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3-7


「なぁ。クレア達、遅くないか?」

12時になったのでヴィロはレイルのいる村の中央の広場にやって来た。エナも三時間前からレイルと共に村の警備をしていたため、レイルと一緒に休憩に入るらしい。エナも心配そうに外灯でぼんやりと見える入り口の方を見ていた。

「そうだな。そろそろ着いてもいい頃なんだが……」

レイルもさすがに心配になったのか、町の入り口を見つめた。

沈黙している間にも時間は過ぎていき、三人の脳裏には嫌な予感がよぎり始めた。エナはじっとしていられないらしく、さっきからそわそわと動いている。

「エナ、とりあえず落ち着け」

「……落ち着けませんよ。クレア、大丈夫かなぁ……」

そんな彼女を見てレイルは腕を組んで言う。

「俺は一旦戻って休むが、エナ。お前もそろそろ……」

「でも、私はもう少し……」

「休んどけって。あとからしんどいぞ」

しかしエナは沈黙したままその場から離れようとはしなかった。レイルはヴィロと視線を合わせると、再びエナを見た。

「今お前がクレアのためにできる事は何だ?ここで無理をして倒れる事か?」

「そ……」

エナは何か言い返そうとレイルを見たが、再び視線を足元に向けて沈黙した。

「クレアに負担をかけたくはないのだろう?」

「もちろん……」

「だったら、自分がやるべき事は分かるな?」

そこまで言われたらエナはもう頷くしかなかった。

「……戻ります」

レイルはヴィロを見て頷くと、エナと並んでナイーゼの家に向かって歩き始めた。だがエナはまだ俯いたまま。

「なんだ。まだ納得がいかないのか……」

「違います。ただ……未熟だなって思っただけです。すぐ自分の感情で突っ走って……」

「当たり前だ」

レイルがそう言うと、エナはビクッと肩を震わせた。

「お前は新人なんだからな」

エナはその言葉でやっと顔を上げた。

「え?」

「そういった精神面を鍛えるには、経験を積むしかない。誰もが最初から完璧な人間だと思うなよ」

「分かってますけど……」

「だがお前は錯覚している」

エナはムッとしてレイルの顔を見上げた。

「レイルみたいに何でもできる人には分かりませんっ!」

そう言ってエナは顔を背ける。

「お前、子供みたいな事を言うな。第一、俺は完璧な人間じゃない」

「うそっ!」

エナは再びレイルの顔を見上げた。

「本当だ。俺にだって苦手なものはいくらでもある」

「例えば?」

そのままどこか険しい表情で沈黙するレイルを見て、エナはあることをふと思い出した。

「例えばですけど……その中にあの方達が入ってません?」

そう、今やもう遠い地にいる……あの上司達。

レイルがさらに眉間に皺を寄せるのを見て、エナはふっと吹き出して笑ってしまった。


レイル、エナと別れた後、ヴィロは一時間ほど村を巡回した。そして村の中央の広場に戻ってくると、外灯に愛用の紺の槍を立て掛けてベンチに座った。肌寒いくらいの風がヴィロの外はねの明るい茶髪を揺らす。町を見れば夜中にもかかわらず、何軒かの家ではまだ明かりがぼんやりと灯っている。のどかだなと思いながらヴィロがベンチの背もたれに腕を回して寛いでいると、かすかに聞こえてくる物音に気づいた。だんだん近づいてくる。

「ふーん。こんな夜中に集団客か?どうやら出番のようだな」

彼はさっと槍を持ち村の入り口へと向かったのだが、すぐに引き返す事になる。


「ナイーゼさん、お風呂……」

レイルが濡れた紺の髪をタオルで拭きながら扉から出てくると、ナイーゼがシッと言いソファを指差した。そのソファに視線を向ければ、エナが横になって眠っている。彼女に掛けてある赤い羽織はナイーゼのものだろう。

「ずいぶん疲れてるみたいだね」

ナイーゼが小さな声で言うと、レイルは頭にタオルをかぶったままエナを見下ろした。

「やっぱり無理をしていたな」

「彼女を攻めないでおくれよ。この小さな体で駆けずり回って、夕飯の手伝いもしてくれて、そして村の見回り。がんばってくれたんだからね」

「……攻めたりしませんが、でも呆れてはいます」

レイルはソファから離れるとタオルを首に掛け、ダイニングテーブルにいるナイーゼの正面に座った。ナイーゼはお茶を新しいカップに入れながら言う。

「大変だね、あんたも。あんたの仲間は突っ走って行動するタイプみたいだからね」

そう、あのクレアさえも……そう思いながらレイルはナイーゼが入れてくれたお茶を手に取った。

「ええ。しかし、悪いとは思いませんよ。無駄に体力を使っているとは思いますがね」

そう言ってお茶を飲み干すと、レイルは時計を見て立ち上がった。

「ナイーゼさん、そろそろ休んでください。これでは俺たちを雇った意味がない」

「……そうだね。もう少ししたら休ませてもらうよ」

ナイーゼの返事を聞くと、レイルは席を離れ二階への階段へと向かった。ナイーゼは肩を竦めたが、しかしすぐに彼は毛布を手に持って戻って来た。彼はそれをエナに掛けてやると、エナに掛けてあった赤い毛糸の羽織をナイーゼの肩にごく自然な動作で掛けた。ナイーゼが声をかける間もなく、彼はそのまま二階へと彼は向かっていたがふと何かを思い出したように足を止めた。

「エナの事ですが……このまま寝せてやって下さい。後のことは俺と、ヴィロにでも手伝わせますから」

「え、ああ。分かったよ」

ナイーゼがレイルの背中にそう言うと、彼は今度こそ二階へ行ってしまった。

(無口で冷たそうに見えるが……)

「なるほど。女性に好かれるのも分かるね」

一人部屋に残ったナイーゼは微笑してお茶を飲もうとカップを手に取った。

が、その時家の扉が勢いよく開いた。ナイーゼは驚いて振り返ると、バタバタと音を立ててヴィロが部屋へと入って来た。その音でエナが身じろぎをする。

「ヴィロさん、静かに……」

「あ、すいません。でも、クレア達が戻って来て……」

ヴィロが息を切らしながらそう告げるとナイーゼは思わず身を乗り出した。赤の羽織がナイーゼの肩から落ちる。

「ほんとかい!?みんな無事なんだね?」

思わず声を大にしたナイーゼは慌てて口に手を当て、ヴィロの方を見た。そして彼は頷く。

「それで、レイルとエナは……」

「レイルさんは二階に、エナさんはそこのソファでさっき寝たところだよ。……起こすのかい?」

ヴィロはエナが眠るソファの方を見て少し考えると、どこか迷った様子で答えた。

「とりあえず先にレイルのところに。ナイーゼさんはクレア達がいる中央広場へ行ってもらえますか?」

「分かった」

ナイーゼは床に落ちた赤い羽織を掛け直すとすぐに玄関から出て行った。ヴィロは二階の階段を駆け上がり、右奥の部屋のドアを勢いよく開けた。するとレイルが肩当てを装着しているところだった。ヴィロが立ち止まっていると、彼はヴィロに気づいていないようにそのまま手を動かしていた。

「丸っきり無視かよ」

ぼそりとそう呟くと、大きなため息が聞こえた。

「お前こそさっきから何なんだ。用があるならさっさと言え」

「……お前こそ、気づいてるんだったら何か反応しろよ」

「用がある奴が話せばいい事だ。ちなみに俺はお前に用はない」

「はいはい。さいですか」

どこかふて腐れてた様子のヴィロを見て、レイルがようやく手を止めた。

「お前は子供か」

「あ?」

「……それで、結局用件は何だ」

ヴィロはあっと声を出して思い出したように言う。

「そうだった。クレア達が……」

「そうみたいだな」

レイルはそう言って黒のロングコートを羽織った。

「……まだ何も言ってないだろ」

「そのくらい分かる。そこの窓からも確認した」

ヴィロは沈黙した。というよりレイルが全て感知していたのでヴィロは逆に言う事を失った。

「どうした、急に黙り込んで。気持ち悪い」

「気持ち悪いって……お前が俺の言う事全部言ったんだろうが」

「それは悪かったな」

「それより、エナはどうする?かなりクレアの事心配してただろ?でもエナは今、下で寝てるしさ……」

ヴィロの言葉に身支度を終えたレイルはドアの方へ向かいながら答えた。

「もうしばらく寝かせておけ。一日働いて回って、相当疲れているようだからな。とりあえず今は、クレアのところに行って現在の状況を伝えよう。それからクレアの状況も……」

「その必要はないわ」

その声にレイルは部屋に入ってきた人物を見て足を止めた。

「クレア!」

ヴィロはクレアに勢いよく近づき、クレアはそんな彼に小さく微笑んだ。

「怪我人も出なかったし、みんな無事よ。買出しも済んだわ」

「そうか。とにかく無事でよかったよ」

ヴィロが安心したようにそう言うと、レイルが神妙な面持ちでたずねた。

「それにしてもずいぶん遅かったな。何かあったのか?」

クレアは少しの沈黙の後、深刻な表情でこう言った。

「その前に……さっそくで悪いけど、エナもここに呼んでくれない?」


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