第19話 襲撃
アリはオーガ副団長とともに二番隊のいるカルドール地区に向かった。そこではすでに血の匂いが充満していた。
「かなりの者がやられてようだ。気をつけろ!」
オーガ副団長はアリに注意した。もちろんアリもそれは十分に承知している。周囲からは邪悪な殺気が漂っている。魔獣がまだ付近にいる・・・。2人は馬から降りた。
「副団長・・・」
後ろから声がかかった。振り向くと二番隊のランガ従団員と転属したばかりのクロスがいた。いずれも手傷を負っている。かなりの戦闘を潜り抜けてきたようだ。
「どうした?」
「戦っている途中、隊長たちとはぐれて・・・」
「わかった。それなら俺たちと来い。それで状況は?」
「ここでこの先の地区に入れぬように防衛線を張っていましたが、魔獣たちがいきなり現れて一斉に・・・。それぞれが戦っているうちに仲間を見失ってしまいました」
ランガ従団員がそう答えた。
「二番隊は散り散りになっているのか?」
「それはわかりません。我々だけかも・・・」
「そうか。まあ、そのうちに三番隊が応援に来る。その辺を探せば誰かいるかもしれない」
オーガ副団長はそう言って馬を引いて歩き出した。だが急に足を止めた。
「来るぞ!」
魔獣の気配を感じたのだ。オーガ副団長は馬を放して剣を抜いて身構えた。アリたちもそれに倣ってすぐに剣を抜いた。
すると建物の陰から一匹の魔狼が飛び出した。アリが前に見た魔犬に比べ、一回り大きく、2本の飛び出した犬歯が特徴的だ。オーガ副団長が一刀のもとに斬り伏せた。
「ウギャン!」
その魔狼は真っ二つになって消えていった。だがそれだけではない。周囲の建物から何匹も魔狼が襲ってきたのだ。ライガ従団員やクロスが剣ですぐに斬りつけていった。魔狼たちはそれを避けて後ろに引くが、また飛び掛かってくる。それを何度も繰り返す。
魔狼はアリにも迫ってきた。彼女はその魔狼との間合いを見極め、剣を振り下ろした。真剣で斬った手ごたえを彼女は久しぶりに感じた。魔狼の頭は切り裂さかれ、声も立てずに倒れて消えていった。
「よくやった! アリ!」
オーガ副団長がアリに声をかけてくれた。まだまだ魔狼はいる。相手が4人と見て嵩にかかって襲ってくる。だが十分に対処して撃退できている。
(これがこの地区を襲った魔狼のすべてかもしれない。だとしたらここでせん滅できれば・・・)
アリはそう思った。だが・・・。
「グオォ!」
いきなり唸り声を上げて大きな影が飛び出してきた。それはランガ従団員に向かって行った。
「ランガ! 気をつけろ!」
オーガ副団長が声を上げた。ランガ従団員はそれに気づいて剣で斬りつけようとしたが、そのまま体当たりを食らい飛ばされていった。かなりの威力だ。ランガ従団員は地面に叩きつけられ、気を失っている。
「魔熊だ! それも例の奴だ! 悪魔熊だ!」
それはただの魔熊ではない。ひときわ大きく、狂暴な魔獣で悪魔熊と呼ばれている。左目の上に傷があるのが特徴だ。この傷はクロスの兄がつけたものだった。襲われている人々を救うため、クロスの兄は自分の身を犠牲にして一人で悪魔熊に立ち向かって散っていった・・・。
そのクロスの前に悪魔熊が立った。
「そいつは危険だ! 俺が相手をする!」
オーガ副団長が叫んだ。だが彼は魔狼に囲まれ、悪魔熊に近づくことができない。クロスは悪魔熊をにらみつけ、剣をかまえた。この危険な魔獣に一人で立ち向かおうというのか・・・。魔狼たちも悪魔熊を恐れて少し距離を取っている。
「クロス! アリ! 一旦、引け!」
オーガ副団長がそう命令する。魔熊は足が遅い。走れば逃げられるかもしれない。だがクロスは引く様子を見せない。
「副団長! こいつは兄の仇です! 俺にやらせてください!」
「やめろ! そいつはおまえには無理だ!」
「いえ、兄の仇を取ります!」
クロスは一人で悪魔熊に立ち向かっていった。
「死にやがれ!」
クロスは大きく剣を振り上げた。悪魔熊は叩きつぶそうと左腕を振り下ろした。それに当たればひとたまりもなく吹っ飛ばされる。だがクロスはそれをかわして剣を振り下ろした。
鮮血が飛び散った。クロスの剣は悪魔熊の肩を切り裂いたのだ。
「やったぞ!」
クロスが声を上げた。だが次の瞬間、悪魔熊の右腕がクロスを吹っ飛ばしていた。
「クロスさん!」
アリは呼びかけた。だがクロスは頭から血を流して倒れたままだ。一方、悪魔熊は今度はアリに目を向けてきた。次の獲物はおまえだと・・・。
アリは剣をかまえた。じっと敵を見据えながら・・・。
(今までの相手とは違う、前世においても・・・)
その強大な相手を前にアリは少し恐怖を感じていた。悪魔熊が今にも襲いかかろうとしている。
「俺に任せろ!」
その時、魔狼を倒してオーガ副団長が駆けつけてくれた。
「アリは下がれ! 悪魔熊の相手は俺がする!」
オーガ副団長はアリの前に立って剣をかまえた。アリは彼の剣の技を見たことがない。うわさでは目にも止まらぬ速さの連続技なのだそうだ。
悪魔熊が向かってきた。オーガ副団長も突っ込んで行く。素早く剣を操りながら・・・。そしてその2者が交差した。
「疾風迅雷剣!」
それがオーガ副団長の決め技だった。高速で振り回す剣が確実に敵を切り裂いていく。辺りに鮮血が飛び散った。
行違ってからオーガ副団長は振り返った。手ごたえがあったのだろう。その顔は自信に満ちていた。悪魔熊は何か所も切り裂かれ、血をポタポタと流している。
「さあ、どうだ! 止めを刺してやる!」
オーガ副団長は勝利を確信して悪魔熊に突っ込んで行った。その剣がまた敵を切り裂く。だがその瞬間、悪魔熊の右腕が動いた。それが強烈にオーガ副団長の体をはたいたのだ。
「うぐっ!」
オーガ副団長は地面に叩きつけられた。受けた衝撃で動くことができない。悪魔熊は何か所も斬られたはずだが、何事もなかったかのように咆哮して威嚇している。
(確かに副団長は悪魔熊を数多く切り裂いた。でも傷が浅かった。奴にはかすり傷くらいにしかなっていない)
アリにはそう思えた。




