第45話 反抗
次の日のことだった。ルーカスがサイト隊長の部屋にいきなり来た。その表情は険しかった。すでにサイト隊長はリーやアリから昨日の試合の様子についての報告を受けていた。もちろんルーカスの態度についても・・・
「ルーカス。昨日の君の態度はどうだ? 潔く負けを認めたらどうなんだ」
だがルーカスに反省の色は見えない。その手に持った封書を机の上に置いた。
「転属願いです。隊長。短い間でしたが配属を変えさせていただきます」
「いきなり何を言っている?」
「五番隊配属となりました。ダダ隊長にすべて取り計らっていただけるようです」
「なんだと?」
サイト隊長は驚いた。こんなことがまかり通るのか・・・。
「ダダ隊長は僕に同情していただき、団長に話を通していただけるそうです。僕はこれで失礼します」
ルーカスはそれだけ言って一礼するとドアの方に向かった。
「待て! ルーカス!」
サイト隊長は呼び止めたが、ルーカスはそのまま部屋から出て行ってしまった。
このことは三番隊に大きな影を落とした。特にアリにはショックだった。ルーカスもピエールと同じように指導してきたのだ。確かにルーカスの剣の腕は目を見張るものがある。だが慢心してはそれは生かせない・・・ピエールの負けた彼にはわかったと思ったのだが・・・。
(自尊心が強かった・・・。ルーカスを傷つけてしまった・・・)
アリは少なからず後悔した。もう少し別の方法で気づかせるべきではなかったかと・・・。
(私は配慮に欠けることがあるのかもしれぬ。前世でもそうだった。糸殿をあれほどまでに怒らせてしまった・・・)
アリは嘆息していた。
一方、サイト隊長はカンカンだった。五番隊のダダ隊長に話をつけに行った。だがすでにそれを見越してダダ隊長はカルヴァン団長やオーガ副団長を味方につけていた。
ダダ隊長の部屋にはカルヴァン団長とオーガ副団長がそろっていた。サイト隊長は部屋に入るなり大声で訴えた。
「2人ともそろっているのか。それはちょうどいい! 話を聞いてもらおう! 剣技会に出るために見習い同士で試合をさせた。そこで ルーカスは負けたのだ。それを不服に思って五番隊に転属するとはどういうことだ? そんなことを認めていいのか?」
「それは本人の希望ですから。ルーカスが五番隊に来てくれるというなら歓迎するだけだ」
ダダ隊長はやんわりと答えた。サイト隊長がさらに文句を言おうとすると、カルヴァン団長が制した。
「三番隊では剣の腕を正当に評価してもらえないと訴えている。だからダダが引き受けたのだ。いまさらルーカスを戻したところでわだかまりがあるだろう。ここは引いてくれ」
さらにオーガ副団長が言った。
「あまり騒ぎ立てるとアリがかわいそうだ。指導官としての責任を取らせねばならない。ここはそっとしてくれ」
そう言われてサイト隊長はぐっと怒りを抑えて引き上げてきた。それでルーカスが五番隊に転属することが正式に認められた。
だがそれだけではなかった。剣技会の見習いの部にルーカスが五番隊の代表として出場するという。元々、五番隊は剣と魔法を使って敵を制する。そのため剣だけの戦いとなる剣技会では分が悪い。そこでルーカスにひと働きしてもらって、五番隊が栄誉を得ようとしたのかもしれない。
アリも従団員の試合に出るからそれに備えねばならない。あれ以来、アリは剣の鍛錬に気が入らなかった。ルーカスのことが気にかかるのだ。
そんな時、偶然、庭でレイクに会った。彼は見習いの時、宿舎でアリと同室だった。
「アリじゃないか。久しぶりだな」
レイクがアリを見つけて声をかけてきた。彼は従団員の制服を着て剣を下げていた。
「レイクさん。従団員になられたのですね。おめでとうございます」
「ありがとう。俺もやっと追いついたよ。五番隊にいる」
「五番隊ですか・・・。あの・・・ルーカスはどうしているでしょう?」
アリは聞いてみた。
「ルーカスはがんばっているよ。でもアリといろいろあったみたいだな」
「はい。よかれと思ったのですが、すべて裏目に出たようで・・・」
「そうかもしれないが、ルーカスはかなり頭に来ているようだ。剣技会で優勝して見返すと言っていた」
アリの方は特に遺恨はない。ルーカスが慢心せず剣の腕を磨いてくれたらいい・・・そんな気持ちだった。
「五番隊の皆はルーカスを応援している。だから君を目の敵に思うものも多い。いや他の隊でもルーカスを同情する者もいるそうだ」
そしてレイクは声を潜めて言った。
「俺も聞いているんだ。うわさ話を。君がルーカスを気に入らないからと言って目の敵にたり、傲慢な態度で彼に当たったこと、彼の実力を認めずに剣技会出場を妨害したこと、いろいろと聞いている。そんなことはないと思うが・・・」
ルーカスか、またはルーカスから話を聞いた者があちこちであることないこと吹聴しているようだ。それを聞いてアリは気が重くなった。
「君も恨まれて大変だな。みんなが君を白い目で見るかもしれない。じゃあまた」
そう言ってレイクは行ってしまった。アリはため息をつくしかなかった。




