第33話 悪魔熊
ミハイルの言葉は説得力がある。だが・・・
「僕は聖騎士団の一員だ。王様に、そしてこの国に忠誠を誓っている。たとえおまえがこの国のために行っていようとも、人々を苦しめる魔獣を放つのは許せぬ。いくら立派な目標があっても手段を誤ればそれは意味をなさない!」
アリははっきりとそう言った。それを聞いてミハイルは一瞬、(なにを言うか!)という怒りの表情になったが、すぐに元に戻した。
「そうか。それは残念だ。アリ君にはわかってもらえなかったな。まあいい。それならこれから試練を与えよう、さあ、お行き!」
ミハイルは抱いていた子熊を床に下した。
「それは!」
アリは驚いた。その子熊は右上腕から先がなかったのだ。ということは・・・
「驚いたかね。運命の再会だ」
その子熊は黒い煙に包まれてみるみる巨大化した。そしてあの姿になったのだ。
「悪魔熊!」
「そうだ。君たちがそう呼ぶ魔熊だ。確か君は死んだ仲間と約束したんだってね。この悪魔熊を倒すと。ちょうどいい機会だろう。ハハハ」
ミハイルは愉快そうに笑った。悪魔熊は咆哮してアリを威嚇している。自分の右腕を奪った相手を覚えているようだ。
アリは剣を構えた。するとすぐに悪魔熊が襲ってきた。その左手の爪が振り下ろされる。アリはそれを避けて斬りつけた。だがやはり浅い。奥まで斬ることはできない。
悪魔熊は狂ったように左手を振り回して執拗に攻撃を仕掛けてくる。その破壊力はすさまじい。勢い余って壁や家具を破壊している。アリは何とかかわしているが、一発でもくらってしまえばひとたまりもない。右手はなくなったが、それを感じさせないほどだ。
(このままではまずい・・・)
前回は居合抜刀術で右腕を斬り落としたが、今回はそれをさせまいとしている。剣を構え直す余裕すらない。それどころか狭い部屋で逃げ場がなく、追い詰められている。
ミハイルはそれを悠然と眺めていた。アリがこのピンチをいかに乗り切るかと・・・。この光景がおもしろいのか、口元が緩んでいる。
(こうなったら一瞬の隙に賭けるしかない・・・)
アリは悪魔熊に向かって行った。攻撃してくる左手を避けて前方に抜ける。そこにはミハイルがいる。魔獣を操る者を倒してしまおうと考えたのだ。
ミハイルはあわてることもなくアリに右手を伸ばした。するとアリの体は後ろに吹っ飛んでしまった。
「ずるはだめだよ。アリ君」
ミハイルはにやりと笑った。アリはすぐに起き上がろうとしたが、その上から悪魔熊が左手を振り下ろそうとしていた。
(やられる!)
床に倒れているアリは逃げられない。悪魔熊の左手に叩き潰される・・・。
「ギャア!」
悪魔熊が悲鳴を上げた。その左目には剣が刺さっていた。
「アリさん! 来ましたよ!」
それはコリンだった。彼がとっさに悪魔熊に剣を投げつけたのだ。難を逃れたアリは立ち上がってその場を離れた。
悪魔熊は何とか剣を引き抜いた。だがその痛みに見境なく暴れ回っている。一方、ミハイルは苦虫とかみつぶした顔をしていた。
「邪魔が入ったか。興覚めだ。引き上げるとしよう」
「待て!」
アリは追おうとしたが、その前には狂暴に暴れている悪魔熊がいる。
「また会おう。君には断られたがまだあきらめていない。それぐらいの気概はあった方がいいからな。だが次回は必ず君を説得しよう。では・・・」
ミハイルは黒い煙に包まれ、そのまま姿が見えなくなった。同時に悪魔熊も黒い煙に消えていった。
「アリさん。大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。コリンさんは? 毒にやられていたのでは・・・」
「普段から毒消し草を持っているのです。こんなこともあるかもしれないので」
コリンは懐の草を取り出して見せた。長い実戦経験からそうするようになったのだろう。
「とにかくリーさんを探さないと・・・」
アリとコリンはリーを探した。幸いなことに彼は隣の部屋で気を失っていた。魔猫の毒にもやられていたのでコリンが毒消し草を口に含ませた。それで彼は目を開けることができた。
「う・・・ここは・・・」
「リーさん、しっかりしてください。幽霊館の中です」
アリが呼び掛け続けた。それでリーは少しずつ意識を回復していった。
「幽霊館・・・そうだった。ここに忍び込んで・・・あっ! 魔獣が・・・魔獣がいるんだ! あの男も・・・」
リーは思い出してひどくおびえていた。かなり恐ろしい目に遭ったようだ。魔獣だけでなくミハイルにも・・・。アリは安心させようと笑顔で言った。
「魔獣も男も追い払いましたからもう大丈夫です」
「そ、そうか・・・」
それを聞いてリーはほっとしたようだった。
「君が助けてくれたのか?」
「はい。コリンさんと一緒に」
「ありがとう! ありがとう! 僕は君のことを誤解していた」
リーは身を起こして頭を下げた。
「今まで悪かった。君に悪いことをした」
「いいんですよ」
「いや、僕たちは誤ったことを信じていたんだ。あの手紙で・・・」
リーは思わぬことを話しだした。




