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ヨグの町は検問所から一キロほど離れたところにある小さな町である。まだ朝早いために賑わってはいないが、検問所の営業開始時間に合わせてほとんどの店が開店していた。しばらくしたら国を行きかう行商人で賑わうのだろう。錆びた鉄筋の建物が並ぶ町に入ろうとした四人は、見慣れないものに気づき思わず立ち止まった。
「なんだあれ……」
「道が動いてる?」
町中にある金属の長い道を見ていたヴィロとエナは驚きを隠せないでいた。
「あれはユースティル道線、略してユールと言われているサージェスタでは当たり前にある金属で出来た動く道よ。便利なんでしょうけど…利用するには有料で、一般人は荷物が多かったりした時や子供や老人以外はほとんど使用しないわ」
「ねえ、クレア、あれは?街灯……じゃないわよね?」
エナが街灯の隣に建つ街灯よりも背の高い黒い柱を指差した。
「あれは魔獣撃退装置みたいなものよ」
「魔獣撃退装置?」
ヴィロの声にクレアは答える。
「そう。町の管制室にあるスイッチを押すと、あの柱からこの周辺に多く出没する陸魔や空魔が嫌う臭いが出るのよ」
「なるほど。それで町の警備隊や兵も少なくてすむわけか」
レイルも興味深げに町の方を見る。
「便利でいいんだけどさ…。天気がいいのに視界が悪いっていうか、大丈夫かこの空気」
ヴィロの言葉に町を見回していたエナが呟く。
「それに……どうしてだろ。この町、なんか足りないような?」
その言葉を聞いて四人は町を眺めた。
堅いひび割れた土地の上に広がる少し錆びた金属でできた建物。時折吹く熱い風が運んでくる金属の臭いが不快に残る。
「そうか……」
レイルの一言に全員が視線を向けた。
「花も木も。ここには自然がないんだな」
エナとヴィロもその言葉を聞いてもう一度町を見た。
「………………」
今まで黙っていたクレアも口をゆっくり開いた。
「……サージェスタは工業国だから、どうしてもそっちの方に目が捕らわれるの。でも実際に栄えているのは各州の中心部だけ。あとの町は工業化により発生した環境汚染で、荒廃した土地や砂漠が広がるところが増えてきてるのが現状よ」
「そんな……聞いていた話とは全然違う」
エナの言葉にレイルとヴィロも沈黙すると、クレアが視線を周囲に向けた。
「詳しい話はおいおいしていくことにしましょう。とりあえず先に買出しと情報収集を」
「そうだな。今から二手に分かれよう。俺とヴィロは情報収集を、買出しはお前たちに任せる。それから地図はクレアと俺が持っているから、何かあれば聞け。終わり次第ここに集合だ、わかったな?」
レイルの言葉に頷くとエナとクレアは二人に背を向けて町へ入って行く。
「クレア」
名前を呼ばれて振り返るとレイルとヴィロがこっちを見ている。エナも思わず一緒に振り返った。
「例の件、頼んだぞ」
「エナに気をつけてな」
「それってどういう意味ですか!!」
クレアは頷くと街中へ入って行った。エナはクレアのあとを追ってたずねる。
「クレア、例の件って?」
クレアは彼女の方を見て口を開いた。
「買出しの前にお茶にしない?」
エナは大きな緑の瞳を数回瞬かせた後、ある一軒の店の前で立ち止まるクレアの顔を見た。エナは頷くとその店の建物を見上げる。
「クレア」
「ん?」
「この店、ドアが開かないよ?」
そう言ってドアをじっと見つめるエナを見てクレアは笑った。
「エナ、ドアの横にあるボタンを押してみて」
エナは赤いボタンを押した。すると上からモニターが降りてきて、画面にメニューが映し出されている。クレアはハーブティの欄を押すと隣にいるエナにたずねた。
「エナは何にする?」
エナは身を乗り出して画面を見ると、しばらくして答えた。
「じゃあ……私も、同じものを」
クレアはもう一度ハーブティの欄を押し大きな緑色のボタンを押した。すると画面にテーブル番号と金額が現れ、画面横の箱にお金を入れることで店のドアが開いた。中に入ると二、三人ほどの客が金属製の四角いテーブルと椅子に座って談笑していた。クレアとエナも先ほど画面に出ていたテーブル番号の席に座ると、すぐに店員が現れハーブティを二つ置いた。そして一礼して去って行ったが、エナはこの状況に驚いて困惑しているようだった。
「エナ?」
クレアが呼びかけるとエナはクレアの顔を見た。
「あ、ごめん。なんかその違いすぎて落ち着かないというか……」
「まぁ……そうかもしれないわね」
「それで、例の件っていうのは?」
クレアはハーブティが入った白い陶器のカップを持ち上げた。
「エナ、気配や視線を感じることは?」
「………………」
「あるみたいね」
クレアは安堵したようにカップに口を付ける。
「何となくだけどね。人数までは分からないけど時々そういう視線を感じる時がある」
その言葉を聞いてクレアはカップをテーブルの上に置いた。
「今の状況はどう思う?」
エナはおそるおそるクレアの顔を見た。
「町中だし、人目が多いから特に襲撃の心配はないかなって……」
「半分正解」
「?」
エナは首を傾げた。
「誰かは分からないけど、つけている相手にとっては今がチャンスなのよ」
エナは何かに気づいたようにクレアの方に身を乗り出した。
「それって……今私とクレア、女二人だけだからってこと?」
「そうよ。もし襲撃する気があるなら、レイル達がいるときよりも女二人だけの方が遙かに楽でしょ?それに捕まえて私達を人質に取ればレイル達と対峙した時も有利に事を運べるってこと。でもここは町の中だから、今すぐ襲われる心配はないと思うわ。人目に付くもの」
エナは安堵したように息を吐いたが、真剣な顔の表情は変えなかった。
「でもこれはレイルとヴィロからの忠告。気づかないふりをしてていいわ、ただ気配を感じたら注意して」
エナは黙って頷いた。




