第47話 接戦
いよいよ剣技会の日となった。今回はすべて武道場で行われる。まずは見習いの部だ。ピエールや五番隊に移ったルーカスが出る。アリは自分の試合の前だが、見習いの試合を観戦することにした。
ピエールは相変わらず緊張した顔をしている。動きもかなり固そうだ。本来の実力を発揮すれば優勝も夢ではないとアリは思うのだが・・・。
一方、ルーカスは自信に満ちた顔をしている。こんな大会ではその方が実力を出せるのかもしれない。ただし油断しなければ・・・ということになる。
まずはルーカスが一番隊の従団員と戦った。相手は鋭く剣を突き出すが、ルーカスは落ち着いて受けていく。そして相手の剣をはねあげ、突きを加える。
「それまで! 勝者ルーカス!」
危なげない勝利だった。
ピエールの相手は推薦で出場してきた四番隊の従団員だ。大きな体格で上から剣を振り下ろす。まともに打ち合えばそのうち剣を弾き飛ばされるだろう。ピエールはその剣をなんとか避けていた。だがそうしているうちに後ろはもうないところまで追い詰められた。これ以上、逃げられない。
相手はあと少しだとばかりに果敢に攻撃してくる。そこで初めてピエールは剣を受けて横に流した。すると相手はバランスを崩して前のめりになった。ピエールは横に回り、剣を払った。
「それまで! 勝者ピエール!」
薄氷の勝利だった。だがそれでピエールは落ち着いたようだった。
ピエールの次の試合は二番隊の従団員だ。1回戦では流れるような華麗な技を披露していた。今度は打ち合いになった。剣で攻撃しては受け、攻撃しては受け、それを繰り返した。それが延々と続く・・・。そうなるとピエールの粘りは強い。やがて相手が疲れて剣の動きが鈍くなったところを突きで仕留めた。
勝つには勝ったがかなり消耗している。肩で息をしてかなり辛そうだった。
ルーカスの2回戦は本部付きのビッケルだ。もともと剣の重さが彼の持ち味だが、その鋭さも増している。ビッケルはここで優勝して従団員への昇格を目指している。もちろんオーガ副団長がはっぱをかけているからその気合はすさまじい。
「はじめ!」
号令がかかった。アリの見るところ、ビッケルが先制攻撃を狙っているのを感じた。すると案の定、
「キエー!」
といきなりビッケルは奇声とともに打ちかかっていった。だがルーカスはそれを見越していた。相手が出てくるところを間合いを詰めて斬りかかった。
「それまで! 勝者ルーカス!」
瞬殺だった。あまりの見事さに拍手が起こった。いよいよ次は決勝である。ルーカスとピエールが戦う。因縁の対決だ。
(見事だ。さすがはルーカスだ。今まで一分の隙もない。この調子ではルーカスが優勝だが・・・)
アリはそう見ていた。それに前の試合から時間が短かったからピエールの息はまだ乱れたままだ。それに対してルーカスは瞬殺で決めたから体力に余裕がある。
「ルーカス。ピエール。両者前に」
ルーカスとピエールが向かい合い、礼を交わして剣を構えた。
「はじめ!」
審判の声がかかる。ルーカスはピエール相手でも油断がない。いやピエールだからかえって慎重になっていた。すぐに飛び込むことなく相手の様子をフェイントで探っている。ピエールの方は息が整わないらしく、剣先が揺れている。
ルーカスはその状況から「勝てる」と踏んだようだ。攻撃を仕掛けてきた。突きから斬り、横払い・・・連続技が来る。ピエールは何とか剣で受け止めていた。だが反撃する暇はない。形勢不利なまま後ろに押されている。
(まずい。ピエールの息が上がっている)
アリにはそう見えた。長期戦になればなるほど今度はピエールが不利だ。彼は気力を振り絞って戦っている。そこまで来たらルーカスは決めにかかるのだが、今回はそうしない。あくまでも勝ちにこだわり、慎重に相手を追い詰めている。
(ピエールの剣は堅実だ。大きな賭けに出ない。だからこうなってはジリ貧となり、やがて剣が動かなくなりやられるだろう。彼が死力を尽くしたとしても・・・)
そうならないためには大胆な手が必要だ。それがピエールにできるのか・・・アリはそう思いながら見ていた。
やがてピエールの剣の動きが格段に悪くなった。そして剣が下がってきた。そろそろ限界のようだ。ルーカスはそれを察して一呼吸おいた。これから最後の連続攻撃をかけようというのである。
だがその一瞬をピエールは見逃さなかった。急に前に出て反撃の突きを放った。それと同時にルーカスが攻撃を仕掛けていった。
勝負はついた・・・はずだった。両者の剣が相手をとらえていたからだ。問題はどちらが早かったかということだった。アリには同体に見えたが・・・あとは審判の判定次第だ。。結果がどうなったかと会場内に一瞬、静寂が訪れる。
「それまで! 勝者ルーカス!」
ルーカスがわずかに勝ったのだ。彼は拳を握りしめてうれしそうにしている。一方、ピエールは完全に疲れてしまいその場に座り込んでいた。
アリは観客席から下りて行き、ピエールを立たせた。
「よくやりました。立派でした」
「アリさん。すいません。僕は負けてしまいました」
「いいえ。いい勝負でした。相手を讃えてやろう」
アリはそう言ってルーカスの方を見て声をかけた。
「優勝おめでとう!」
だがルーカスは鼻で笑っていた。
「ふん! これで僕の実力がわかったでしょう! あなたがしたことは忘れない! ずっとだ!」
そう言ってルーカスは引き上げて行った。アリはそっとため息をつきながら、
(ルーカスのかたくなな心を解きほぐすにはまだ時間がかかりそうだ・・・)
と思っていた。




