第15話 剣技会
剣技会のそれぞれの部の試合は同じ日に開催される。まず武道場で従団員の部が行われ、その後に正団員の試合となる。見習いの部だけは場所が中庭でやや遅い時間で行われる。だからアリたちは武道場の試合を観戦できた。
武道場では多くの観客が集まり、これから行われる試合に大いに期待してすでに熱気に包まれていた。
その中でアリは心に不安を感じていた。自分が女だということを知って脅迫してきている。ビッケルたちを見てもそんな素振りはない。彼らでもないように思える。すると誰が・・・この中に自分の秘密を知っている者がいると・・・アリは武道場を何度も見渡していた。
「何を探しているのよ?」
後ろから声をかけられた。振り返るとエレーヌがいた。
「いや、別に・・・」
「私を探していたんでしょう? いいわ。隣に座ってあげるわ!」
エレーヌはアリの横に座った。
(気に食わないはずなのにそばに来る。不思議な人だ)
アリはそう思いながらも、そのまま観戦することにした。
まず最初に従団員の試合が行われた。本部、各隊から選出された従団員8名がトーナメント方式で当たる。従団員とはいえ、その剣さばきはすさまじい。気合と剣のぶつかり合う音が武道場に響き渡る。見習いの打ち合いは比較にならないほどだ。
従団員の部では下馬評通り、ロウ従団員が優勝した。彼はずっとオーガ副団長に指導されてきたのだから当然といえば当然だった。従団員の中から次に正団員になるのは彼だろうとも言われている。
次はいよいよ正団員の部だ。各隊の選り抜きが出場する。一番隊の選手はやはりマリウスだった。3名いる一番隊の正団員の中から最年少の彼が実力で選ばれたのだ。アリはマリウスに注目していた。彼と剣をかわしたことが2回あるのだから・・・。いずれも両手持ちの前世の剣さばきで彼の剣を飛ばした。
(あれからどれほど強くなったのか・・・)
それが気になった。隣に座るエレーヌがアリに言った。
「マリウス様が優勝するに違いないわ! だってマリウス様なのだもん!」
だが天才の彼をしてもこの大会で優勝するのは至難の業だろう。第一線で戦い抜いた猛者どもが剣を合わせるのである。弱冠14歳の彼では経験にかなり差が出てしまう・・・アリはそう思っていた。
やがて正団員の部の選手が会場に入ってきた。マリウスが先頭で歩いている。
「マリウス様!」
アリの隣に座るエレーヌは大きな声援を送っている。アリはじっとマリウスを見た。すると彼の方もアリを見た。両者の視線がぶつかる・・・。だがそれは一瞬だった。アリウスがそっと視線をはずしたのだ。まるでアリを無視するかのように・・・。だがアリは彼の姿を見て感じ取っていた。
(集中力が凄まじい。気力共に充実している)
これならいい試合ができるかもしれない・・・アリはそう思った。
いよいよ試合が始まった。第一試合でマリウスは三番隊の正団員と当たった。相手は鋭い突きで連続攻撃してくる。だがマリウスはそれを軽くかわし、剣で相手の肩を斬りつけた。完璧な勝利だった。
続いて準決勝では二番隊の正団員と当たった。1回戦で五番隊の正団員を鋭い剣さばきで秒殺した相手である。だがマリウスはそこも問題なく、相手の胸をついて勝利を得た。
「見た! さすがはマリウス様よ! 次も勝って優勝よ!」
試合を見てエレーヌは興奮気味に話した。アリは大きくうなずいた。
(これまでのところ危なげない勝利だ。以前、戦った時より数段、腕を上げている)
アリはそう見ていた。だが決勝の相手は本部付きのプリゼ正団員である。アリは彼の打ち合いを本部で見たことがある。その技のキレ、速さ、流れ・・・いずれをとってもこの世界で見た中では最上のもののように見えた。この聖騎士団の中で最強の剣士であるかもしれない。
(いくらマリウスでも・・・)
アリはそう思っていた。
そして決勝戦が始まった。両者は動かず、まず相手の出方を探っている。緊迫した空気が会場内に広がる・・・。
まず動いたのはマリウスの方だった。間合いをぐっと詰めて剣を繰り出していく。だがプリゼ正団員はそれを読んでいたかのように相手の剣を払い、逆襲していく。連続した突きがマリウスに向かうが、何とか後ろに下がりながらも剣で受け止めている。
アリはその試合に見入っていた。前世での剣豪同士の果し合いに近いと。
(形勢はマリウスの不利だ。どう盛り返すか・・・)
攻め込まれており、マリウスは防戦一方だ。だがその動きにはまだ余裕があるようにアリには見えた。
プリゼ正団員は一気に勝負をつけようと果敢に攻めている。少し強引にも見えた。その時、マリウスの目が一瞬、光った。彼は相手の剣を潜り抜け、間合いを詰めていた。そうなるとプレゼ正団員はなすすべがない。マリウスの剣を胸に受けていた。
「それまで! 勝者マリウス!」
審判の声がかかった。見事にマリウスがプレゼ正団員を打ち破って優勝したのだ。
観客席からは大きな拍手が起こっていた。皆がマリウスの勝利をたたえていた。そして敗れたプレゼ正団員もそばに寄って「素晴らしかった」とマリウスに伝えて握手した。
観客席のアリはマリウスの動きに感銘を受けていた。あれほどの劣勢をはね返して一瞬の勝機を見出して剣を繰り出せるとは・・・。
(今の私では両手持ちでもかなわないかもしれない)
アリはそう感じていた。横にいたエレーヌは大いに興奮していた。彼女はアリの肩を何度も叩いて言った。
「言った通りでしょう! マリウス様が勝つって!」
「ああ、そうだね」
アリは苦笑いしながらうなずいていた。
試合が終わった後、すぐにカルヴァン団長が駆け寄ってマリウスと握手した。
「おめでとう!」
「ありがとうございます」
「これで君は正団員一の使い手になった。これからも頼むぞ!」
それからマリウスはいろんな人からお祝いを言われて握手攻めにあった。身動きが取れないほど・・・。それが落ち着くとマリウスは観客席のほうを向いた。するとアリと目が合った。
「アリ・ローザン!」
いきなりマリウスは呼びかけてきた。挑発するような目で鋭くアリをとらえている。アリはそれを受けて立ち上がった。彼女もマリウスの目をじっと見た。
「君とは勝負しなければならない。だから早くこの場所まで上がって来い! 待っているぞ!」
マリウスはそれだけ言うと、アリから視線を外して会場を出て行った。
(必ずすぐにそこまで行く! その時はまた勝負しよう!)
アリは心の中でそう返事をした。見習いの身では正団員と試合をすることはできない。正団員に昇格して初めてマリウスと剣で戦えるのだ。
(マリウスが私を待っている)
アリは今回の剣術試合に必ず勝って少しでも上にのぼらねばならない。だがその試合の前にアリはやらねばならないことがある。




