隊長の剣にはじかれる。この回転して繰り出す技こそ、ナラク隊長の得意技「輪舞」だった。
回転して繰り出される剣は厄介だった。それに2本の剣を振り回しているため、その中に入ることも難しい。だがアリは何としてもこの技を攻略しなければならない。
「私の技を見事に受け止めてみろ!」
ナラク隊長は挑発してくる。アリは剣の動きを見ながら考えた。
(頭上が死角になっているはず。真上からの攻撃には弱いのでは・・・)
そうなると剣を飛び越えての「兜割」だ。しかしアリはそれは違うような気がしていた。
(ナラク隊長は受け止めろと言っている。その剣を防いでこそ、道が開けるのではないか・・・)
アリは剣を水平にして構えた。そこにナラク隊長が「輪舞」で向かってきた。アリは間合いを図り、踏み込んで剣を横に出した。
(鎧胴斬り!)
それはナラク隊長の右手の剣にぶつかった。かなりの衝撃が走る。だがアリは両手で剣を持っている。その衝撃で飛ばされたのはナラク隊長の右手の剣だった。宙を舞い、「カチャン」と音を立てて床に落ちた。
だが安心していられない。反動でナラク隊長の回転が逆になった。そのため左手の剣がアリの背後に迫る。
「カキーン!」
アリは回転してその剣を受け止めた。鍔迫り合いになってナラク隊長の顔が間近に見える。その表情は・・・ゆるんでいる。そしてナラク隊長は後ろに下がった。
「見せてもらった。アリ。君の剣を!」
彼は床に転がった剣を拾った。
「君は私の輪舞を真っ向から受け止めた。私は君の剣を感じた。君は勝負において手を抜くような真似はしない。左手で戦ったのは相手と正々堂々戦いたかったのだろう。同じ条件で」
ナラク隊長はそう言った。アリはうなずいた。ナラク隊長はアリの真意をわかってくれたのだ。
「それではナラクはアリが八百長をしていないというのだな」
カルヴァン隊長が会議の結論を出すためにそう問うた。
「そうだ」
「ならば結論が出た。特にアリを咎めることはない」
カルヴァン団長がそう裁定した。それを聞いてオーガ副団長はほっとしていた。自分はアリが八百長をしていると思ったのだが、処分されることはなくて・・・。マバラ隊長も納得していた。
だがダダ隊長だけは不服そうだった。何も言わずにそこから出て行った。
アリは幹部たちにこう言った。
「剣技会では僕は僕なりに懸命に戦ったつもりです。アダムさんもそうです。左手で奮闘しました。彼はずっと厳しい鍛錬をしてきたのです。彼を認めてあげてください」
アリは頭を下げた。するとオーガ副団長がそばに来て彼女の肩をポンと叩いた。
「相変わらずだ。アダムのことは任せろ。悪いようにはしない。団長もナラクもいいな?」
「わかった。善処しよう」
「彼の居場所を考えよう」
カルヴァン団長とナラク隊長はそう言ってくれた。アリはまた大きく頭を下げた。




