第20話 一撃
オーガ副団長までやられてしまった。こうなったら今度は自分が立ち向かうのみ・・・アリは剣を構え直した。だが・・・
「こいつは俺がやるんだ!」
クロスが頭から血を流しながらも立ち上がった。彼を突き動かすのは兄の復讐の執念しかない。悪魔熊が彼の方を向いた。
「や、やめ・・ろ! クロス! やめるんだ!」
オーガ副団長は動けないながらも、大声を出してやめさせようとしている。だがクロスはそれを無視して、剣を振り上げて悪魔熊にまた向かって行く。それはかなり無謀にも見えた。それなら・・・アリは剣を握り直した。
「クロスさん! 加勢します!」
アリは悪魔熊の後ろから向かって行った。背中はがら空きだ。ここからでは深い傷を与えられるかもしれない。アリは大きく剣を振り上げて打ち下ろした。だが・・・
(だめだ! 浅い!)
悪魔熊の背中に傷を与えたがそれほど深くない。体が硬いため斬りつけただけでは深く刃が入らないのだ。
一方、前から突っ込んだクロスは悲惨だった。剣で斬りかかったが、一撃を加える前に悪魔熊の右手の鋭い爪で腹を一突きされた。
「ぐふっ!」
クロスが口形を吐いた。次いで悪魔熊の左手が上から振り下ろされてその頭を叩き割られた。
「ううう・・・」
クロスは血だらけになってそのまま倒れた。
「クロスさん!」
アリは叫んだ。あれではもう助からない・・・アリに強い悲しみの感情が浮かんだ。だが動きを止めてはいられない。振り返った悪魔熊がアリに攻撃を向けてきた。その左腕を横に払ってきたのだ。アリは一瞬早く、後ろに下がって難を逃れた。
少し離れたところでアリは剣を構え直した。悪魔熊と目が合う。奴はアリを次の獲物としたようだ。
アリは剣をかまえたまま、悪魔熊と対峙した。向かって行って斬りつけることはできる。だがそれでは致命傷を与えることはできない。
(奴を倒すには一瞬の強い衝撃が必要だ。それには・・・)
アリにはその答えはわかっていた。前世では無心一刀流を極めたのだから・・・。だがそれが今の体で使えるかどうか・・・。
(ここはやるしかない!)
アリは剣を両手で持って正眼に構えた。そうするとさらに前世の戦いの記憶がよみがえってくる。幾人となく、剣豪と呼ばれた者たちを斬ってきた無心一刀流の技の数々が・・・。その迫力にひるんでいるのか、悪魔熊はなかなか攻撃してこない。
アリは剣を振り上げて上段の構えをとった。そしてすり足で急に間合いを詰めると悪魔熊の頭に剣を振り下ろした。
(兜割り!)
その技で兜をかぶった武者を葬ってきた。
(だめだ! 技が不十分だ・・・)
確かに剣は悪魔熊の頭をとらえていた。だがそれは固い頭蓋骨を割ることができなかった。
(力が足りないのか。この体での技が未熟であるのか。それとも剣の切れが不十分なのか・・・)
いずれもが考えられる。確かなのは前世のように無心一刀流の技を使えないということだけだ。
悪魔熊が右手を突き出して刺そうとする。続いて左手がはたこうとする。それをかわしてアリは後ろに下がった。
(まだあきらめるわけにはいかない。他にも技がある)
アリは下段脇構えにした。今度は悪魔熊の方から向かってきた。アリは素早い動きですれ違いざまに剣を横に払った。鎧ごと体を斬り裂く「鎧胴断ち」の技だ。
「ウガァ!」
悪魔熊が吠えた。アリの剣が悪魔熊の腹を切り裂いた・・・はずだが、切れたのは表面の皮膚だけだ。やはり深手を負わすことはできない。一方、アリはすれ違いざまに悪魔熊の右手の爪で腹をひっかかれていた。傷は浅いが焼けるような痛みが体を走る。
(悪魔熊は何か所も斬られ、怒り狂ってさらに狂暴になってきている。このまま戦い続ければこちらの分が悪い)
アリは後ろに下がってまた正眼に構え直した。
(未熟な私に悪魔熊を倒すことはできないのかもしれない。そうなると取る道は一つ・・・)
アリはそっと刀を鞘にしまった。だがそこから逃げる様子はない。じっと息を整えている。その姿はオーガ副団長には戦いをあきらめたように見えた。
「アリ! どうした! おまえらしくない! 早く剣を抜け! 襲ってくるぞ!」
その言葉を聞いてもアリは剣を抜こうとしない。だが動きはあった。腰を落として剣の柄に右手をかけた。左手は鞘を前に押し出している。今にも抜こうとする姿勢だった。
「何をしているんだ?」
オーガ副団長にはアリの意図が読めなかった。だがこのままでは悪魔熊の餌食になる・・・。
「ウガァ!」
悪魔熊が咆哮して向かってきた。アリはその姿勢のまま動こうとしない。じっとしている。悪魔熊は右手を突き出した。その爪でアリを串刺しにしようと・・・。
だがその爪がアリに届くことはなかった。アリは抜刀してその右手を斬った。試合のために練習してきた居合抜刀術を使ったのだ。悪魔熊の頭や体は中まで斬れなかったが、その技で右手は斬り落とすことができた。それは地面にゴロリと転がった。
「ウギャア!」
悪魔熊は悲鳴のような声を上げた。そして血を流しながら逃げ去っていった。危機はようやく過ぎ去ったのだ。




