第13話 指名
アリが入団して1か月がたった。この頃になると訓練用の剣でも試合で他の3人の見習いに負けないようになった。日ごろの鍛錬で筋力がついてきて、剣を自由に振り回すことができるようになったからだ。
「もうすぐ隊対抗の剣技会がある。多分、代表はアリだな」
カーランがそう教えてくれた。
「剣技会?」
「そうさ。正団員、従団員、そして見習いの部があるんだ。それぞれに本部と一番隊から五番隊の各隊からの代表者、そして幹部から推薦された2名がトーナメント方式で競って優勝者をきめる」
「そんな行事があるのですね」
「ああ。それに優勝者には特典がある。見習の部で優秀だった者はすぐに従団員に昇格が許されるんだ。マリウスを知っているだろう?」
ここでマリウスの名前が出た。彼は一番隊の正団員だ。戦ったこともあったが、ここでは何か遠い存在になったような気がしていた。
「マリウスも本部付きの見習いだったんだ。俺の後輩ということになるけどな。でも剣技会で優勝してすぐに従団員さ。あまりに強さにオーガ副団長は大喜びしてな。そして次に剣技会では従団員の部で圧倒的な強さで優勝して、今度は正団員になったというわけさ」
マリウスは14歳で正団員になったのは剣技会の実績があったからのようだった。
「もしかしてアリもそうなれるかも」
「いや、僕は・・・」
本部付きの見習いの中では一番強いはずだが、オーガ副団長ににらまれているから選手に選ばれないだろう・・・アリはそう思っていた。
◇
それから数日後、オーガ副団長が本部の正団員、従団員そして見習いを集めた。
「今度の剣技会だが、試合に出る者は必ず優勝してほしい! では正団員の部はプリゼ正団員に任せる。従団員の部にはロウ従団員。おまえが出ろ! そして見習いの部は・・・
オーガ副団長が見習いの4人の顔を見渡した。
「新人! おまえが出てみろ!」
オーガ副団長はそう告げた。アリは何かの間違いだと思った。自分が呼ばれるはずがないと・・・。返事をしないでいるとオーガ副団長が怒鳴った。
「新人! 聞いていたか! おまえが出るんだ!」
「あ、はい。わかりました」
アリはあわてて返事をした。相変わらず名前で呼んでもらえなかったが・・・。どうして自分が・・・理由を尋ねようとしたが、その前にオーガ副団長は、
「勝てねば本部付きの見習いの名折れだ! 罰を覚悟しろ!」
と言ってその場を去っていった。
「意外だったな! 副団長がアリを指名するなんて」
「まあ当然かもな。試合では俺たちにずっと勝っていたから」
ビッケルとカーランはそう話していた。ただクロスだけは悔しそうにしていた。
相変わらずクロスの表情は暗い。アリだけでなく、他の見習いとも積極的に話をしようとしない。それがアリには気がかりだった。
アリは剣技会に向けてさらに鍛錬をした。オーガ副団長から言われているから両手持ちの剣は使えない。片手持ちの剣でどこまで勝負できるか・・・・それが問題だった。筋力がついてきたから思い通りに剣を動かせるようになった。だがそれだけで勝てるとは限らない。
(何か決め手になる技を身につけなければ・・・)
アリはそれを考えながら訓練用の剣を持って庭に出た。ここでいつものように剣を振ろうというのである。もしかしたら何かいい考えが浮かぶかもしれないと・・・。
すると庭に魔法使いの少女が座り込んでいるのが見えた。あれは・・・。
「エレーヌさんですね。仲間を治療していただきありがとうございました」
アリはそばに行って声をかけた。
「ああ、あなたね」
エレーヌは座ったまま振り向いた。彼女の手は小さな子犬を撫でていた。
「どうしたんですか? その犬は?」
「紛れ込んできたようだわ。人懐っこいし、誰かの飼い犬かしら」
だがそれらしい首輪をしていない。
「そうかもしれませんね。寮の誰かかもしれません。聞いてみます」
「そうしてくれる。しばらくの間、モウ先生のところで預かってもらおうかしら。ええと・・あなたは・・・」
そういえばエレーヌに名乗っていないことをアリは気づいた。
「アリです。アリ・ローザンです」
するとエレーヌはいきなり怒りのこもった表情になった。
「あなたがアリなの!」
「ええ、そうですが・・・」
「ちょっとあなたに言いたいことがあるの! いい気にならないで!」
アリにはわからなかった。どうしてエレーヌがそんなことを言うのか・・・。
「僕は別にいい気になっていないけど・・・」
「マリウス様に恥をかかせたでしょう? 試合でマリウス様が剣を落としただけなのよ。それをあたかも勝ったかのように・・・。それも調子に乗って聖騎士団にまで入門して・・・どこまでいい気になっているのよ!」
エレーヌはアリがマリウスに勝ったことが許せなかったようだ。
「マリウス様はみんなのあこがれなのよ。優しくて強くて美しくて・・・。本気を出したらあんたなんか目じゃないのよ!」
さんざんな言われようだった。アリは黙って聞いているしかなかった。
「あら、エレーヌにアリじゃないの? 何を話しているの?」
そこにモウ先生が通りかかり、2人に声をかけてきた。これで逃れられる・・・アリはほっとした。一方、エレーヌはモウ先生に訴えた。
「聞いてください。先生。この人はアリ・ローザンだったのですよ!」
「知っているわ。それが何?」
「卑怯な手を使ってマリウス様に勝っていい気になっている人ですよ!」
「エレーヌ。別にアリはいい気になっていないわ。試合だって正々堂々行われたはずよ」
2人がそう話していると、アリは急に何かの気配を急に感じた。殺気というか、邪悪というか・・・とにかく嫌な感じだった。それはモウ先生も気付いたようだった。
「何かいるわ!」
辺りを見渡すとあの子犬がいなくなったのにアリは気づいた。その代わりにその奥の草むらがごそごそしている。アリはかき分けてその奥を見てみた。そこには・・・・。




