第50話 決着
アダムが向かって来て大きくジャンプして剣を振り上げた。やはり雷落としだ。アリは剣を抜くかのようにさっと前に出した。その瞬間に最大の破壊力がある。それで雷落としを受けようというのだ。
アダムが剣を振り下ろしてきた。それをアリの剣が頭上で受けた。
「カキーン!」
鋭い金属音が響いて火花が飛び散る。
(雷落としを受け止めた!)
アリは一瞬、そう思った。だがアダムの剣の破壊力はアリの想像を上回っていた。アリの剣は上からの圧迫で押され、やがてアダムの剣はアリの肩をとらえた。
「それまで! 勝者アダム!」
アダムが優勝したのだ。彼は剣をしまった後、
「やったあ!」
と大きく叫んで大きく手を広げて喜んだ。アリも剣をしまい、彼のそばに寄った。
「おめでとう。素晴らしい技だった」
「ありがとう」
2人は左手でがっちり握手した。アリは後悔しなかった。思いっきり戦って負けたのだから・・・。だからアダムを祝福したかったのだ。
アリが武道場を出ると、あわてたようにエレーヌがそばに来た。
「ねえ、大丈夫なの?」
「何がですか?」
「右手よ!」
「どうもないです」
「そんなことはないはずよ。試合で右手を使わなかったでしょう」
エレーヌは右手や右腕を触ってみた。だが異常は認めなかった。
「だから大丈夫だと・・・」
「じゃあ、どうして右手を使わなかったの?」
アリはちゃんと答えられなかった。
「いや・・・何となく腕が重かったんだ・・・」
そう言うしかなかった。そしてその場から逃げるように引き上げて行った。
正団員の部が続いて行われた。そこはマリウスの独占場だった。去年は接戦でなんとか優勝したが、今年は必殺技「満月剣」を引っ提げてきた。彼はそれをうまく使いこなして、他を寄せ付けずなかった。決勝戦でぶつかった四番隊のエバンスにも危なげなく打ち勝った。それで2年連続優勝を果たした。
マリウスの剣の腕は一段と上がっていた。それだけでなく小柄だったマリウスはぐっと背が伸びて体ができ、体力もかなりついていた。観客はこれからもしばらくマリウスが優勝するだろうと思っていた。
「優勝おめでとう」
カルヴァン団長が声をかけたが、マリウスはうれしそうな表情を見せなかった。
「ありがとうございます。しかしこれはあくまでも試合。実戦とは違いますので・・・」
マリウスはそう答えた。必殺技は完成したが、強力な魔獣相手にどれだけ通用するのか・・・彼はそう思っていた。
それに・・・マリウスはアリのことを思っていた。
(ここには僕が戦いたい相手はいない。いるとすればアリ・ローザンだ。だが・・・あの試合は何なんだ! 左手で戦うなんて・・・。いくらいい勝負をしたからと言って僕にはただの泥試合にしか見えない。早く正団員になって僕と戦え!)
マリウスは心の中でアリに訴えていた。
アリはミラウス寮長に招待された。寮の食堂でアダムの優勝祝いをやるからだ。もちろんアリは参加した。死力を尽くして戦ったアダムを讃えてやりたいからだ。
そこには彼の兄弟たちも来ていた。みんな仲良くしてうれしそうにしている。兄弟たちが一緒に暮らせる日が近づいたからだろう。
その彼らの様子をアリは前世の丈一郎の兄弟たちと重ね合わせていた。
(よかった。これでみんな幸せになれる)
アリはアダムたちのそばに行って彼に声をかけた。
「アダムさん。優勝おめでとう」
「ありがとう。君には感謝している.あれほどまで打ち合うことができた。いい試合になったのは君のおかげだ」
「いえ、あの試合は僕にも有意義でした。また戦いたいものです」
「私もだ」
アリはアダムと今度は右手でがっちり握手した。アダムは不器用で不愛想で二番隊で浮いているそうだが、それを感じることはない。アリは彼とは友人でいられるような気がしていた。
その後でアリはミラウス寮長にあいさつに行った。
「寮長。お招きいただきましてありがとうございます」
「おお、アリか。よく来てくれた。今日もごちそうをたんと作った。腹一杯食ってくれ!」
「はい、ごちそうになります」
「剣技会は見た。決勝戦は近年まれにみる素晴らしい試合だった」
「そうでしたか。でも僕は打ち負けてしまいましたが・・・」
「気にするな。俺はおまえが左手で戦ってくれたのはよかったと思っている。そのことでとやかく言う奴はいるだろう。だが俺はそれであの素晴らしい試合ができたと思っている」
ミラウス寮長はそう言ってくれた。彼はアリの真意を理解してくれているようだ。アリは気になることを聞いてみた。
「アダムさんは正団員になれるのですか?」
「剣技会に優勝したからといって必ずしも正団員になれるわけじゃない。去年のロウがそうだった。優勝したがその内容が今一つ。大技もなかった。だからロウは正団員になれなかった。それに引きかえアダムは素晴らしい試合をしたし、大技も披露することもできた。俺の直伝の、とっておきのやつを。文句はなかろう」
ミラウス寮長はそう見ていた。もしアダムが正団員になれればこの兄弟を引き取ってみんな一緒に暮らせる。アリはそうなることを願っていた。
そんなアリに大きな問題が降りかかろうとしていた。




