2-2
レイルとヴィロは情報収集を終えて町の入り口で二人を待っていた。ヴィロは町の門前に向かい合うようにしてある金属のベンチに足を組んで座り、レイルはヴィロの隣にある柱に寄りかかるように腕を組んで立っていた。
「今は二人くらいか……」
ヴィロはベンチに腕を回しながら自然に呟いた。
「そうだな。」
「さっきより減ったってことはやっぱり……」
「………………」
レイルがしばらく沈黙するとヴィロは一度大きくため息をついた。
「クレア達、大丈夫かな」
「ああ。いくら何でも街中で騒ぎを起こすほど、相手も馬鹿じゃないだろ」
ヴィロが時間を気にして町の時計台を見上げると、エナとクレアがこちらに近づいてくるのが見えた。ヴィロは立ち上がりレイルは荷物を持ち直し、手を振って近づいてくるエナとその後を歩いてくるクレアの方を見た。
「エナ、クレア、おかえり。遅かったな」
「そうですか?ちょっと話し込みすぎたかなぁ。でも、買出しはちゃんとしましたよ」
そう言ってエナは杖をついてクレアと一緒に二人の前に立ち止まる。
「二人は早かったのね。待たせて悪かったわ」
「いや、それはかまわない」
クレアの言葉にレイルが答えるとレイルとヴィロはエナに視線を向けた。エナはそれに気づくと付け足すように軽く答えた。
「あと例の件についても了解しましたよ」
エナがあまりにもさらっと言ったのでヴィロはレイルにこそっと呟いた。
「本当に分かってんのかな……」
レイルは何も言わず話を進めた。
「経路を変更する。ダハラには行かず、今からここから北西にあるグルアナの森に向かう。森を通過後、エンセス橋を渡ってケラムという村に入る」
「どういう事?」
クレアが怪訝そうにレイルを見るとヴィロが言う。
「今はその経路を行くしかないんだよ」
「今は……ですか?」
エナが言うとレイルが説明する。
「本当はここから南に行ったところに、リモーナ橋というわりと新しい橋があるんだそうだ。近い上に安全ということもあって、多くの人々がその橋を使ってダハラに行っていたらしい。だが最近そこのロベーグ川の氾濫でその橋が落ちて……今では森を通ってエンセス橋を渡るしか方法はないらしい」
「エンセス橋を通って東に行けばダハラ、西に行けばケラム村。エナ、俺達が目指す方向は?」
「西……です。天災じゃ仕方ありませんけど、間が悪いですね、私達」
エナがヴィロにそう答えると、クレアが何か引っかかっていることがあるかのように呟いた。
「事情は分かったけど、今まで町の住人はそのグルアナの森をほとんど通らずにいたってことよね。そっちの方が安全だからって理由で」
その一言にエナが不安げにクレアの顔を見る。
「それってつまり……その森って危険ってこと?」
クレアがレイルの顔を見るとエナもレイルの方を見た。
「あー。まぁ、ちょっとやっかいな森……」
「だいぶやっかいだ」
レイルはヴィロの言葉を言い直した。
「グルアナの森はこことは違って自然はあるが……人がめったに通らない上、手入れもされていないいわば野生の森だ。迷う者も少なくはないらしい」
ヴィロが俯くエナの頭を軽く叩く。
「エナ、そんな不安そうな顔をするなって。ちゃんとその森を通ったことがある人を捜して話を聞いたし、地図もほら、この通り。とにかく俺達についてくれば大丈夫だって」
「それに……問題はそっちじゃない」
「えっ?」
エナがレイルの顔を見上げた。
「かろうじて森から戻って来る者が言うには、スービクが近年増殖しているのも原因なんだそうだ」
「スービクってあの毒系陸魔の……?」
「増殖、ね。確かに有毒陸魔だから、解毒剤かエナのように救術を使える人がいないと一般人にとっては危険ね」
クレアが言うとヴィロが頷いた。
「そうなんだよ。解毒剤っていってもここは大きな町じゃないしなかなか手に入らない。それに治療できる医者も小さな町だから少ないし、救術士もいない。お手上げだね。」
「救術士は緊急時での救援が主ですから、普段は大都市に待機しているんです。この町にいないのも納得ですね」
エナが言うとクレアが隣に立つエナに微笑みながら言った。
「エナのおかげね。」
「ま、まぁとにかく解毒については任せて下さい。実践でもスービクを含め解毒は経験済みです。それに薬草についても知識は多少ありますし、いくつか持ってきているのもあるので安心して下さい。その代わりっていうのもなんですけど……道案内はお願いします」
そう言って頭を深々と下げるエナに三人は笑った。
四人はヨグの町を出て南西にあるグルアナの森に訪れた。その森は人があまり通らないせいで伸びた草木が道にも出ている。そしてその草木といえば茶色に変色しているものや、風で乾燥した葉がしゃらしゃらと音を鳴らすものが多い。四人はしばらく使用されていない土の道に足を踏み入れると、森の奥へと進んで行った。先導しているのは地図を持っているレイルとクレアで、その後にはクレアの長い薄紫の右袖を掴んでいるエナ、そしてヴィロの順に歩いている。森の中は昼間といえど木の影になるので薄暗く涼しくさえ感じた。
「あーあ、ついに森に入っちゃったよ」
そう言ってヴィロが少し肩をすくめた。
「これから遠慮がねぇぞ、つけてる奴らも」
「そうね。ここなら町中みたいに周りを気にしなくてもいいしね」
クレアが同意するとエナがさっきから心配そうに先頭にいるレイルの背中を見る。
「あのー、レイル?」
「なんだ」
背中を向けたまま声だけが返ってきた。
「この森に出入りする人が少ないって言ってましたけど、その地図は信用できるんですよね?」
「………………」
「………………」
レイルとヴィロが沈黙していると、いまいち話を呑み込めないでいたクレアが口を開いた。
「一つ聞くわ。その地図をくれた人って、最後にいつこの森に入ったの?」
「あー、三年前くらい……だったよな?」
「……五年前だ」
ヴィロが誤魔化そうとしたがレイルが正直に答えた。エナは真っ青になってクレアの右袖ごと腕を掴んだ。少し力強く掴まれたこともありクレアは顔をしかめて振り返った。
「ちょ……エナ。いた……」
「ま、待って下さい。五年前って、本当に信用していいんですか!?迷ったらどうするんですか!こんなところで野垂れ死には嫌ですよぉ……」
少しパニックになっているエナをクレアがなだめようとした。
「エナ、少し落ち着いて」
「落ち着けるわけないじゃないよー」
「エナ、ちょっと。腕……痛い」
「え、あ……ごめん。でも……」
「仕方ないだろ?ここの森、五年前にリモーナ橋が出来てからっていうもの、ほとんど通る人がいないんだから」
「だから、人の手も入らなくなり森も荒れ放題、野生の状態により環境が近づいたから、魔獣が住みやすくなりスービクも繁殖したってことね」
「えーそこなの!?あーもう。ヴィロの言葉に納得しないでよ、クレア。そうじゃなくてぇ……」
「今さら何も言ってももう遅い。リモーナ橋が再建されるまで待っている時間はないんだ。今はここを通るしか方法はない。あきらめろ」
レイルの言葉がとどめとなりエナは一気に大人しくなった。
「もしかしてみんな、出口が分からない森に入るようなそんな旅をしてきたんですか?」
「………………」
「………………」
「はは。エナって意外と真面目だったりする?」
明るく笑うヴィロの声を背後で聞きながらエナは図星なのね……と泣きそうになりながら頭をがっくりと下げた。




