第16話 幽閉
あの脅迫する手紙の主と会わねばならない。アリは立ち上がって武具倉庫に向かおうとした。
「どこに行くの? この後、あなたの試合でしょう?」
後からついてくるエレーヌが声をかけた。
「ちょっと行くところがあって・・・」
「遅れないように来なさいよ! せっかく私が応援してあげるんだから!」
「ああ、ありがとう」
アリはそのまま武具倉庫の扉の前に行った。普段なら南京錠がかけられているが、今日はそれがない。
(もう来ているのか?)
アリは慎重に扉を開けた。倉庫の中は薄暗くてよく見えないが、誰かいる気配はない。アリはそっと中に入った。
(ただのいたずらだったのか・・・)
アリがそう思ったとき、武具倉庫の扉が閉まろうとしていた。何者かがアリを閉じ込めようというのだ。あわててアリは扉を押さえた。
「何者だ!」
だが扉の向こうの相手は答えない。ひたすら扉を閉めようとしている。その時、ちらっと相手の顔が見えた。
「クロスさん! どうして!」
アリを閉じ込めようとしていたのはクロスだった。
アリも何とか外に脱出しようと思うが、クロスの力が強くて扉は徐々に閉じていった。
「開けてください! クロスさん!」
「しばらくここにいてくれ! 試合は僕が出る!」
「何を言っているのですか!」
「僕は早く兄に追いつかねばならないんだ!」
外では走り去る足音がした。それっきり誰の声も聞こえなくなった。
(閉じ込められてしまった・・・)
こうなってはどうすることもできない。多分、大会が終われば片付けのためにここを開けてくれるだろう。それまで待つしかない・・・アリは座り込んだ。
気になることはもう一つあった。
(クロスは私が女であるという秘密を知っているのか?)
知っていたなら脅迫してアリが試合に出場させなければいい。ここまでするのはクロスが秘密を知らないのではないかと考えた。それならここで我慢するだけでいい。剣技会はまたある。
◇
2時間ほどが過ぎた頃だった。遠くでアリを呼ぶ声が聞こえた。
「アリ! どこなの! アリ!」
それはエレーヌの声だった。彼女が探しに来てくれたのだ。
「ここだ! 武具倉庫の中だ! 扉を開けてくれ!」
アリは叫んだ。するとエレーヌは気づいてくれたようだった。駆け寄る足音が聞こえた。
「アリ! すぐに開けるから!」
それでようやく扉が開いた。エレーヌがアリの姿を見て大声を上げた。
「どうしてこんなところにいたのよ! 心配したじゃない!」
「それより試合は?」
「クロスが代役で出ることになったわ。それよりどうしたのよ? 私はずっと探していたのよ!」
「すまなかった。理由はあとで。それより試合に・・・」
アリは中庭に走った。その後をエレーヌが追いかけて行く。だが・・・・
見習いの試合はすでに決勝戦だった。一番隊の見習いを相手にクロスが戦っていた。なかなかいい動きだった。彼も日頃、熱心に鍛錬を重ねていたのだ。彼の鋭い剣さばきからそれがアリにはわかった。
(クロスは必死だったんだ。早く従団員になって魔獣を倒したいと、死んだ兄の遺志を継ぎたいと・・・)
そんなクロスの懸命な思いに水を差すわけにはいかない・・・アリはそう思っていた。
やがてクロスは相手の肩を斬りつけた。
「そこまで! 勝者クロス!」
クロスが見事に優勝したのだ。彼はあの暗い表情を打ち捨て、思いっきりの笑顔になっていた。ビッケルとカーランが駆け寄って祝福している。
アリもそばに行って呼びかけた。
「クロスさん」
アリを見てクロスの顔がこわばった。
「優勝おめでとう」
アリはクロスのやったことを咎める気はない。ただ彼の勝利を祝ってやろうとした。その時、オーガ副団長が飛び出してきた。
「新人! 貴様か!」
オーガ副団長はいきなりアリを殴った。アリはその場に倒れ込んだ。
「立て! 試合に来ずにどこに行っていたんだ!」
アリは立ち上がって口を開いた。
「訓練用の剣を取りに行っていました。手違いで武具倉庫に閉じ込められてしまいました」
「そんな言い訳が通ると思っているのか!」
オーガ副団長はもう一発アリの顔を殴った。
「申し訳ありません」
「実戦だったらどうするつもりだ! 遅れて申し訳ないでは済まないのだぞ!」
オーガ副団長はアリ胸ぐらをつかんだ。彼の怒りは収まりそうになかった。だがそこにカルヴァン副団長が出て来てくれた。
「ジーク。そこまでにしてやれ。アリだってわざとではないと言っている」
それでオーガ副団長は手を放した。
「本部の廊下で正座だ! 俺がいいというまで動くな!」
それだけ言い捨ててプイッと行ってしまった。
「わかりました」
アリは敬礼して答えた。
(まあ、仕方がないか・・・。試合に遅れたのは事実だから。正座だけで済んでよかったとするか)
アリはその罰を受け入れることにした。これから本部に戻って正座して反省の態度を示さねばならない。
「閉じ込められていたのに・・・アリがかわいそう・・・」
そのアリの後姿を見てエレーヌがつぶやいた。それを耳にしたカーランが彼女に尋ねた。
「アリが閉じ込められていたって? どういうことなんだ?」
「私が探しに行ったの。武具倉庫に閉じ込められていたわ。多分、誰かにやられたのよ!」
「一体、誰が!」
「わからない。でもアリにはわかっているようなの。でもその人の名前を言わなかったわ」
2人の会話を聞いてクロスはぐっとこぶしを握り締めた。罪悪感が彼の背にのしかかってきたのだ。




