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前世の執着を背負った剣の達人の武士が、異世界に生まれ変わって聖騎士団で活躍します。女ですけれど・・・  作者: 広之新


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第36話 応援要請

 三番隊は一番隊の後ろに配置された。撃ち漏らした魔猿をここで阻止するためだ。だが魔猿は屋根を伝って移動しており、捕捉するのが困難だった。


「2人1組になって広く散開しろ! 魔猿を見つけたらすぐに攻撃! 手に余るようだったら大声を出して応援を呼べ!」


 サイト隊長は部下にそう伝えた。それでアリはコリンと組んで三番隊の左翼に回った。


(隊全体で戦うのは初めてだ・・・)


 アリははやる気持ちを抑えて心を落ち着かせていた。大掛かりな戦闘は前世での山崎川の合戦以来となる。あの時は殿のおそば近くに仕えていたが、右翼の隊の劣勢に急遽、兵を率いて応援に駆けつけたものだった。その時は殿から「丈一郎! 手柄を上げて来い!」と槍を授けられたのだった・・・


 そんな記憶がふと頭の中に浮かんだ。その時の興奮が体を駆け巡る。一方、コリンは落ち着いている。今まで見習いだったとはいえ、いくつものこのような戦いを潜り抜けているからだろう。


「アリさん。魔猿の戦闘力はあまり高くない。しかし屋根に登ったり、走ったり、飛び回ったりしてとらえにくいのです」

「それは困ったな。剣が届かねばどうにもならない」

「だから私はこうです」


 コリンは剣を見せた。柄の部分に細い鎖がつながっている。


「これは?」

「前にもお見せしましたが、実は私は剣を投げるのが得意なのです。隊長は『剣士が剣を放ることはよくない』とあまりいい顔はされませんが・・・。魔猿には有効でしょう」


 コリンは投げた剣で魔猿を攻撃して、その回収のために鎖をつけている・・・アリはそう思った。だがそれは違った。


「魔猿です!」


 コリンが民家の屋根を指さした。確かに大型の猿が数匹いた、牙をむき出しにして両手の爪は鋭い。威嚇しながら屋根から飛び降りて向かってくる。

 アリは剣を抜いて斬りつけたがかわされてしまった。かなりの反射神経だ。さらに斬り込もうと追いかけるとさっと退いて屋根に上る。こうなっては手出しができない。

 だがコリンは剣を投げつけた。それは油断していた魔猿の一匹に突き刺さり、それは消えていった。


「よし!」


 コリンは鎖を引いて剣を回収した。その隙に魔猿がコリンに襲い掛かる。だがコリンはあわてない鎖を剣ごと回して魔猿を攻撃する。鎖鎌とは違うし、前世でもこんな戦い方をアリは見たことがない。


「うまいもんでしょう! 練習しましたから」


 コリンは得意げに言った。それでその辺の魔猿は別の場所に移動していった。


 そこに見習いの制服を着た団員が来た。アリは始めて見る顔だった。


「ローザン従団員。 一番隊のマックスです。応援をお願いしたく・・・」

「僕にですか?」

「はい。そうです。隊長からです。この先のローニ通りに魔獣が出現して応援が必要です。ぜひ来ていただきたいと」

「一番隊のキタ隊長がそう言われたのですね」

「はい。お伝えしましたので、これで・・・」


 マックスと名乗ったその見習いは去っていった。これは異例のことだった。別の隊の隊長が従団員に直接応援を頼んでくるとは・・・


「よほど切羽詰まっているようです。私も同行しますからすぐに行きましょう」


 コリンはそう言った。


 ◇


 一番隊は真っ先に現場に来て魔獣と対峙してきた。今回の敵は多数の魔猿であり、退治するのが難しい。現場近くの建物の1室で待機するキタ隊長は、情報を集めているテイト正団員に尋ねた。


「魔猿の様子はどうだ?」

「なんとかあちこちに行かないようにしています。封鎖はまずまず成功しているようです。後ろには三番隊や五番隊が配置されていますので内部には侵入されないと思われます」

「それでいい。では魔猿を作戦通りに集めるようにしろ。それで何とかなる 弓射隊はまだか?」


 弓射隊は王立軍に属する。魔猿の出現にキタ隊長は協力を要請していた。


「到着まではまだ時間がかかるようです」

「ヨードル隊長か・・・。聖騎士団に対抗意識があるからな。あまり乗り気ではないようだな」


 聖騎士団は王立軍と反目している。これはつまらない権力争いからだった。だから協力を頼んでもその動きは緩慢なことが多い。


「なんとかマリウスがうまくやってくれたらいいが・・・」

「それは大丈夫でしょう。マリウスなら。本部からの作戦ではローニ通りに集めよということだけしたので」


 現場にいるマリウスたちが積極的に魔猿と戦うことはない。被害が最小限になるように一番隊にはカルヴァン団長の作戦が伝えられていた。ローニ地区に集めてから弓矢で撃退せよと


「その地区の民の避難は終わっているか?」

「はい。そこには魔猿が充満していることでしょう」

「間違ってそこに誰も侵入させないようにしろ。他の隊の者が間違って足を踏み入れたら大変だ。あの数の魔猿ではすぐに殺されてしまうからな」

「現場にすぐに伝えます」


 テイト正団員が部屋を出て行った。キタ隊長はイスから立ち上がって窓の外を見てみた。街はまだ静けさに包まれていた。これから作戦が発動されれば、大きな騒ぎになるだろう。


「これで魔猿は一掃される」


 キタ隊長はこの作戦の成功を確信していた。だが彼は思ってもいなかった。そのローニ地区にアリとコリンが向かっていることを・・・。


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