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3-6


その頃クレアはダハラでベンと共に買い物をしていた。なぜクレア達を嫌うベンとなのかと言うと、ダハラに着いた時ネルターとベンは、なじみの店まで荷馬車を走らせて配達先まで向かった。ロンガはクレアと自分が乗って来た馬の手入れをすると言って町の入り口に残った。一旦別れたのだが……しばらくしてクレアが食材の買い物をしていると、ベンがやって来た。クレアが逃げないようにと監視をするつもりらしい。

クレアが食材を買い終わると、ベンはクレアを見て手を差し出した。

「?」

「荷物をよこせ。持ってやる」

ベンは引ったくるようにクレアから三つの荷物袋のうち、二つを持った。

「助かります。ありがとうございます」

「早く村に戻りたいからな」

ベンがふんと顔を背けたが、何かに気づきその方角をじっと見つめていた。クレアもその方向を見ると、茶色の巻き髪の男がこちらに近づいて来た。

「ロン、どうしたんだ?それに馬は?」

「それはネルターさんが見てくれてる。買出しは?」

「え、あと医療品だけです」

そう言うとロンガは少し考えて再びクレアを見た。

「分かった。その買出しは俺がする。あんたはベンと戻っていてくれ」

「え、でもそれは……」

「俺の知り合いがいるからそいつに頼む。ネルターさんも待ってるから一度戻ってくれ。それに……」

ロンガは視線を赤毛のベンの方に向けた。

「どうもベンはあなたのそばにいないといけないようだ」

「ロン!」

「……そういう事だ。先に戻っていてくれ。クレアさん……だっけ?メモを」

クレアはロンガにメモとお金を手渡した。

「すいません、ご迷惑をおかけして。右列が医療品のメモです。よろしくお願いします」

「知り合いに会うついでだ。じゃあな」

そう言って彼は町の人ごみに消えた。


「……て事は、ロンが買出しに?」

クレアとベンが町の入り口に戻るとネルターが空になった荷馬車の助手席に座って待っていた。

「ロンの奴、知り合いに頼むとか言って。ま、知り合いに頼むなら早いんじゃないですか?」

「いや、それはどうかねぇ」

クレアがベンとネルターの会話を聞きながら買出しした荷物を荷馬車に乗せていると、ネルターがそう呟いた。ベンが不思議そうにしているとネルターがその理由を話してくれた。

「あいつ、ほら獣医を目指していただろ?昔、首都の医大校時代に、ダハラの薬局の息子と知り合いになったって聞いたことがある。しばらく話し込むんじゃないか?」

「………………」

「ベン、待ってやれ。あいつにとっては久しぶりの再会だろうからな。クレアさんもちゃんといる事だし……」

「分かってますよ」

ぶっきらぼうにそう答えるとネルターは肩を落とした。

「やれやれ。遅くなりそうだな」

クレアは荷物を積み終えると、荷馬車の横を通り、木に繋がれたジェンディの方へ向かおうした。しかしネルターのそばを通り過ぎようとした時、ネルターに呼び止められた。

「クレアさん」

すると彼は緑の布に包まれたものをクレアに手渡した。

「まだ飯、食ってないんだろ?私は知り合いのじーさんのところで食ってきたから。これはなんというか……ここまでの手間賃って奴だ」

「でも、買い物も手伝っていただきましたし……」

「いいんだよ。たいしたもんじゃないから。ほら、ベンも。お前も食っとけ。この分じゃ何時に着くか分からないからな」

ネルターはベンにも同じものを投げて渡した。ベンはネルターの隣に座って包みを開いた。クレアもお礼を言ってジェンディのそばに座ると、包みからおにぎりとちょっとした山菜料理のおかずを出した。

軽めの夕食を終えた頃、薄明かりだった外も日が暮れて真っ暗になっていた。街灯には明かりがともり、街を行き交う人々も減ったように感じた。

しばらくしてネルターとベンが談笑しクレアがジェンディに水をやっていると、ロンガが荷物を抱えて戻ってきた。ベンが不機嫌そうな顔をしているとロンガは悪かったと言いながら、買出しの荷物をクレアに手渡した。クレアはお礼を言うと荷物を確認して荷台に荷物を乗せた。そして四人はダハラを出た。


一度目の休憩をした時、夜の11時を過ぎていた。ネルターがこれ以上遅くなるとまずいと言い、急ぎ足で村への道を進んでいたが、突然前方を行く荷馬車が止まった。クレアは不信に思い荷馬車にいるネルターの元へ行くと、ロンガが馬上で松明を手に持ち、深刻な顔をしてネルターと話していた。ネルターの隣にベンの姿はなかった。

「何かあったんですか?」

クレアがそう言うとロンガが答えた。

「崖崩れみたいだ。道が岩で塞がっている。これじゃあもう戻るしか……」

「戻るにしてもここからダハラまで2時間近くかかる。さすがに町の門は閉まっているだろうし、よそ者を通してくれないだろうな」

「ネルターさん、どうします?」

二人の会話を聞いていたクレアは崖崩れのあったところまで駆け寄った。すると明かりを持った人物がそこに立っているのが見えた。クレアはジェンディから下りて手綱を引き、その人物のそばに立った。

「どうですか?」

クレアがそう話しかけるとベンは無言で松明を持って立っていた。

「こりゃあ、もう戻るしかないな」

クレアは岩が滑るように落ちた跡が残る山の斜面と、目の前の岩に目をやった。三つの大きな岩と瓦礫がいくつか散らばって、行く手を阻んでいる。クレアは一番大きな二メートルほどの高さの岩を触った。乾燥している。するとロンガが馬に乗って二人のところへやって来た。

「二人とも。ダハラに戻るぞ。この辺りは暗いし、野宿をするにしても町のそばの方がいい」

「分かった」

ベンがそう返事して戻ろうとするが、クレアはその場から動こうとはしなかった。

「おい、何やってんだ。戻るぞ」

ベンがそう言ってクレアを促すと、クレアは少ししてから口を開いた。

「待って下さい。私がこの岩をなくします」

ベンとロンガは驚いてクレアの顔を見た。

「な、なくす!?何言ってんだ?そんなの無理に決まってるじゃないか!」

ベンがそう言うと、クレアは松明を持った馬上のロンガと目の前にいるベンの顔を見た。

「ロンガさん。ベンさん。ここは任せてくれませんか?」

「……何か考えがあるんだな?」

ロンガがそう言うとクレアは頷いた。

「考えというほどのものではありませんが……岩をなくす事は出来ると思います」

クレアの決意の顔を見て、ロンガは馬から下りた。

「分かった。あんたに任せよう」

「おい、ロン!」

「ベン、ここは彼女に任せようじゃないか。どうせダハラに戻るしかないんだ。ここを通れる可能性があるのなら、それに賭けてみよう」

「………………」

ベンはまだ納得言ってないようだが、ロンガは彼を無視して話を進めた。

「それで、俺達は何をすればいい?」

「……出来るだけここから離れて下さい。それから私の後ろからで構いませんから、誰か明かりをお願いします」

「それだけか?」

「はい」

「……分かった。聞いていたな、ベン。この事をネルターさんに伝えてくれ。明かりは、俺が」

「ありがとうございます」

ベンは急いでネルターの所へ戻った。クレアとロンガは少し離れた場所にある木にジェンディをつなぎ、ロンガは新しい松明に火を点けてクレアのそばに立った。するとネルターがベンと共にそれぞれ松明を持って、クレア達のそばへやって来た。クレアは驚いてネルターと仏頂面のベンを見た。

「お二人とも、どうして……」

「明かりは多い方がいいだろ?」

「でも……」

「協力してやるって言ってんだ。早くしろよ」

「ベン、お前いい加減……」

「いいんです。みなさんのご協力に感謝します。決して、私より前に立たないで下さい。怪我をする可能性がありますから」

「……分かった」

ネルターがそう返事をすると、クレアは松明の明かりでぼんやりと見える三つの大きな岩を見つめた。クレアの背後ではネルターとロンガ、そしてベンが横一列になって松明を持って立っている。

クレアがふっと白銀の槍を出すと、三人は驚いてクレアの後ろ姿を見た。

「おい、今槍が……」

「シッ。黙っとけ」

ベンを静止するようにロンガが言うと、クレアは大きく息を吐いて目の前の岩を見た。


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