第26話 三番隊
次の日、アリは礼拝堂に行った。従団員からが正式な聖騎士団の団員である。それゆえ従団員となった者はここで神に誓うことになる。見習いの時の宣誓式はカルヴァン団長の立会いだけだったが、今回はレゼニウス司教をはじめ数名の神父が同席する。
神に祈りをささげた後、壇に立ったレゼニウス司教が問いかける。
「アリ・ローザン。汝、この国と王様に忠誠を誓うか?」
「誓います!」
アリははっきり答えた。
「よろしい。汝を聖騎士団の団員と認める」
これでアリは正式な団員になれたのだ。
「おめでとう」
レゼニウス司教はアリにそう声をかけて壇を降りた。その後、神父たちがアリのそばに来て祝福を与えていった。
「アリさん。神のご加護がついている。安心して務めを果たしなさい」
「今までも大変だっただろうが、これからはもっと大変になる。しっかりやりなさい」
「私はヨゼフだ。困ったことがあれば相談に乗ろう。がんばりなさい」
神父たちはアリを激励してくれた。
「神父様。ありがとうございます。がんばります」
だがただ一人、その様子を冷ややかに見ていた一人の神父がいた。彼はアリを見つめて、そっとため息をついて礼拝堂を出て行った。アリはその神父のことが気になった。
「あの・・・神父様がお一人、出て行かれましたが・・・」
「ああ。ロマーニ神父か。彼には困ったものだ」
「何か気に障ることがあったのでしょうか?」
「気にすることはない。彼は変わり者だ」
「はあ、そうですか・・・」
アリはなんとなくロマーニ神父が気になった。彼から感じたのは敵意ではない。何かをアリに伝えようとしていたような・・・。
一方、レゼニウス司教はカルヴァン団長のそばに来て話しかけた。
「これで力強い味方が増えたわけじゃな」
「はい。これも皆様方のおかげです。アリはきっと役に立ってくれることでしょう」
「ふむ。あの伝説のことかな」
「まあ、そうであればとは思っていますが・・・」
カルヴァン団長は笑顔でそう言った。
アリは荷物をもって三番隊の隊舎を訪れた。そこは西門の近くにある。元は古い礼拝堂であり、石造りの壁に歴史を感じさせる。そこには三番隊の詰め所や住居などが入っている。
隊舎の玄関には事務官がいた。高齢のようだが、背はピンと伸びている。そしてその物腰は柔らかい。
「アリ・ローザンです。今日からお世話になります」
「ローザン従団員ですね。聞いています。私は執事のスペンサーです。まずは部屋で荷物を置いてください。それから皆様のところにご案内します」
スペンサーがアリを部屋に案内してくれた。従団員からは個室を与えられる。アリの部屋は3階の隅だ。その窓からは南西の門が見える。またシャワーやトイレもついており、これで周囲に気を使わなくて済む。
「さあ、荷物を置かれたら大広間に。任命式があります」
アリはスペンサーとともに1階に下りて、広い廊下を歩いて大広間に入った。そこには三番隊の団員がそろっていた。サイト隊長が正面に立ち、その前に団員が整列している。
「ローザン従団員をお連れしました」
「スペンサー。ご苦労。アリはこっちに来てくれ」
アリはサイト隊長の横に行った。
「アリ、よく来てくれた。これを君に与える。これで君は正式に三番隊の従団員だ」
サイト隊長はアリに剣を渡した。従団員と見習いの大きな差はこれだ。従団員になれば剣を下げて歩くことになる。
アリは両手で剣を受け取った。その重みをズシリと感じた。
(これが私の愛刀となる。前世の茨丸と同じようにいつくしまねばならない)
アリはそう思いながら剣を腰に下げた。これで任命式は終わりだ。そこでサイト隊長がアリを団員に紹介した。
「新しい仲間だ。本部の見習いから三番隊配属になったアリ・ローザン従団員だ」
「アリ・ローザンです。まだ若輩者ですがよろしくお願いします」
アリは頭を下げた。そこで彼女は違和感を覚えた。冷ややかな目で見られていることに・・・。
(歓迎されていないのか・・・)
この間、やっと14歳になったばかりだ。それで従団員となったのだから面白くない者も多いのだろう・・・アリはそう思った。
それは従団員の詰め所に入った時に思い知ることになった。かつては見習いで入った時はお互いにあいさつを交わしたものだ。だが・・・
「アリ・ローザンです。アリと呼んでください。よろしくお願いします」
「・・・」
アリからあいさつしても誰もが目を合わさずに知らんふりをする。
(困ったな。これでは任務に差し支える・・・)
従団員の任務は様々多岐にわたる。まずは自分がどの任務をするのかを聞かねばならない。ここを仕切るのは従団員筆頭のクリス・リーだ。王家を支える重臣の一人であるリー侯爵家の嫡男だ。あいさつは無視されたが、ここはどうしても聞かねばならない。
「リーさん。僕はここでどんな仕事をしたらいいでしょうか?」
すると横にいたロビン・クラークとマシュー・ホールがじろりとにらんだ。この2人がリーの腰巾着だ。
「新入りに仕事なんかない!」
「おとなしくそこに座っていろ!」
2人はそう言ってきた。さすがにそれにはアリはカチンときた。それで彼女はじっと2人を見据えた。前世の丈一郎並みの迫力があったのだろうか、2人はたじろいで黙り込んだ。そこでリーが口を開いた。
「まあ、待て、せっかくそう言ってくれたのだから任務を与えよう。市中パトロールを頼む」
王都の治安維持のためのパトロールだ。2人1組になって街を巡回せねばならない。
「僕の相手は?」
「そうだな。誰かアリ共にパトロールしてくれないか?」
リーが辺りに声をかけるが誰も知らんぷりをする。
「困ったね。誰も君と行きたくないようだ」
リーはニヤリと笑った。それでアリは悟った。
(こいつがそうさせているのか。よほど私のことが嫌いと見える)
リーは少し考えたふりをしてアリに言った。
「見習いにコリン・ハリスという者がいる。見習いだがここは長いから慣れているだろう。2人でクエール地区を巡回してくれ」
「わかりました。巡回に行ってきます」
アリはそう答えて見習いの詰め所に行った。ここもリーに言われているのか、アリに冷ややかな目を向けていた。だがその中で30前のひげを生やした男だけがやさしい視線を向けていた。
「アリ・ローザンです。コリン・ハリスはいますか? これから僕とともに巡回に出てください」
立ち上がったのはあの30前の男だった。
「ローザン従団員。私がコリン・ハリスです。参りましょう」
コリンは壁にさしてある剣を差すと外に出た。アリはその後をついて行った。




