第24話 激励
アリは驚いた。一番隊の隊舎にいるマリウスがここにいるとは・・・。
「マリウスさん」
「君の戦いは見せてもらった。僕は大いに失望した」
マリウスはサイト隊長との試合を陰から見ていたのだ。無残に負けたアリをもうライバルとして意識しなくなったということだろうか・・・アリは言葉を失った。
「勘違いするな。君が無残に負けたからじゃない。君らしくなかったからだ!」
「僕らしくない?」
「ああ、君らしくない。君はサイト隊長の突きを恐れるがあまり、自分本来の剣を見失っていた」
それを言われてアリははっとした。確かにサイト隊長の鋭い突きばかりが頭を占め、それを防ぐことしか考えていなかった。相手を倒す剣をどう振るうか・・・それを考えるべきだったのに・・・。
「僕と戦った時、君は本来の力を発揮した。それは自分の信じる剣を振るったからだ。僕はそう思っている。将来、僕と戦うつもりならその剣を思い出せ!」
マリウスはそう言うと背中を向けてそこから去っていった。その背中を見送りながらアリはマリウスに礼を言っていた。
(ありがとう。道筋が見えた。私がやらなければならないことが・・・)
アリは心の中の迷いが取れたような気がした。自分は考え過ぎていたのだ。自分の剣をサイト隊長に示すだけだ。現状の精一杯の実力を、自分の技すべてを次の試合には込める・・・そう決心した。
◇
次の日の朝、アリは本部の廊下でオーガ副団長を待った。しばらくすると彼が歩いてきてアリに声をかけた。
「おう! アリ! 体はもういいのか?」
「はい。ご心配をかけました。もう大丈夫です」
オーガ副団長はアリの様子からすべてを悟った。
「では行くか? もう心の準備はできているようだな」
「お分かりになりましたか?」
「ああ、その顔を見ればわかる。サイトの奴に一泡吹かせてやるか!」
オーガ副団長は近くにいたビッケルを呼んだ。
「三番隊のサイト隊長のもとに行け! 武道場で待っているとな」
「わかりました」
敬礼してビッケルが飛び出して行った。
「さあ、行くぞ!」
「はい!」
2人は再び武道場に向かった。
◇
アリが再戦を挑むことはすぐに広がった。それは一番隊にいるマリウスにも届いた。彼はすぐにキタ隊長の部屋に行った。
「隊長。しばらく抜けさせてください」
「ああ、いいぞ。またあれか? サイト隊長と見習いの試合か? そんなに気になるか?」
「はい。アリは僕にとって大きな存在ですから」
「ふうん。そうか。じゃあ、行って見て来い!」
「ありがとうございます」
マリウスは頭を下げて部屋を出て行った。
「まあ、気になるだろうよ。ライバルと思っているからな。お互いにそれで強くなる。いい関係だ。うむうむ・・・」
キタ隊長は何度もうなずいていた。
◇
アリたちが武道場で待っているとサイト隊長が一人できた。
「挑戦は受ける。だが再戦を申し込んで来たからには覚悟しろ! ただでは返さないからな!」
サイト隊長は壁に掛けてある訓練用の剣を取った。
「お願いします」
アリは頭を下げて剣をかまえた。今度は最初から両手持ちだ。全力を出さねばすぐに負けてしまう。
「来い!」
サイト隊長が大声を上げた。その声でアリは間合いを詰めて斬り込んでいった。剣を振り下ろし、返す剣を横に払って相手の横を抜け、再び斬りつける。この動きにサイト隊長は剣で受けて対応している。
「なかなか動きがよくなったな」
サイト隊長はそう言うと、受けの態勢からいきなり突きを放ってきた。アリは一瞬、驚いたがすぐに体を回転させてそれを避けた。すると何度も連続で突きを放ってきた。それを剣を左右に動かして払っていく。
(なんとか今の突きを避けることができた。だがサイト隊長が《ためた》ところから繰り出す突きは避けられないだろう。その状況を作らせないために攻めるしかない)
アリはとにかく攻め続けた。前世のような技のキレは今のアリにはない。だがそれに近い動きはできる。これにはサイト隊長の目の色が変わってきた。剣で受け止めながら突きだけでなく斬りつけてきた。本気になってきているようだ。そうなるとアリは防戦一方になる。そしてその攻撃を避けるために後ろに下がった。
(さすがは隊長だ。すべての技にキレがある)
アリは息を整えた。サイト隊長との間に少し距離がある。この間合いでは必殺の突きが来るとアリは感じた。するとサイト隊長は腰を少し落とし、剣を持った左手を後ろに引いた。
(突きが来る。それならこれでどうだ!)
アリも剣を引いた。それも腰から抜く位置まで。そして腰を落として構えた。居合抜刀術の体勢だ。これにはサイト隊長の方が動揺していた。高速の突きを繰り出してくる相手に対して剣を引いてしまうとは・・・。
だがサイト隊長は気を落ち着けた。自分の突きをかわせる者などそうはいない。自分の腕を信じて技を繰り出すのみ・・・。
「行くぞ!」
サイト隊長はアリに突っ込んできた。集中しているアリにはその動きが見えた。自分の剣が届く間合いを計り、鞘から抜くかのように剣を前に振り出した。




