2-7
次の日、川を辿っていくと四人は三時間ほどで森を脱出した。森を出て歩いて行くと次第に草木が減っていき、ひび割れた荒野が広がっていった。エナは森を脱出したことに喜び一番に駆けて行った。ヴィロは背伸びをして背後にいる二人を見た。クレアはレイルの持つ地図を覗き込んで、レイルと進路を相談しているようだ。その様子を見てヴィロは前方にいるエナに話しかけた。
「エナ、町か何か見えるか?」
「えーっと、見えますけど……」
そう呟いてエナが前方を見ると、広い荒野の先にかすかな町の影が見えていた。
「だいぶ離れていますよ。今日中は無理ですね」
ヴィロはため息をつくとレイルを見た。
「そっか……なぁレイル。暫くは野宿でいいから、町に着いたら宿で休もうぜ」
「体も洗いたいですし」
ヴィロとエナの声にクレアが答える。
「そのつもりよ。次のケラムという町で休むわ。もちろん宿で、ねぇレイル?」
「……ああ」
レイルはしぶしぶ頷くとエナが声を上げた。
「やったぁ」
「ベッドと酒にありつける」
そう言って喜ぶヴィロにレイルが言う。
「無駄遣いはしたくない。酒はあきらめるんだな」
「一杯くらいいいだろ、な?」
「息抜きは必要ですよ」
ヴィロとエナがレイルに詰め寄るとレイルは観念した。
「……一杯だけだぞ。あくまでも情報収集と買出しが中心だからな」
「はーい」
「へーい」
「そうと決まったら町を目指して行きましょう♪」
エナとヴィロの元気の良い返事が返ってくると隣でクレアが呟いた。
「子供の遠足ね……」
「全くだ」
しばらく歩くと四人は古い木造の橋にさしかかった。橋の前にある古い錆びた看板にはエンセス橋という文字が見える。しかしヴィロは疑問に思いながら看板を見つめた。
「工業国サージェスタに木造の橋って。しかもこの古さ、何年前に造られた橋だよ」
「ほんとに誰も使っていないようね……」
クレアがそう呟くと四人は古い木造の橋を見た。その橋は腐敗が進んでいるせいか所々凹んでいるような所もあり、敷き詰められた板張りも抜けているところさえある。そして補強した新しい板もあるが、あまり効果を見せていないようだ。
エナはそんな橋を見て呟いた。
「この橋……渡れるんですよね?」
「たぶん……」
そう返事したクレアも自信がなさそうだ。するとその様子を見ていたレイルが橋に足を一歩踏み出した。ギシッという軋む音が聞こえる。四人は暫らく沈黙すると、そのままレイルが橋を渡り始めた。
「おい、レイル!?」
ヴィロが声をかけるもレイルは橋の軋む音と共に渡って行く。レイルは渡り終えると反対側にいるクレア達の方を向いた。そして何事もなかったように言う。
「橋は見かけより頑丈だ。大丈夫だとは思うが、とりあえず一人ずつ渡って来い。……どうした?」
いつ崩れるか分からない橋を顔色一つ変えず淡々と渡って行った紺の髪の男を、三人は沈黙して見ていた。
「……顔色くらい変えろよ」
「なんかふつーの橋に見えてきましたよ」
ヴィロとエナがそう言っているとレイルが声をかけてきた。
「何してる?もたもたするな」
クレアは橋に近づいて足を踏み入れた。そして橋を渡り終えてレイルの隣に立つとエナの方を見て頷いた。エナも杖をつかないように持ちおそるおそる橋を渡った。無事にわたり終えて安堵するエナを横目に、レイルは最後に渡ろうとするヴィロを呼び留めた。
「ヴィロ、お前は別だ」
「は?」
ヴィロは足を止めて橋の向こうにいるレイルを見た。
「気をつけろよ。お前は俺よりもでかいからな」
「そっか、危険度は高くなりますね。泳げるなら別ですけど。もしこの橋が落ちたらどれくらいかかります?」
エナがそう言って隣に立つレイルを見た。
「再建費用に少なくとも二億ジュムはかかるだろうな」
「はー、二十代にして大層な借金持ちになりそうですね」
「クレア……その二人を止めてくれ」
クレアはため息をつくと、ヴィロは橋を慎重に渡り始めた。ギシッと一歩足を踏み出すたびに軋む音がする。おそるおそる何事もなく橋を渡り終えると、ヴィロは力が抜けてその場に座り込んだ。
「全然平気じゃないか、脅かすようなこと言うなよ」
「よかったじゃないですか」
「あのなぁ……エナも大層な借金もちになりそうですね、じゃねぇよ」
エナを見上げながら言うと先に行くレイルが振り返って三人を見た。
「何してる。さっさと行くぞ」
「はーい」
レイルの声に促されエナは走って行った。
「ったくお前ら……」
そう呟くとクレアが横を通り過ぎながら呟く。
「……早くしないと、本当に置いていかれるわよ」
その一言が冗談に聞こえなかったので、ヴィロは慌てて立ち上がり三人の後を追った。




