第41話 指導官
アリは15歳になった。そして三番隊に新しい見習いを迎えることになった。ルーカス・フレイザーとピーター・ウィルソンという2人の青年だ。ルーカスと言えば以前、アリが出場した剣術大会の決勝で戦った相手だ。3年連続優勝を逃したが、聖騎士団にはいることができた。
新入りを誰が面倒を見るか・・・従団員筆頭のリーに任された。彼はそれをアリに頼んだ。あの事件以来、アリに一目置くようになっていたからだ。
「アリ。指導官として新入りの面倒を見てくれ」
「しかし従団員の中では僕が経験が浅いのですが・・・」
「いや、アリならできる。今まで見てきたが、アリは一人前の大人の男だ。15歳とは思えないほどだ」
確かに前世での経験を入れるとそうなるだろう。アリは断り切れずに引き受けてしまった。
(どうやって指導していったらいいのだろう・・・)
アリは考えた。自分の時のように放任してみるか・・・いやいやあれは本部だからできるのであって、この三番隊にはふさわしくないように思えた。
(とりあえずやってみるか。前世でも新入りの小姓の面倒を見たことがあるのだから・・・)
アリはそう思って新入りの前に出た。
「僕は従団員のアリ・ローザンだ。アリと呼んでください。君たちを指導することになった」
「新しく見習いで配属になったルーカス・フレイザーです」
「同じく、ピーター・ウィルソンです。よろしくお願いします」
2人とも堂々として緊張している様子はない。
「まずは剣の型から教えたいと思う。構えには・・・」
アリがそう言いかけるとルーカスが手を挙げた。
「アリさん。型ならみっちりと練習してきました。私は剣には自信があります。もっと他のことを教えていただけませんか?」
「他のこととは?」
「実戦的なことです。魔獣に対してどう戦うか? アリさんは数々の実戦を潜り抜けてきたと聞いています。私は早く任務に就きたいのです」
ルーカスは自信満々だった。自分はすぐに役に立つと考えているようだ。
「わかりました。では僕に打ち込んできてください。そこの訓練用の剣で」
ルーカスには剣を持たせたが、アリは剣を持たずにただ立っていた。
「剣を持たれないのですか?」
「ええ。それがどうかしました?」
「しかしそれでは・・・」
「いいから打ち込んでください」
ルーカスは遠慮がちに打ち込んできた。それをさっとアリは避ける。
「さあ、どうしました? 僕は避けられますから」
ルーカスはなおも剣を振り回してくるが、アリにはかすりもしない。彼は次第に本気で剣を繰り出していく。
(当たらない。そんな馬鹿な・・・)
ルーカスは信じられなかった。遠慮なく打ち込んでいるはずなのだが・・・。
「もういいでしょう。ルーカスさん。あなたの剣ではかわされてしまうのです」
「そ、そんな・・・」
「あなたはこう思っていたでしょう。以前、僕と剣術大会で戦った。負けたものの腕の差は大きくないと。でもあれからの鍛錬でこれだけの差がついたのです」
「僕は一生懸命、鍛錬しました。その次の剣術大会では優勝したのです。圧倒的な強さで!」
ルーカスは剣についてはかなりの自信があったのだ。
「それはあくまでも剣術の話です。この聖騎士団では実戦で命を懸けているのです。ですから懸命に鍛錬しているのです。これがこの差です。ここでは生半可では務まりません」
アリは言って聞かせた。ルーカスは鼻っ柱を折られてしゅんとしていた。
「でも大丈夫です。これから鍛錬して行けばこの聖騎士団でやっていけます。僕について来て下さい」
「わかりました」
ルーカスはうなずいた。それを見てアリはほっとしていた。
それからはアリは新入りの教育にかかりきりになった。剣術大会の優勝経験のあるルーカスはすでに《出来上がっている》。ある程度までは上達するが、それ以上の上積みは少ないとアリは見ている。
一方、ピエールはルーカスの陰にいて目立ちにくい。剣の腕もまあまあと言ったところだ。だがアリは見抜いていた。彼は剣の才能においては申し分ないと。確かにアリが指導して上達が早く、日に日に剣に鋭さが増している。
(足りないのは自信か・・・)
アリにはそう見えた。だからピエールは何事にも優柔不断だ。それが剣に現れてくることがある。
(実戦に連れ出してみるか。そうすれば一皮むけるかも・・・)
アリはそう思ってサイト隊長の許可を取った。出動の時はルーカスとピエールを連れて行くことを・・・。
その機会はすぐに来た。近くの街に魔犬が現れたというのだ。最近では魔犬の出没は珍しくなくなった。週に2,3度はこうしたことがある。今回は数匹だけらしいので三番隊の一部だけで対処することになった。早速、アリは2人を伴って偵察に出た。
ルーカスもピエールも緊張している。無理もない。魔獣と始めて対峙するのだから・・・。アリは2人に言ってやった。
「魔獣と言っても過度の恐れる必要はありません。もちろんなめてかかるのはだめですが・・・。慎重に冷静になって対処すれば必ず倒せます」
それでも人の緊張は解けない。魔獣と遭遇して慣れるしかない。
やがて魔犬が目の前に現れた。実戦のいい機会だ。
「剣を抜け!」
アリの指示でルーカスとピエールが剣を抜いた。
「さあ、魔犬が襲ってくる。2人で倒せ!」
アリがそう言うや否や、魔犬が向かってきた。ルーカスは剣を振るって魔犬を斬ろうとする。だが・・・ピエールは立ち尽くしたままだ。彼は魔犬の恐怖で固まってしまったのだ。
「どうした? ピエール! 魔犬を攻撃するんだ!」
アリは声をかけたが、ピエールは動こうとしない。よく見ると足までが震えていた。とても戦える状態ではなかった。
一方、ルーカスは剣を振るい、何とか魔犬を斬った。
「ウギャン!」
魔犬は悲鳴を残して灰になって消えていった。確かな手ごたえを感じたルーカスは緊張が解けてニヤリと笑った。初めての実戦にしては上出来だった。
だがピエールは放心状態のままだった。




