第35話 事情聴取
アリは団長室に呼ばれた。ノックしてドアを開けると、そこにはカルヴァン団長とオーガ副団長、そしてサイト隊長がいた。
「アリ、そこにかけてくれ。先日の件で話を聞きたい」
カルヴァン団長にそう言われてアリはイスに座った。
「旧カーズ公爵邸、通称、幽霊館に行った件だ。そこである人物に会っているな?」
「はい。黒いローブを着た中年の男がいました。ミハイルと名乗っていました」
するとカルヴァン団長たちの表情に動揺が走った。
「ミハイルと確かに名乗ったのだな」
「はい」
「うむ。そいつが魔獣たちを操っている黒魔術師だ。恐るべき破壊思想の持ち主だ」
やはりカルヴァン団長たちはミハイルをそう見ていた。
「その男と何を話した?」
いよいよ核心部分を突いてきた。
「王都の現状についての不満を言っていました。王様についての批判も」
「そうか。ところでアリ、君はどう思った?」
アリは一瞬、戸惑った。王都の裏の姿を知って批判する気持ちはある。だが・・・王様直属の聖騎士団の団員はそのような考えを持つことはふさわしくないとこの世界の者は考えているのだろう。特に聖騎士団の幹部は・・・。
「僕は聖騎士団です。王様に忠誠を誓っています」
アリは批判を避けてそう言った。それは嘘ではないから。
「うむ。その心構えはよい。それを忘れぬようにな」
カルヴァン団長はそう言った。彼ら幹部はアリがミハイルに仲間になるように誘われたとは全く考えていないようだった。
あとは戦いの状況を聞かれた。悪魔熊が出て来て苦戦したが、コリンが剣を投げて悪魔熊の左目をつぶしたこと、それでミハイルがその場を去ったことなど・・・。
「うむ。よくわかった。他の者の事情聴取もした内容と合わせると、今回はミハイルや悪魔熊を撃退したのは大きい。このことは考慮に値する」
それでアリへの事情聴取は終わった。アリはほっとした半面、正直に自分の考えを言わなかったことにすっきりしない気持ちが残っていた。
◇
しばらくして関係者の処分があった。リーとホールとクラークには戒告処分となった。独断で幽霊館に乗り込んだアリは幸いにもお咎めがなかった。ミハイルや悪魔熊を撃退したからであった。そしてコリンは・・・。
「アリさん! 信じられないです!」
コリンはサイト隊長の部屋から出て来て、アリのところにまっすくに来た。
「どうしたのですか?」
「従団員になれたのです!」
「それはおめでとうございます」
悪魔熊を撃退したことで評価が上がったのだろう。
「俺は見習いのままだったから。もう従団員になれないと思っていたのに・・・」
「よかったですね。これでまた活躍できますよ」
「それが・・・私はこれを機に聖騎士団をやめようと思うのです」
「えっ! どうしてですか?」
アリは驚いた。従団員になっていよいよこれからという時に・・・。
「いい潮時だと思ったのです。長いこと勤務していた自分の限界を知りました。それに王都の現状を見ていたら・・・」
それが一番の動機かもしれない。自分の力では王都を変えられないという。
「田舎に帰って畑を耕します。父や兄の手伝いもあるでしょうし。まあ従団員になったら田舎では尊敬されますからね」
コリンは笑顔で言った。聖騎士団に未練はないようだった。
「しばらくは従団員として勤務します。アリさん。もう少しですがよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ」
アリはコリンと握手した。その手からもうれしさが伝わってくる。
「では、また後で。荷物の整理がありますから」
コリンはそう言って戻っていった。
(おや?)
アリは一瞬だがコリンの後ろ姿に黒い影を見た。不吉な気配が・・・・。
(いや、そんなことはない。コリンはここを辞めて田舎で暮らすのだから)
アリは嫌な想像を打ち消していた。
◇
その日、王都の南西部に魔獣が出現したという情報が聖騎士団にもたらされた。それを受けて一番隊がすぐに出動していった。
その後、一番隊から報告が入った。魔獣は魔猿タイプで王都の南西の高い塀を乗り越えて侵入したという。民家の屋根伝いに移動しているため、早急な撃退は難しいという。本部のカルヴァン団長は作戦室のテーブルに地図を広げた。
「南西というと森のある方向か・・・」
「そこには猿がいて、たまに王都の壁を越えて民家に侵入することがあります」
プレゼ正団員が地図を指さした。
「するとその猿が魔獣化したわけか・・・」
オーガ副団長が顎に手をやってつぶやいた。
「一番隊に現場に向かわせているが、応援が必要だな」
「三番隊と五番隊をその後方に配置させたらいかがでしょうか? これ以上、内部に侵入させないために」
作戦担当のバイエルン正団員が提案した。
「そうだな。魔猿としたらあちこちに飛んでいくかもしれない。ロウ。モーガン。それぞれ三番隊のサイト隊長と五番隊のダダ隊長に命令を伝えてくれ」
「わかりました」
ロウ従団員とモーガン従団員が作戦室を飛び出して行った。こうして三番隊のアリたちが出動となった。




