第28話 焦り
アリは街の巡回に出て考えることがあった。王都は確かに栄えている。だがその影に貧しい者が街にあふれ、仕方なく悪事に手を染める者もかなりいる。王都が不穏な空気が漂いつつあるのを感じている。治安を守るために巡回に出ているが、根本の問題を解決しないとこの状況は変わらないだろう。
(この王都に人々の不満がたまってきている。そのうちに爆発しないだろうか・・・)
そんな思いが浮かび上がってきた。カルヴァン団長がかつて話していたが、反対派が反旗を翻しているという。それがこの国を揺るがしているという・・・。
(こんな状況だから反対派が力をつけているのかもしれない)
このままではこの国はどうなるのか・・・そんな思いをアリは抱くようになった。
◇
三番隊ではコリン以外の皆がアリを避けていた。そんな状況をサイト隊長もわかっているはずだが、関心がないのか、どうかしようともしない。アリ自身で解決するしかない。
コリンがこっそり教えてくれた。彼は従団員たちが陰でコソコソと話しているのを目にしている。聞き耳を立てると彼らはアリについてこう話しているのを聞いたという。アリは幹部に贔屓されている。たいして剣の腕もないのに従団員に引き上げられた。剣技会にも出ていないのに、魔熊を追い払ったと架空の手柄をでっちあげたという。
「確かに私だってアリさんが魔熊、それも悪魔熊を追い払ったなんて信じられない。本当なんですか?」
コリンまでそう尋ねてくる。つまり誰もアリの腕を認めていないということだ。
「まあ、運がよかったということでしょうか。でなければ死んでいました」
「そうでしたか。しかしあなたの年ですでにこんな目に遭っているとは・・・。実は私には年の離れた、ちょうどあなたと同じくらいの弟がいまして・・・」
コリンが弟のことを話し始めた。兄弟が多い中でお気に入りの弟らしい。
「・・・王都にあこがれて出てきたのです。勉学のためと言って・・・。でもあまり勉学に励んでいなくて困っています。同じ年でもあなたのように戦っているのに・・・」
コリンはアリに弟を重ね合わせているようだ。それでいろいろと親切にしてくれているようだ。それでアリは三番隊で完全に孤立せずに済んでいる。
しばらくしてまた王都の北東部に魔獣が出現したとの報告が聖騎士団にもたらされた。今回は三番隊がまず出動することになった。
「まず魔獣の規模を探る。その数と種類、出現した場所だ。各自、報告を怠るな!」
サイト隊長が部下の団員にそう指示を与える。三番隊だけで対応できないようなら本部に応援を呼ばねばならない。まずは調査が重要なのだ。
アリはいつも通りコリンと組んで魔獣を捜索することになった。2人で街を注意しながら歩いていく。警報が出ているので人々は家に閉じこもっており、街はしんと静まり返っていた。
「魔獣が出てきそうな雰囲気ですね」
コリンが不安げにアリに言った。彼のように長く勤務している者でも緊張しているようだ。一方、アリは・・・前世でいくつもの戦いを潜り抜けてきているので落ち着いている。いや、むしろ心躍っていた。
(ここで魔獣を倒すなどすれば皆が認めてくれるかもしれない)
この剣の腕を示すことが自分の存在を示すことができると確信していた。そしてその機会がやってきた。魔獣の気配をアリは感じたのだ。
「魔獣がいます!」
「えっ! どこに?」
コリンが驚いて辺りを見渡した。
「向こうの方です。あの曲がり角の奥に気配を感じます」
アリはゆっくりとその曲がり角から向こう側をのぞいた。するとそこには魔犬が3匹たむろしていた。それはコリンも確認した。
「アリさん。当たりです。隊長に報告して応援を呼びましょう」
だがアリは首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。この数なら僕一人で倒せます」
「ダメですよ。隊長は報告するようにと・・・」
「ここで待っていたら逃げられてしまうかも。そうなったら大変です。僕が出ていきます。コリンさんはここで見ていてください」
「待ってください!」
コリンが制止するのを振り切ってアリは飛び出した。以前との魔狼との戦いの経験からすべて倒す自信は大いにあった。
魔犬はアリを見て襲ってきた。だがその数は3匹ではない。建物の陰から次々に飛び出してきた。アリは剣を抜いて戦闘で襲ってくる魔犬を切り捨てた。だが次々と魔犬が襲ってくる。
「これは大変だ! 誰か! 誰か来てくれ!」
コリンが大声を出して助けを呼んだ。その声で魔犬たちはコリンに気付いて向かって行く。
「こうなれば破れかぶれだ!」
コリンも剣を抜いて奮闘する。だが魔犬の数は多い。しばらく戦っていると隙を突かれて左腕に咬みつかれた。
「うわあっ!」
コリンが悲鳴を上げた。
「コリンさん!」
それに気づいたアリは駆け寄って咬みついた魔犬を斬り捨てた。
「大丈夫ですか?」
「ええ、傷は浅い。しかし魔犬の数がこんなに多いとは・・・」
2人は魔犬に囲まれていた。隙を見て襲いかかろうとしている。その時、ジン正団員たちが駆けつけてきた。魔犬たちはそれを見て方々に逃げだした。アリたちの危機は過ぎ去ったのだが・・・。
魔犬は建物の陰などに巧妙に隠れてしまったようだ。団員たちが探したが見つけることができない。アリたちが倒した魔犬は数えるほどだから、まだ多数の魔犬が街に逼塞していることになる・・・。




