第31話 幽霊館
それからも三番隊の中でアリは浮いていた。講堂で人々を救ったことは知れ渡ったはずだが、誰もアリに声をかけようとしなかった。だがアリは焦っていなかった。いつかはみんなと打ち解ける日が来ると信じていた。
そんな時、事件が起こった。珍しくリーがクラークとホールを連れてマモール地区の街に巡回に出た。その地区は商店が立ち並び、治安が安定している、特に問題のない場所だった。
だがしばらくしてホールが慌てて従団員の詰め所に戻ってきた。かなり慌てて帰ってきたようで肩で息をしている。
「はあ、はあ、大変だ! 幽霊館でリーさんがいなくなった! はあ、はあ」
幽霊館とはマモール地区にある廃墟になった旧公爵の館だ。かつて王様の怒りを買い、身分を取り上げられたのを苦にしてそこで公爵一家が心中したという。それから館に公爵一家の幽霊がさまよっているとうわさが立ち、それで幽霊館と呼ばれるようになった。
それ以来、立ち入り禁止にしてあり、誰も足を踏み入れたことがない。もちろん聖騎士団も入ることを禁じられていた。また中に入ると災いがあるといわれていた。だから近づく者はほとんどいない。だが中で何者かが潜んでいるといううわさはあった。
そんないわくつきの場所だ。そんなところになぜ行ったのかは誰もが気になる。その場にいたストーン従団員がホールに尋ねた。
「一体、どうしてそんなところに入ったのか?」
「リーさんが『不審なところがあるから調べてみよう』って言われて・・・。それで3人で中に入ってみた。中は・・・かなり不気味な所だった。幽霊でも出そうで・・・。しばらくすると暗闇に光るものがあった・・・僕はなぜか急に怖くなって逃げ出してきた・・・」
ホールはその時のことを思い出したようで震えていた。
「リーやクラークはどうしたんだ? 一緒でなかったのか?」
「いや。はぐれたようだ。外でいくら待ってもリーさんやクラークが出て来ない。大声で呼びかけても返事がなかった・・・」
2人が消えたのだ。ただ事ではない。ストーン従団員はそう判断した。
「それは大変だ。上に相談しよう」
「それはやめてくれ。幽霊館に入ったことが知られたら罰を受ける。ちょっと中で迷っているだけかもしれない。誰か探しに行ってくれないか?」
ホールはそこにいる従団員の顔を見渡した。だが誰一人、それに応じようとはせず、顔を背けていた。
「なあ、頼むよ!」
「やはりここは上に相談した方が・・・」
「幽霊が出てリーさんたちがいなくなったと言うのか? 誰も信じてくれない。自分たちで解決しろと言われるだけだ」
アリは部屋の隅で話を聞いていた。彼女は何か嫌な予感がしていた。幽霊というのではなくて別の何かがそこにいるような気がしたのだ。とにかく2人が心配だ・・・アリがホールに声をかけた。
「僕が行こうか?」
するとホールは思いがけない相手からの助けの言葉を聞いて、オーバーな仕草で喜んだ。
「おお、アリが行ってくれるのか!」
「ああ、でも場所がわかりません。ですからホールさんも来てくれますか?」
「わかった。案内する。さあ、すぐに行こう!」
ホールはアリを引っ張るように連れて部屋を出た。すると廊下で偶然、コリンに会った。普段一人でいるはずが、リーの腰巾着のホールと歩いていたから不思議に思ったのだろう。アリに尋ねてきた。
「どこに行くのですか?」
「幽霊館です。ホールさんに連れて行ってもらうのです」
「そこは・・・」
「わかっています。立ち入り禁止は。でもちょっとあって・・・」
アリがそう言うとコリンは(そこで何かあった)と察していた。
「なら私も一緒に行きます。構わないでしょう」
「それはありがたい。頼みます」
こうして3人で幽霊館に向かうことになった。
◇
幽霊館は全く手入れがなされていないので、門は朽ち果て、庭は草で伸び放題になっていた。その建物はその形をとどめているものの、風雨にさらされて壁が一部剥がれかけている。
「さあ、ここだ。頼むぞ!」
ホールは門から先には入ろうとしない。アリとコリンは敷地の中には行ってみた。
(ここに邪悪な気配を感じる。やはり幽霊がいるのか・・・)
それに誰かに見られている気もしていた。もちろん周囲を見たが誰もいない。
「とにかく中を見てみましょう」
アリが先に立って歩いた。すると草むらの中に発見した。
「クラークさん!」
そこにクラークが倒れていたのだ。すぐにアリとコリンがそばに寄って彼の様子を見た。ちゃんと息はしている。
「息はあるようです。ケガはないし、気を失っているだけでしょう」
コリンはアリにそう言って、クラークを抱き起して揺らしてみた。
「クラークさん! 起きてください! クラークさん!」
するとクラークが目を覚ました。アリを見て口をパクパクさせている。
「ま・じゅ・がいる・・・」
「クラークさん、しっかりしてください! 何がいるんですか?
「ま、魔獣だ。魔獣がいる・・・」
「何だって!」
アリは驚きのあまり、大声を上げていた。




