第49話 右腕
アダムは1回戦で四番隊の従団員を破っていた。推薦で出場していたが、勝ちあがるのは難しいと思われていた。それを覆したのだ。ミラウス寮長との稽古が実を結んでいたのだ。
彼の次の相手のフレッチャー従団員は二番隊の中で選ばれて出場している。アダムも二番隊だから同隊対決となる。二番隊の団員が応援に来ているが、すべてフレッチャー従団員を応援しているようだ。アダムは孤立無援の中、戦わねばならない。
「アダムさん! がんばってください!」
アリは観客席から思わず声をかけていた。アダムはそれに気づいたようだ。それで彼の気負いが少なくなったように見えた。
アダムとフレッチャー従団員が向かい合った。同じ隊なのにお互い視線が冷たい。
「はじめ!」
声がかかり、フレッチャー従団員が前に出た。剣を振り回して連続攻撃をかける。アダムはしっかりと受け止めていた。そして上下左右と剣を動かして反撃していく。
だがフレッチャー従団員の方が押している。彼の方が剣の動きに鋭さがある。この状況を逆転する切り札があるのか・・・アリはじっと見ていた。
するとアダムは後ろに下がった。そしてぐっと腰でためると前に突進した。フレッチャー従団員は剣を引いて身構えた。アダムはそのまま体当たりするかと思うほどに突き進んで相手の前でジャンプした。その右手を大きく振り上げている。
(上から打ち下ろそうとしている。だが相手の剣で防がれる)
アリはそう思った。フレッチャー従団員はそれを受け止めようと剣を頭の上まで上げた。ここで受けられればあとは相手に体を斬られて終わりである・・・。だがアダムの振り下ろした剣はすさまじかった。相手の剣を押し下げ、アダムの剣はフレッチャー従団員の頭をとらえていた。
「うわっ!」
頭に衝撃を受けたフレッチャー従団員はふらふらしてその場に倒れた。
「それまで! 勝者アダム!」
声がかかった。恐るべき力業だった。フレッチャー従団員は倒れたが衝撃で気を失っているだけだった。
「雷落としだ」
あちこちから声が上がった。アリは知らなかったが、ミラウス寮長が団員だった時の得意技だったらしい。それを食らった者は雷に打たれたような衝撃を受けるようだ。ミラウス寮長がアダムに伝授していたのだ。
アダムはフレッチャー従団員に勝った。あとは決勝・・・だが彼の右腕に異変を生じていた。
「ううっ!」
アダムは右手に持った剣を落としてうずくまった。そして左手で右腕をさすっている。
(あの技は腕に負担がかかるのかもしれない。だから1回戦では出せなかった。見たところかなり深刻そうだが・・・)
アリにはそう見えた。魔法使いがヒーリングをかけているが、果たして次の決勝で試合ができるのか・・・。
アリのそばにリーが来てそっと言った。
「アリ! チャンスだな」
「いや、勝負はふたを開けてみるまでは・・・」
「ふふん。相手は右腕を負傷している。勝ったのも同然だ」
リーはアリの肩をポンと叩いて席に戻っていった。確かに絶対的に有利だ。だが相手が弱っているのにそれにつけ込んでいいのか・・・アリは自問していた。
アダムは右腕を動かそうとしているがやはり無理だった。右腕のダメージは回復してもすぐには動かせない。
「決勝。アリ。アダム。前へ」
ついに来た。アダムは右手で剣を持つがもはや腕を上げることができない。仕方がないので左でもって構える。悔しさをにじませながらも必死な顔をしている。彼は幼い兄弟のために最後まで懸命に戦おうとしているのだ。
アリも剣を構えた。
「はじめ!」
合図がかかる。だがアリはなぜか右手が重く感じた。いや、動かせなくなっている。彼女は無意識に右手で持った剣を左手に持ち替えた。すると観客席からざわめきが起こった。
「どうしたんだ!」
「アリも右手を痛めたのか?」
「相手に同情して合わせているのか?」
「ちゃんと右手で戦え!」
多くの声が聞こえてきた。だがアリはそれでいいと思った。
(今は実戦ではない。試合なのだ。右手が使えない相手にそのまま打ちかかるのは卑怯以外の何ものでもない)
アリの心の中は前世のその意識が支配していた。一方、アリの構えを見たアダムははっとして目で訴えた。
(同情をしているのか? そんなものは不要だ!)
それをアリは目で答える。
(これでお互いに十分に戦えるはずだ!)
アダムはアリの意を汲んでうなずいた。そしてアリに向かっていく。お互いに左手ではあったが激しく剣を戦わせて行く。
観客はそんな試合に引き込まれていった。死力を尽くして戦う2人の姿に・・・。繰り出す剣の連続に目が離せなくなっている。
戦いは長時間に及んだ。激しい戦いにお互いが息が切れてきている。そろそろ決着をつけねばならない。動いたのはアダムの方だった。彼は後ろに下がり、腰を落とした。
(くるぞ! 雷落とし!)
アリはそう感じた。それで彼女も腰を下ろし、剣を右腰のあたりにしまうように引いた。左手ではあるが居合抜刀術の構えだ。
「行くぞ!」
アダムが叫んでアリに向かってきた。アリはその間合いに入ってくるのをじっと待ち受けていた。




