第37話 悲劇
アリとコリンはローニ通りに向かっていた。だが現場に近づいても戦っているような音は聞こえて来ない。
(何か変だ。だが気配を感じる。これは魔獣だ。かなりたくさんいる)
アリはローニ通りの異変を感じていた。一方、コリンはそのままローニ通りに突っ込んだ。そこで団員が魔獣と戦っていると・・・。
「あれ! おかしいな。誰もいない」
ローニ通りは静まり返っていた。通りの左右は建物の壁が続き、その先は行き止まりだ。身を隠すところはない。追いついてきたアリが言った。
「いや、いる! 確かにいる! 注意してください!」
すると魔猿が右の屋根の上に出てきた。1匹。2匹、3匹・・・左もそして正面も・・・周囲の屋根の上に次々に現れた。
「アリさん! これはまずいです。退きましょう」
「そうですね」
アリが振り返ると。来た道にもう魔猿が充満している。
「しまった! 逃げ道をふさがれた!」
「アリさん。どうします?」
「とにかくここを脱出しないと・・・」
アリがそう言いかけた時、魔猿が襲ってきた。アリとコリンは剣を抜いて迎え撃った。魔猿は有利と見て今度は引かない。次々に攻撃を仕掛けてくる。
「こうなったら破れかぶれだ!」
コリンは剣に鎖をつけて勢い良く回し始めた。それで近づく魔猿は斬られていく。一方、アリは剣を両手持ちにした。こうした方が前世での敵に囲まれた戦いを思い出し、しっくりくる。2人の奮闘でまだ退路は開けないが、魔猿はかなり斬った。
(だがこれではいつかは力尽きるかもしれない。根競べだな・・・)
◇
ローニ通りがにわかに騒がしくなった。その近くにいたマリウスは訝しげに思った。
(魔猿をその地区に追い詰めた。まだどの隊も弓射隊も攻撃していないはず。それなのになぜ? 魔猿同士がけんかを始めたのか?)
するとそこにグスタフ従団員が報告に来た。
「大変です! ローニ通りで交戦中。どうも団員らしいのです。人数は2人」
「誰かわかるか?」
「いいえ。しかし一番隊の者ではなさそうです。他の隊の者かと」
「どうして2人はそんなところに? 命令は出ていないはずだ」
マリウスは(しまった)と思った。魔猿をローニ通りに集めた。それはそれでよかったが、まさかそんな場所に突入していく無謀な者がいるとは思いもよらなかった。そうならないように一番隊の団員で周囲を固めておくべきだった・・・。
「僕が見てくる!」
「危険です。せめて弓射隊が来るまでお待ちください」
グスタフ団員は止めようとする。だがマリウスはこの状況に責任を感じていた。この場を指揮していた身としては・・・。
「ここの指揮はレーマン正団員に任せる。彼にそう伝えてくれ。あとを頼むぞ!」
マリウスは単身でローニ通りに駆けて行った。
◇
アリとコリンは苦境に立っていた。あまりにも魔猿の数が多すぎた。斬っても斬ってもきりがない。この絶望的な状況にアリには覚えがある。
(あの前世での最期の戦いと同じだ。宮川英正の軍に屋敷を囲まれた。すでに逃げ場などなく多数の兵が押し寄せてきた。私は懸命に戦い、殿のために時間を稼ごうとした。できるだけ長く・・・。すでに覚悟を決めていた。だが今回は・・・)
魔猿をただ叩き斬るだけである。ここで死んだら犬死ということも分かっている。だからここから脱出せねばならない。
(死ぬのはたやすいが生きるのは難しいものだ・・・)
あらためてそう感じられる。一方、コリンは鎖のついた剣を振り回していたが、その顔にあきらめの表情が浮かんでいた。
「コリンさん! あきらめてはだめだ!」
「わかっております! しかしこれでは・・・」
その時だった。奮闘する2人の前に大きな影が下り立った。邪悪な殺気をまき散らして・・・
「こいつは・・・魔大猿か・・・」
コリンがつぶやいた。魔猿の2倍ほど大きい。しかもその拳は巨大だ。それをアリに向けて振り下ろしてきた。
「バーンッ!」
アリは後ろに飛んで下がったが、足元の地面が陥没している。魔大猿の拳の威力はすさまじい。それを食らえばひとたまりもないだろう。
「ここに来て大物が出てくるとは・・・」
アリは額の汗を左手で拭いた。先ほどまでの戦いで体はとうに悲鳴を上げている。
周囲の魔猿は巻き添えになるのを恐れて屋根に上がった。自然に退路は開けたが、魔大猿に背を向けることはできない。後ろを向いた途端、背中にパンチを食らうのは必定だ。この上は・・・コリンは覚悟を決めてしまった。
「さあ、アリさん。行ってください! ここは私が奴の足を止めます!」
「そんなことはできません! コリンさんを置いて・・・」
「いいから行ってください! あなただけでも・・・」
コリンは勢いよく剣を回しながら魔大猿に突っ込んだ。少しでもおびえさせて後ろに下がればアリが脱出できるだろうと・・・。だが魔大猿は恐れることもなく構えている。
「それなら食らえ!」
鎖のついた剣は見事に魔大猿の左胸に突き刺さった。
「ウギャア!」
と魔大猿が悲鳴を上げる。
「やったか!」
コリンは手ごたえを感じていた。だが魔大猿は
「ウゴー! ウゴー!」
と咆哮して右手で刺さった剣を引き抜いた。その傷は心臓まで達していない。
「それならもう一度」
コリンは鎖を手にして剣を手繰り寄せようとするが、魔大猿が左手でその鎖をぐっと引き寄せた。
「あっ!」
コリンは前のめりになって前に倒れた。魔大猿はジャンプして、奪った剣をコリンの背中から串刺しにした
「うわあ!」
コリンが悲鳴を上げる。魔大猿はそれに満足せず、何度もコリンを刺した。
「コリンさん!」
アリは魔大猿に駆け寄った。




