第18話 事件
クロスは従団員となり、二番隊配属になることが決まった。今日が本部付き最後の日だった。アリを含め見習いがクロスの周りに集まった。
「クロスさん。がんばってください」
「しっかりやるんだぜ!」
「俺たちもすぐに追いつくからな」
それぞれがクロスに声をかけた。いろんなことがあったが、ともに見習いをした仲間であることには変わりはない。
「みんな、ありがとう! 二番隊で活躍してくるよ!」
クロスはうれしそうだった。以前の暗い表情は見せない。ビッケルとカーランはクロスの肩を叩いていた。
「じゃあ、俺は行くから」
クロスは最後にそう言って本部から出て行った。しばらくは2番隊の隊舎にいることになるだろう。後ろ姿を見送るアリにはなぜか、クロスが遠くに行ってしまった気がしていた。
◇
次の日、本部があわただしくなった。王都のカルドール地区に魔獣が出現したようなのだ。本部付きの団員が団長室の前に集められた。
「本日朝、カルドール地区に多くの魔獣が出現した。多くの人々が襲われて死傷者多数出ているという。通報を受けて二番隊が現地に向かった。状況によっては他の隊も応援に出す。本部の者は二番隊との連絡係として・・・・」
カルヴァン団長はそう話していた。今まで魔獣が単発的に出ることはあったが。今回のように多くの魔獣が出現することは珍しいらしい。もちろん王都警備隊では対処できず、聖騎士団の出動となったわけだ。
(二番隊と言えばクロスが配属になったところだ。いきなり危険な任務が待ち構えていたが、うまくやっているかな・・・)
魔獣の恐ろしさを知らないわけではないが、二番隊の精鋭の剣士が集まれば魔獣の集団など蹴散らせる・・・そう軽く考えていた。
少し時間が経って二番隊から従団員が戦況報告にために本部に駆け込んできた。急いできたので肩で息をしている。
「二番隊のマスーダです。現在、魔獣と交戦中。タイプは魔狼。数は20~30匹ほど。身を隠しながら襲いかかってきます」
「戦況はどうだ?」
「襲って来てはすぐに退き・・・を繰り返しており、殲滅には至っておりません」
魔狼は損害を少なくなるような戦いをしている。これには二番隊も手を焼いているようだ。
「住民の死傷者は?」
「多数出ております。病院に運ぼうにも魔獣が出没するので思うように進んでおりません」
「そうか・・・」
カルヴァン団長は腕を組んで考えた。それほどの数の魔狼であれば、通常なら二番隊だけで対処できる。だが敵は戦法を変えてきた。このままでは長引き、いつまでもこの状態が続く。そうなればさらに死傷者が増えるだろう・・・。
カルヴァン隊長はマスーダ従団員に伝えた。
「三番隊を投入するとナラク隊長に伝えてくれ。それまで支えてくれ」
「わかりました!」
マスーダ従団員はすぐに本部を出て現場に戻っていった。
「さて、三番隊に出動を命じよう。プリゼ。サイト隊長に伝えてきてくれ。カルドール地区の魔狼退治のために二番隊の応援に行ってくれとな」
「はい。すぐに」
プリゼ正団員が三番隊の隊舎に向かった。待機命令は出していたが、出動までには少し時間がかかる。カルヴァン団長はオーガ副団長に言った。
「ジーク。すまないが君がすぐに行って現状を見てきてくれ。どのようにしたらいいか、対策が立てられるかもしれない」
「わかったぜ。団長。ええと・・・アリ! 一緒に来い!」
オーガ副団長はアリを指名した。いきなりのことでアリは少し慌てていた。
「は、はい!」
「どうした? 怖いのか?」
「いえ、怖くはありません。お供いたします」
アリは敬礼した。前世で何度も死線を潜り抜けてきたからこんなことで恐怖はない。かえって久しぶりの実戦に気持ちが昂るのを覚えていた。
「よし、ではおまえも剣を持て。誰か、アリに剣を渡してやれ!」
アリはその場で真剣手渡された。それは訓練用の剣と同じ重さなのになぜかズシリと重い。
「抜いてみろ!」
オーガ副団長に言われて、アリはさっと剣を抜いてみた。キラリと刃身が光り、身が引き締まる思いがする。
(久しぶりだ。この感覚は・・・)
前世では実際に真剣で多くの人を斬った。それが戦国の世の習いとして・・・。だから真剣を見ても臆することはない。この剣でこの身についた技を十分に発揮できよう。相手が魔獣とはいえ・・・アリはそう思った。
「うむ。真剣を前にしてよく落ち着いている。まるで何度も戦いを潜り抜けた歴戦の戦士のようだな」
カルヴァン団長はそう感想を述べた。それは当たっている・・・アリはそう思いながら剣を鞘に納めた。
「大丈夫なようだな。それでは行くぞ!」
オーガ副団長はアリを連れて外に出た。外には馬が2頭用意されており、2人はさっと飛び乗った。
「アリ! 遅れるな! ハイヤッ!」
オーガ副団長は馬を走らせた。アリのその後を追いかけて行く。
(これも久しぶりだ・・・)
戦場では馬をよく走らせたものだった。主人の宗隆は乗馬が得意だった。丈一郎はそれに遅れまいと馬を懸命に走らせていた。前世のことなのに鮮明に思い出される。
(いよいよこの世界での実戦になるかもしれない。あの頃の勘を取り戻さねば・・・)
アリは「はあっ」と息を吐いて気合を入れ直していた。




