第51話 八百長
幹部会でのことだった。そこで先日の剣技会のことが議題になった。五番隊のダダ隊長が苦言を呈したからだ。
「剣技会は各隊の優秀な団員が剣を競うためのものだ。それがおかしくなっている」
「それは具体的にどういうことだ?」
カルヴァン団長が尋ねた。
「従団員の部の決勝だ。アリは右腕を痛めてないのに左手で戦った、八百長をしていたのだ! こんなことは前代未聞だ。厳しく処分する必要がある」
「八百長という証拠があるのか?」
オーガ副団長が問うた。
「アリとアダムは親しい。アダムが正団員になれば、離れ離れになっている兄弟と一緒に暮らすことができる。だからわざと勝ちを譲ったのだ。副団長ならアリがこうしたことをすると思うだろう?」
そう言われてオーガ副団長は黙ってしまった。アリが「お人よしの馬鹿野郎」だったからだ。カルヴァン団長が他の隊長に聞いた。
「皆の意見はどうだ?」
「俺はアリを信じる」
サイト隊長はそう発言した。彼は勝負において手を抜くことは決してアリはしないと思っていた。二番隊のナラク隊長は腕組みしたまま何も言わない。
「八百長だったかどうか、アリから直接、話を聞いたらどうだ?」
一番隊のキタ隊長がそう提案した。
「まずそれだ。それがいい」
四番隊のマバラ隊長がそれに同意した。ダダ隊長以外はその提案におおむね賛成しており、カルヴァン団長アリを幹部会に呼び出して事情を聞くことにした。
◇
アリは幹部会に出頭した。彼女はまさか自分が八百長疑惑がかかっているとは思ってもいなかった。
「アリ。君に聞きたいことがある。先日の剣技会の決勝のことだ。君は左手で戦った。どうしてなのかね?」
カルヴァン団長が問うた。
「右腕が重いようで動かなかったのです。ですから左手で戦いました」
アリは率直に答えた。
「おかしいじゃないか! そのあと診た魔法使いは君の右腕に異常を認めなかったそうだ。君だって大丈夫だと言っていたと聞いていた者がいる」
ダダ隊長が問い詰めるように言った。彼はそのことをいろいろと調べたのだ。
「そのときは大丈夫でした。しかし試合の時は動かなかったのです」
アリはそう答えるしかなかった。あれは自分の意思ではない。潜在意識が起こした・・・彼女はそう思っていた。
「アリ。正直に答えてくれ。アダムが決勝で勝てば正団員への道が開ける。そうなれば彼の離れ離れになっている兄弟たちが一緒に暮らせる。おまえはそのことを知っていたのか? だからあんなことをしたのか?」
オーガ副団長が尋ねた。彼はお人よしのアリがそんな風に思ってやったと思っていた。だがこの場では否定してほしかった。そうでないと・・・。
「アダムさんの事情は知っています。だからそうなったかはわかりません。自然にそうなったのです」
アリはそれを否定することはできた。だが彼女は嘘をつきたくなかった。
「ではそれを知っていてわざと右手を使わなかったのだな。君は今回の行為をどう思っているんだ?」
ダダ隊長が問うた。
「右手を使わなかったことはアダムさんの事情とは関係ありません。僕の個人的な意見を言わせていただきます。剣技会は実戦ではない。剣を競うものです。それには五分と五分でなければならないと考えています」
「それではもし同じ状況があったら君はどうするかね?」
ダダ隊長は意地悪く聞いてきた。
「もし相手が右手を使えないのに自分が右手を使って戦えるでしょうか? 僕の右手が動いたとしても同じことをしたかもしれません」
アリはそう発言して、(しまった!)と思った。前世での武士道ならそれで通用するかもしれない。だがこの異世界ではわかってくれないかもしれない。
「やはり八百長だな。これで決まった!」
ダダ隊長は鬼の首でも取ったかのように大声を上げた。それに対してキタ隊長はアリをかばった。
「いや、アリの言うことは一理ある。剣技会は勝つことがすべてではない」
「しかしアリが右手を使わなかったのは事実だ。手を抜いていたと思われてもおかしくない」
マバラ隊長はダダ隊長寄りだった。
「俺はアリを信じたい。八百長をする奴ではない。アリが行ったのは考えであって本当のところはそうでないのかもしれない。右腕が動かなかったのだろう」
サイト隊長はそう言ってくれた。それをカルヴァン団長はうなずいて聞いていた。彼も同じ意見のようだ。だがオーガ副団長はアリが八百長をしたと思っている。これで3対3だ。あとはナラク隊長の意見となる。彼はずっと腕を組んで黙って聞いていた。カルヴァン団長が促した。
「ナラク。君の考えを利かせてくれ」
そこでやっとナラク隊長が口を開いた。
「私にはわからぬ」
「わからないのか? 君はどう思うんだ?」
「アリが同情して八百長をするような者なら許せぬ。それは試合と相手を冒とくしているからだ。だが五分と五分で剣を競おうとしたならそれは正しい道だと思う」
「そうか。君は意見を保留なのか?」
「いや、試させてほしい。剣と剣を交わせば相手の心内を感じることができる。アリと戦わせてほしい」
ナラク隊長はそう希望した。カルヴァン団長はうなずいた。
「うむ。君がそう言うのならいいだろう。それで君が判断してくれ。今から武道場に行こう。アリも依存ないな」
「はい。お願いします」
それでアリはナラク隊長と戦うことになった。




