第29話 謹慎
アリとコリンは隊長室に呼ばれた。このような事態になった原因を調べるためだ。そこにはサイト隊長とその片腕のジン正団員がいた。
「おまえたちが軽率な行動をとったため、魔犬をせん滅すことなく、その脅威はまだ続いている。早期に三番隊全体で当たれば全滅も可能だったと思う。どうして発見した時にすぐに報告しなかった?」
サイト隊長が2人をにらみながら問いかけた。
「それは・・・」
アリが答えようとするとその前にコリンが答えた。
「私です。功を焦るあまり、斬りかかってしまいました」
コリンはアリをかばおうとしていた。三番隊で孤立しているアリがそんなことをしたと他の団員に知られたら、ますます白い目で見られるとコリンは思ったのだ。
「本当にそうか? コリン。おまえの心遣いは誰のためにもならん! アリ。おまえなら本当のことが言えるな?」
サイト隊長は見抜いていた。功を焦っていたのはアリであると・・・。そうなればアリの口から本当のことを言うしかない。
「隊長。僕です。魔犬が3匹だったので自分一人で対処できると思いました」
「だがそうではなかった。魔犬は近くにたくさん隠れていたのだ。こんな状況もあるから、魔獣を見つけたら攻撃せずに報告しろと指示したのだ」
サイト隊長の言うとおりだった。アリは顔をうつむけていた。
「俺はおまえを見損なっていた。本部にいたからそれくらいのことはわかっていると思っていた。俺の間違いだったようだ」
サイト隊長はため息をついた。
「アリ。謹慎を命じる。場合によってはおまえをここから追い出す! 処分が決まるまで自室で反省しているのだな。では行け!」
サイト隊長の厳しい言葉にアリはうなだれて部屋を出て行った。それを見てコリンは隊長に言った。
「隊長。アリさんは・・・」
「コリン。傷を早く治せ。それでは当分、任務につけん。おまえも部屋に戻れ!」
そう言われてコリンも仕方なく部屋を出て行った。あまりの冷たい言いようにさすがのジン正団員が口を出した。
「隊長。少し言葉が強すぎたのでは・・・」
「いや、いいんだ。アリにはあれくらいがちょうどいい。手柄を焦るあまり、何も見えなくなっている。奴ならじきに目を覚ます」
そう言ってサイト隊長は「ふうっ」と息を吐いた。
◇
アリは謹慎することになった。彼女は床の上で座禅を組み、自分の心に問いかけようとした。前世でも心に迷いが生じたとき、この方法で答えを見出してきた。
(私はどうして命令違反をしてしまったのか? 手柄を立ててみんなを見返そうとしていた。三番隊で相手にされないから・・・焦っていたのだ。大きな手柄を立てればこの事態を打開できると・・・。そんなことばかり考えていたからだ。肝心なことを見失っていた。聖騎士団は王様との治安を守ることだ・・・)
自分の至らなさを痛感していた。前世で様々な経験をして心を鍛えたはずであったが、ふとすると崩れてしまう・・・心の弱さを持っていることを思い知った。
(前世の私だけではない。この世界のまだ14歳の未熟な私も同居しているのだ。すべてが前世の通りというわけではない。あらためて修業し直さねば・・・)
心を無にするように集中する。それで心の安静を取り戻すことができる・・・。
しばらくしてドアをノックする音に気付いた。ドアを開けると執事のスペンサーが立っていた。
「エレーヌさんがお会いしたいと隊舎の前に来られています。お急ぎの用だそうです」
アリはすぐに行ってみた。するとエレーヌが30半ばの女性とともに待っていた。
「どうかしたのですか?」
「アリ。力を貸してほしいの・・・」
いきなりエレーヌは話を切り出した。
「こちらはミリアさん。私の知り合いでオート地区に住んでいるの。魔犬が出没してその地区の住人が避難しようとしたの。でも途中で魔犬に襲われて近くの講堂に逃げ込んだのよ。けが人もいるから私をそこまで送ってほしいのよ」
「お願いです。大けがをしている人もいます。早く手当てをしていただきたいのです。私の子供もそこにいます。ぜひ助けてください!」
ミリアという女性も頼み込んでいた。
「ああ、助けに行きたいが、僕は謹慎中なんだ・・・」
「アリ。御願いよ。他の隊の人たちは任務で動けそうにないのよ。あなたしか頼めなくて・・・」
エレーヌがそう言うと後ろにいたスペンサーが声をかけた。
「アリさん。聖騎士団の任務を覚えておられますか? この王都の治安を守ること。ひいては人々を守ることにもつながるのです。行っておあげなさい。隊長もお許しになるはず」
そう言われてアリは決心した。
「わかった。いっしょに行こう」
アリはエレーヌとミリアとともにオート地区の行動に行くことになった。
◇
アリたちはオート地区に向かった。魔犬の出没のために街に人はいない。静まり返った不気味な雰囲気の中を辺りに注意しながら進む。幸いにも魔犬に遭遇することなく、講堂に入ることができた。早速、エレーヌがケガをしている人を重症度に応じて分けて、必要な者から治療のためのヒーリング魔法をかけて行く。
ここには30名ほどの者がいた。いずれも疲れ切った顔をしている。しばらくしてエレーヌがアリのそばに来た。
「アリ、数人、疫病の人がいるの。隔離はしたけど、専門の病院で治療する必要がある。このまま放っておけば命が危ないの」
「どうすればいい?」
「その病院まで運んでほしいの」
「わかった。そうしよう」
だがすでに歩けなくなった者もいる。小柄なアリが背負って運ぶしかない。まず病人の中年の男を背負ってみた。鍛えているから何とか運べそうだとアリは思った。
「大丈夫?」
「ああ。じゃあ、行ってくる」
「気をつけてね」
アリは病人を背負って外に出た。幸い魔犬はいない。遭遇しないためには急いで運ぶしかない。少し駆け足気味で何とか病院に運んだ。
「すいません。疫病の患者です。よろしくお願いします」
「わかりました。ここで診ましょう」
「まだ数人、同じような患者がいるのです。運んできますから・・・」
アリは息を切らせながらもまた講堂に戻った。そこでまた病人を背負い、病院まで運ぶ。それを繰り返した。
その姿を建物の陰から見ている男がいた。街に魔犬が出没しているのに恐れる様子もない。怪しげな雰囲気を醸し出しており、黒いローブをまとっていた。そして青白い顔に鋭い目が特徴的だった。
「ほう? 聖騎士団員だな。こんなところで一人で病人を運んでいるとは・・・」
その男はニヤリと笑った。
「しかし気の毒な・・・災禍が降りかかろうとしている。乗り越えられるかな?」
男はそう言って街の奥に消えていった。




