第34話 匿名の手紙
「君が三番隊に配属されると決まった日だった。詰め所に匿名の手紙が投げ込まれた。そこには君がクロス・ロックをはめて魔獣と戦わせて死に至らしめたこと。それを利用して従団員になったことが書かれていた。クロスと言えば前隊長の弟だ。僕たちは許せなかったんだ。それで徹底的に無視したり、つらく当たったりして君を居づらくしようと従団員と見習い全員で相談した・・・」
自分の知らないところでそんなことがあったのか・・・アリは「ふうっ」と息を吐いた。それで合点がいった。三番隊でそんな目に遭ったことが・・・。だが・・・
(その手紙の主は私を聖騎士団から追い出そうとしたのだろう。以前、クロスや私に送ってきた手紙の主と多分、同一人物だ。誰なんだ? 私を貶めようとするのは・・・)
リーはさらに話した。
「昨日、また手紙が投げ込まれた。この幽霊館に君を誘い込めと。さすがにおかしいと感じて、一人では心もとないからホールとクラークには事情は話さず、ついて来てもらった。そして中を調べるためにここに忍び込んだんだ・・・」
手紙の主はアリを幽霊館に誘い込むように仕向けたのだ。アリはそれがミハイルではないような気がした。アリの排除をもくろむ何者かが・・・
この聖騎士団にアリを快く思わず追い出そうとする者がいるのは確かだ。その者はアリの秘密を知っている・・・だがアリにはそれが誰なのか、全く思い浮かばない。
アリが考え込んでいると、コリンが声をかけた。
「とにかくここを出ましょう。みんなが心配していますから」
「ええ、そうしましょう」
リーはまだ少し体がしびれていたから、コリンとアリが左右から体を支えて階段を下りて玄関から外に出た。
「おい! 大丈夫か!」
そこにサイト隊長と正団員が駆けつけてきていた。
「はい。魔獣を追い払い、リー従団員を救出しました」
アリはサイト隊長にそう報告した。
「話は聞いた。規則を破ったリーたちには罰が下す。まあ、独断専行したおまえたちも・・・あとで叱ってやる! だがよかった。無事で」
サイト隊長はそれぞれをハグした。冷徹だと言われているサイト隊長がこれほど感情を表に出すとはアリには意外だった。
◇
アリたちは本部に呼ばれ、個々に事情を聞かれることになった。アリにとっては久しぶりの本部だ。最近までここにいたのに懐かしさまで感じる。
そこにはビッケルとカーラン、それにエレーヌまでが待っていた。
「久しぶりだね。三番隊ではうまくやっているかい?」
「たまには顔を見せろよ。アリがいなくなって何か気が抜けたようだ」
2人は以前通りに話しかけてくれる。それがアリにはうれしかった。それに対してエレーヌは腕組みをして不機嫌そうな顔をしていた。
「アリ。顔を見せないじゃない」
「ごめんよ。勤務が忙しくて。心配かけたようだね」
ここは謝った方がいい・・・今までの経験からそう学んでいた。前回の時のように頼りにしてくれるが、たまに機嫌が悪いのか、強く当たってくることがある。エレーヌにはあまり好かれていない・・・。
「心配なんかしてないわ! ちょっと気になっていただけよ!」
「そうだった。そうだったね」
逆らうとエライことになるから話を合わせておく。
「まあ。いいわ。ちょくちょく顔を見に来てあげるわ」
「ああ、楽しみにしているよ」
そう答えるとエレーヌは笑顔になる。女は難しい・・・前世からアリはつくづく思い知っていた。
エレーヌの機嫌が治ったところで、ビッケルがアリに尋ねた
「ところで今日は事情聴取だろ」
「ああ、ちょっとした事件で・・・」
「うわさになっているぜ。君が黒魔術師に会ったって。本当か?」
「黒魔術師?」
それはミハイルのことかもしれない・・・アリは思った。
「そうだ。黒魔術師だ。奴らは昔から人々に害をなす存在だ。魔獣も奴らの仕業だ。人々を残虐な目に遭わせて喜んでいる」
アリにはそう見えなかった。ミハイルは手段こそ過激で暴力的で誤っているが、この国の民のために行っていると言っていた。アリがそのことを言おうとすると、その前にカーランが口をはさんだ。
「黒魔術師は民のためにやっているという者がある。恐ろしいデマに惑わされている。実はこの聖騎士団の中にもそう主張する者がいたようだ」
アリの他にもそう思った者がいたようだ。
「その人たちは?」
「彼らは思想に問題があると追放になった。その後、行方知れずの者がいる。もしかしたら黒魔術師の仲間になったか、革命軍という反逆組織に加わっているのかもしれない」
カーランはそう話した後、ビッケルが重ねて尋ねた。
「それでどうなんだい? その黒魔術師に会ったのか?」
「会ったといえば会ったのですが・・・」
アリは言葉を濁した。
「もしかして洗脳されていないよな?」
「いえ、大丈夫です」
「それならよかった。君が反逆的な思想に染まったらどうしようかとカーランと相談していたんだ」
ビッケルの言葉にカーランがうなずいた。
「そうだ。もし少しでもそんなことがあれば聖騎士団から追放だからな。大丈夫だと思うけど、事情聴取には慎重に答えるんだ」
カーランはそうアドバイスしてくれた。それを聞いてアリは、
(少々、厄介なことになった・・・)
と思っていた。




