第21話 頼み
戦い終わったアリは剣を振って血を落とし、剣を回して鞘に納めた。それは前世での丈一郎と同じやり方だった。
「よくやった!」
オーガ副団長は何とか身を起こして、アリに言葉をかけた。ひどいダメージを受けたが、何とか立ち上がれるようだ。そしてランガ従団員もようやく目を覚まして体を起こした。だがクロスだけはうつぶせに倒れたままだ。
「クロスさん!」
アリはそばに寄って抱き起した。頭は割られて血まみれだが、かすがだが息がある。
「しっかりしてください! クロスさん!」
「アリ・・・か・・・」
クロスは目を開けた。
「悪魔熊・・は?」
「何とか追い払いました」
「そうか・・・それはよかった・・・」
クロスはまだ話そうとしていた。
「俺は悪魔熊を倒したかった。兄の仇の・・・」
「もうしゃべらないほうがいい。傷がいえればまた機会はあります」
「いや、俺はもうだめだ。頼む! アリ! おまえが悪魔熊を倒してくれ!」
それがクロスの最期の頼みだった。それを聞かないわけにはいかない・・・。
「わかりました。必ず倒します! 安心してください」
「た、頼んだぞ・・・約束だぞ・・・」
そこでクロスはこと切れた。彼の閉じた目から一筋の涙が流れた。
「クロスさん! クロスさん!」
アリは何度も呼び掛けたが、クロスの目が再び開くことはなかった。
ようやくオーガ副団長が足を引きずるようにしてそばに来た。アリは彼に顔を向けて首を横に振った。それを見て彼はすべてを悟り、沈痛な面持ちで話し出した。
「クロスの兄は俺の親友だった。彼は人々を守るため、その身を犠牲にした。立派な騎士団員だった。クロスはその兄を尊敬していたし、目標としていた。これからというときに・・・俺がふがいないばかりに・・・」
オーガ副団長の目には涙が光っていた。アリはクロスの両手を胸の上で組ませた。
「クロスさん。よく戦いました。安らかに眠ってください・・・」
アリは両手を合わせた。多分、後のことを自分に託したクロスは「あの世」に行って安らかに過ごせるだろう・・・と。
◇
この事件の後、幹部による会議が本部で行われた。そこで今回のことが詳しく報告された。
二番隊はかなりの死傷者を出した。悪魔熊が出現したこともあるが、今までとは違って魔獣が集団で襲ってきたからだ。明らかに敵は戦法を変えている。
「単なる王都のかく乱ではない。この聖騎士団を狙っているのかもしれない・・・」
カルヴァン団長はそう思っていた。それはオーガ副団長も感じていた。
「それに対してわが方も強化しなければならない」
「それはどのように?」
「まずは人員の補充。そして訓練の見直し・・・」
さまざまな課題がある。そして最後に議題が上ったのは・・・。
「クロス従団員を失い、他の従団員もけがをしているものが多い。二番隊に人員を各隊から補充する・・・」
正団員は隊を代わることは少ないが、従団員以下は隊を異動することは多い。それで各隊から従団員は二番隊に送ることにした。そうなると・・・
「三番隊の従団員がやや手薄となる。見習いを昇格させる。誰がいいか?」
カルヴァン団長の問いかけにオーガ副団長が手を上げた。
「本部付きのアリ・ローザンを推薦する。本部の見習いの中で剣の腕が優れている」
だがそれに対して三番隊のサイト隊長が難色を示した。
「アリ? 入団したばかりだろう。それに剣技会にも出て来なかった。そんな者を我が隊の従団員にするのか?」
「悪魔熊を追い払ったのはアリだ。腕は保証できる」
「本当か?」
サイト隊長はそれに疑いを投げかけた。
「本当だ。俺が現場にいた」
「どうせ副団長が手を貸したのだろう。そうでもなければ、悪魔熊と戦って無事でいられるわけがない。前の隊長でもやられた魔獣だぞ」
サイト隊長は信じようとしない。さらに、
「本部の部下かわいさに押し付けようというのだろう。マリウスの時と同じで・・・。そんなことでは困る」
さすがにそれにはオーガ副団長はムカッとした。
「マリウスは剣技会で優勝した。実力は問題ないはずだ。アリだって大丈夫だ!」
「本当にそうかな? 身びいきじゃないのか?」
険悪な雰囲気だった。そこでカルヴァン団長が口をはさんだ。
「サイト隊長。君はどうしたいんだ?」
「それほど副団長が推すなら、アリの腕を確かめさせてほしい。俺自身で」
「君が相手をするのか?」
「もちろんです。もし未熟だったら俺の隊の見習いを従団員に昇格させます」
サイト隊長はそう言った。それしか彼を納得させられない・・・そう思ったカルヴァン団長はオーガ副団長に聞いた。
「いいか? ジーク」
「ああ、いいとも。アリならサイト隊長も認めるだろう」
オーガ副団長は承諾した。だが彼はサイト隊長の腹の内が見抜けなかった。本部の見習いなど従団員として受け入れる気などないことを・・・。
(アリとか言ったな。かつてマリウスに勝ったことがあるといううわさだが、本当にそんな腕があるのか? まあ、どちらにしても俺が剣で徹底的に叩きのめしてやる。そうなったらオーガもあきらめるだろう。本部の干渉など三番隊は受けん! 俺の目の黒いうちは)
サイト隊長は心の中でそう思っていた。




