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ナイーゼとネルターと共にクレアが家に戻ると事情を聞いた三人は驚いて彼女を見たが、クレアの心は決まっていた。結局はレイルが納得した事で反対していたヴィロとエナもしぶしぶ了承した。
その後クレアは出発の準備の為にロンガの馬小屋に足を運んだ。荷馬車には大人が二人乗れるほどのスペースしかないので、クレアとロンガが馬に乗る事になったのだ。馬小屋の中は前後十ずつ区切られた柵に五、六頭の馬が点在している状態であり、クレアは馬を一頭一頭見て触って確認をしていた。
「乗るにしてはどれも小振りだな」
「レイル……」
その声の主を見ると再びクレアは馬の顔を撫でた。
「みな荷馬車や馬で村を出てるんじゃ、仕方ないんじゃない?」
「どのみち、ヴィロはでか過ぎて乗れなかっただろうな」
クレアは微笑して答える。
「じゃあエナも無理だわ。例え馬に乗れても方向音痴じゃ、帰りは夜だもの」
レイルは馬小屋の壁に背をつく。
「馬の足で四時間か。出立時刻も一時間ずれ込んでいる。帰りは夜中になるな」
「ええ。買出しは自分でするわ。ダハラまで行っておいて買って来てもらうっていうのもね……もちろん、時間があれば情報収集もするつもりよ」
レイルはフッと小さく笑った。
「わざわざ言いに来るまでもなかったな……」
クレアは一頭の栗毛色の馬の胴に触れた。
「そういえばエナとヴィロは?」
「ヴィロは若い力だとかで、さっそくナイーゼさん含め多くの女達に使われている。あいつは女受けもいいしな。しばらく解放されないだろう。エナはナイーゼさんの勧めで、家を回って病人や怪我人の治療をしている。ついでにリオシカについての情報収集をするそうだ」
「そう。レイルはどうするつもり?」
「俺は村の外の様子を見て来る。もしかする事もあるかもしれからな。クレアは買い出しを任せる事になったが、しっかり馬を選んでおけ」
「ええ。この馬に決めるわ。試し乗りする時間は?」
レイルは金属製の懐中時計を出すと、カチッと音がすると同時に左開きのふたが開いた。
「五分だ」
「十分よ」
クレアはそう言うと柵の中へ入り馬の手綱を引いて馬小屋を出た。
試し乗りをした後村の出入り口へ手綱を引いて行くと、荷馬車が一台と馬に跨っているロンガを見つけた。ネルターとベンは荷馬車のそばでナイーゼと話をしている。クレアは栗毛色の馬に跨りロンガに近づくと、彼はクレアを驚いたように見た。
「あんたその馬……」
「え?」
「ジェンディだろ?」
それを聞いてクレアは馬小屋に書かれていた木板を思い出した。
「ええ。確かそんな名前だったと思いますが……」
ロンガはクレアが乗っている馬、ジェンディを見ると再びクレアの顔を見た。
「仕方ない……あんたを信用しよう」
クレアは驚いてロンガの顔を見た。彼は苦笑して再びジェンディを見る。
「この馬はね、馬小屋では大人しいが人を乗せると暴れるんだ。飼い主である俺にもね。でも初対面の君が乗ってもジェンディはこの通り暴れない。動物に好かれる奴に悪い奴なんていないからな。とりあえず君が敵でない事は信用しよう。今まですまなかった」
クレアは微笑して答えた。
「気になさらないで下さい。信用して下さってありがとうございます」
ロンガはクレアから顔を不自然に逸らした。
「とりあえず、だ。まだ完全に信用したわけじゃない。それにベンはこうはいかないからな。あいつは村の人間以外を信用しない。だからって人付き合いが悪いとか、そういうわけじゃない。口は悪いがいい奴だよ」
その言葉にはいろんな事情が含まれているように思えた。しかしそれを追求していいような雰囲気でもない。
「分かりました。ご忠告ありがとうございます」
「い、いや……それより、仲間に会って行かなくてもいいのか?」
気のせいだろうか……顔がどことなく赤い。クレアはロンガという人物について少し分かったような気がした。彼はきっと不器用でとても優しい人物なんだろう。
「はい。もう彼らにはこの村での仕事があるようですから。それに……ベンさんに信じてもらえるように、みなさんのそばにいます。ですからいつ出発しても私はかまいません」
「……分かった」
ロンガは手綱を引いてナイーゼと話しているネルターとベンのそばへ駆け寄った。しばし話した後、ナイーゼがクレアのそばにやって来た。
「クレアさん。もうなんと言ったらいいか……」
心配そうに見上げるナイーゼを見てクレアは頷いた。
「大丈夫ですよ」
するとナイーゼは赤毛のベンの背中を見た。その瞳はどこか悲しげに見える。
「特にベンの事だが、あの子はよそ者に厳しいからね。まぁ、いろいろあったから……仕方ないんだがね。言い方はきついかもしれないが、根はいい子なんだ。だから……」
「分かってます。私はかまいませんから……」
「……嫌な思いをさせてしまって、申し訳ないと思ってる。でも、どうかこの村のために力を貸してほしい」
「おい」
突然聞こえて来た不快そうな声の方をクレアとナイーゼは見た。ベンだ。今の会話を聞いていたのだろうか……
「あんたにはロンガと荷馬車を挟むようにして行ってもらう。あんたは後方だ。でも少しでも変な真似してみろ、傭兵だか何だか知らないが、ただじゃおかないからな」
「ベン!」
「……出発する」
ベンはナイーゼの声を無視して荷馬車へと乗り込んだ。そしてロンガを先頭に荷馬車が進み出し、ナイーゼが困惑したように荷馬車を目で追った。
「ナイーゼさん、みんなを頼みます」
え……とナイーゼが馬上のクレアを見上げるとクレアは微笑み、馬を勢いよく走らせて荷馬車の後を追った。村の入り口を出る際、村の女性達に囲まれどこか困惑した様子のヴィロとすれ違い、クレアは微笑した。




