第39話 帰還
アリはコリンの遺体が運ばれているのを呆然と見ていた。そこにキタ隊長が来た。
「仲間を失って気の毒に思う。だがどうしてローニ通りに来たんだ?」
「えっ! キタ隊長から命令を受けましたが・・・。僕にローニ通りに応援に行くようにと。コリンさんは心配でついて来たのです」
それを聞いてキタ隊長は首を傾げた。
「おかしい。そんな命令は出していない。君はそんな命令をどうやって受け取ったんだ?」
「見習いのマックスが伝えに来ました」
「マックス? そんな名前の見習いはいない」
「えっ! それでは一体・・・」
アリは絶句した。偽の命令で動いていたことを知った。誰かが彼女を陥れようとしていたのだ。偽の見習いまで使うという手の込んだこともして・・・。
(もしかしてあの手紙の主か・・・。ここまでするとは・・・)
アリは拳をぎゅっと握りしめた。一方、キタ隊長は腕組みをして考えこんだ。
「う~む。こんなことまで・・・。アリ。このことは他言無用だ。君たちは魔獣と戦っているうちに偶然ここに迷い込んだ・・・そんなことにしておいてくれ。いいかね?」
「はい。わかりました」
キタ隊長には何か考えがあるのだろう・・・アリはそう思って承諾した。
そこにマリウスが来てキタ隊長に報告した。
「隊長。警備隊の者たちと引継ぎが終わりました。撤退のご命令を・・・」
「よかろう。みなご苦労だった。戻るぞ!」
キタ隊長はそう周囲に声をかけて歩き出した。マリウスもその後ろからついて行こうとしていた。アリに声もかけずに・・・。
「マリウスさん」
アリが呼び止めた。マリウスがさっと振り返った。
「お礼を言っていませんでした。ありがとうございます。おかげで助かりました」
「君に礼を言われることはない。当然の任務を果たしただけだ」
「いえ、あなたは一人で助けに来てくれました。危険を顧みず・・・」
その時こそ、マリウスが頼もしく感じたことはない。
「ただ僕は・・・」
「わかっています。またあなたと剣を交える日を楽しみにしています」
アリはやさしく微笑んだ。これにはマリウスが少しドギマギしていた。以前から変にアリのことを意識していたが、こんな反応を起こすとは彼自身、思ってもみなかった・・・。
「い、いや・・・では僕は行く」
マリウスはまるで逃げるかのように、プイと背中を向けて歩いて行ってしまった。その後姿を見ながらアリは思っていた。
(女に微笑まれただけで・・・まだ初々しさがあるな。しかし魔猿たちを倒した剣の技のキレ、身のこなし。そしてあの必殺技・・・見事だった・・・)
その姿がアリの脳裏に焼き付いていた。
◇
一番隊の作戦で多くの魔猿はローニ通りに誘い込んだ。だが中にはその封鎖を突破する魔猿もおり、三番隊と戦闘になった。数はそれほど多くなかったため、それ以上、中に侵入させなかったが、執拗に攻撃を繰り返す魔猿にケガをする団員も少なくなかった。
魔猿撃滅の報告を受けて三番隊はロンチェスター寺院に戻ってきた。
三番隊の隊舎の前には魔法使いが待っていた。魔獣との戦闘でケガ人が出たというので、その治療ために集められたのだ。その中にはエレーヌがいた。
(アリがケガをしてないといいのだけど・・・)
彼女はそう思っていた。
三番隊が戻ってきたが、その中にアリはいなかった。
「アリは・・・アリはどこですか?」
エレーヌは帰ってくる団員に聞き回った。
「さあ、わからない」
「途中から行方が分からくなった」
「配置になった場所にはいなかった」
と答えが返ってくるだけだった。相棒のコリン・ハリス従団員も同じく行方が分からない。そして戦闘で三番隊の従団員の殉職が伝えらえてきた。
「アリが・・・アリが・・・」
エレーヌは目の前が真っ暗になった。魔獣との戦いでアリが死ぬわけがない・・・そう信じていた彼女は膝をついた。
「アリ・・・」
涙さえこぼれてきた。すると背後で、
「エレーヌさん」
と呼ぶ声がある。まさかと思いながら振り返ると、そこにはアリが立っていた。
「アリ、本当にアリなの。生きているの?」
「ええ、大丈夫ですよ」
アリは不思議そうな顔をしていた。
「よかった! 生きていたのね!」
エレーヌは思わずアリの胸に飛び込み、抱きしめていた。これにはアリは困惑した。
「エレーヌさん。どうかしたのですか?」
「死んだって・・・。私、どうしようかと思ったのよ」
「生きてますよ。心配かけたようですみません」
アリが平然と答えるので、エレーヌは何だか馬鹿馬鹿しくなってアリから離れた。
「どうして生きているのよ!」
「どうしてと言われても・・・。マリウスさんに助けられたのです」
「やはりマリウス様ね。あなたなんかと大違いよ! 心配なんかしていないから!」
「はあ・・・」
アリはため息をついた。やはりエレーヌには嫌われているようだと・・・。
「ケガしているじゃない。診せなさい」
「いえ、かすり傷ですから・・・」
エレーヌに女であることがばれてしまうから、アリは服を脱いで傷を見せることができない。
「いいから診せなさい。恥ずかしいの? 柔らかい体をしていたわね。あまり鍛えていないんじゃない?」
アリはドキッとした。鍛えてはいるが女性の体だ。男性並みに筋肉隆々とはならない。エレーヌが気づいてしまうかも・・・。
すると、
「アリは私が診るわ」
とモウ先生が声をかけてくれた。
「エレーヌ。他の人を診てちょうだい」
「私はアリを・・・」
「いいから。アリは少し体が特殊なのだから・・・」
モウ先生はそうごまかした。それでエレーヌはあきらめてケガをしている別の団員の治療に向かった。
「アリ。ご苦労様」
「先生。相棒のコリンさんが殉職しました・・・」
「聞いたわ。お気の毒だったわ」
「僕のために・・・」
「アリのせいじゃないわ」
「いいえ。僕のせいなんです。僕は誰かに狙われているのです。それで罠にはまって・・・コリンさんが犠牲になったのです」
「そんな・・・」
モウ先生は信じられなかった。アリが狙われているとは・・・。
「僕はその者を決して許さない。きっと見つけ出してやります!」
アリはモウ先生にはっきりそう言った。




