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十五分ほどでサージェスタのクムラン検問所に到着した。検問所の門は黒い鉄格子の高さ三メートルはあるだろう大門で、格子の中央にはサージェスタ国紋“菱天三昇”が彫られている。格子から見える検問所内部は白い壁に緑色の屋根の建物で揃えられ、人の姿は見当たらなかった。四人は開門までの時間を門の隅の石垣に座って待つ事にした。

しばらくすると荷車の音とにぎやかな男性二人の声が聞こえてきた。四人が視線を向けると、荷車を引いていた二十代前半くらいの年齢の男が四人に気づいて立ち止まった。

「あれ?俺達が一番に国を出たと思ったのになぁ……」

「あんたたちも、サージェスタに用があんのかい?」

その声と共に荷車の後方からもう一人、男が姿を現した。白髪混じりの無精髭の五十過ぎくらいの男で、その若い男の隣まで来ると立ち止まって四人を見下ろした。

クレア達は立ち上がり、レイルが無精髭の男を見て問いかけた。

「失礼ですが、あなた方は?」

「悪い悪い。俺はトキン。こっちは息子のテッド。俺達はサージェスタのゲンガに野菜の配達に行くところなんだ。そんであんたらは?」

ヴィロとエナが動揺するもクレアが冷静に答えた。

「私達は傭兵をしている者です。サージェスタを経由して少し足を伸ばそうかと」

クレアの言葉に息子のテッドが四人をじっと見回した。ヴィロとエナは冷や汗を掻いている。

「考えていることはみんな一緒か……」

「え?」

「だってあんたらも、今が稼ぎ時と思ってサージェスタに行くんだろ?サージェスタとマルキアが戦争を始めて、いくつかの町の男達は戦争に借り出されているからな。女子供だけじゃ働き手が足りないから畑や工場もなかなかうまくやってけないし、そのせいで一部の地域じゃ物価も高騰しているらしい。まぁ、こっちとしては今が稼ぎ時ってわけだけど」

「ま、あんた達も戦争で男達が出払った町で山賊や魔獣討伐をして稼ぐってところだろ?」

勝手に納得してくれた親子に四人は安堵すると、ヴィロがどうにか平静を装って答えた。

「え、あっ、えーっと……分かります?」

「まぁな。あんたらみたいなのは今の時期多いもんだぜ?」

「でもその割には君達、ずいぶん若いなぁ」

トキンの鋭い指摘にヴィロとエナは一瞬固まる。

「ええ。でも今のうちに稼がないと、私達の仕事は決して安定した仕事ではありませんから」

「まぁ、そうだな。ハハハッ!」

クレアの言葉にどうやら納得してくれたようだ。するとトキンがエナとクレアの顔を交互に見た。

「いやー、こんな美人なお嬢さん二人が傭兵だなんてね。どうですかい?うちの息子の嫁に……」

そう言いかけた父親の頭をテッドが殴った。

「親父、馬鹿なことを言うな。困っているだろ!」

そう言うとテッドはレイルの顔を恐々と見た。

「すいませんね、傭兵さん方。父のしょうもない冗談なんです。だから許してあげて下さい」

レイルの黒のロングコートから見え隠れする剣を見ながら頭を下げるテッドを見て、レイルは顔をしかめた。どうやら斬られると思ったらしい。よく見れば怯えているようにも見えない事もない。

「レイル。笑顔笑顔!そんな顔してるから怖がられるんだよ」

「余計なお世話だ」

レイルはヴィロだけに聞こえそうな声でそう呟くと、テッドの顔を見た。

「いや……そんなことくらいで斬ったりしないから安心してくれ」

そのレイルの言葉を聞いたトキンは殴られた頭を擦りながら顔を上げた。

「ではお嬢さん方、気が向いたら息子の事を前向きに……」

「しつこい!!」

「ではそちらの男性お二人でもよろしいので、うちの娘を嫁に、どうですか?」

「親父、いい加減に……」

「お嬢さん、美人ですか?」

「それはもう……」

ヴィロがついつい話しに乗って口を挟むと息子のテッドは怒り始めた。

「親父、いい加減に出会う人出会う人にそう言うのはやめてくれ。あんたも話しに乗らない!親父が本気にするでしょうが!」

先ほどまで斬られるのではないかと恐れていたテッドはもう気にしていないのか、それとも無意識なのか大きな声で怒鳴っていた。親子漫才を見ている気分になった四人はしばし談笑しながら門が開くのを待っていた。


「お、そろそろ開門の時間だな」

トキンがクムラン検問所内の時計を見て呟くと、壁の一角にある関係者通用口らしきドアからサージェスタの国紋が入った軍服を着た人物が五人現れた。そしてその五人は門の前にいるクレア達の行く手を阻むように立った。

「検問官の支度ができるまでしばし並んで待たれよ。その間に荷物の確認をさせてもらう」

そう言うと五人の国境警備隊が散らばり荷物の袋や荷車の中を確認し始めた。そして荷物を確認した後、警備隊五人はクレア達四人の前に立ってエナの杖とレイルの剣、そしてヴィロのばかでかい槍に目をやった。

「お前達のその武器は何だ?」

警備隊隊員達のどこか警戒した気配に、クレアは隠し持っていた短刀を右手の長い袖から出すと地面に置いた。すると三人も地面にそれぞれ隠し持っていた武器も一緒に置いた。

「我々は傭兵だ」

レイルの言葉を聞くと、警戒しつつも警備隊隊員達はそれぞれ地面に置いてある武器を持った。

「この武器は荷物と一緒に出口で渡す」

「分かった。頼む」

レイルがそう返事すると、警備隊は武器と荷物と荷車を引いて門の中に消えて行った。そのうちの一人がヴィロの大きな槍の重さに一瞬驚いたようで、結局引きずりながら運んで行った。

「あーあ。俺の槍、引きずられてるよ。傷がついたらどうしてくれるんだ?」

ヴィロが小声で愚痴をこぼすと門の両端の塔から検問官が顔を出した。通行パスを渡すと右側ではクレア達の、反対側ではトキンとテッドの検問が始まった。最初にレイル、そしてヴィロ、エナ、クレアの順で検問を受ける。

「クレア・ラズロー、君が最後だな」

検問官はクレアの通行パスを眺めながら言う。

「君達は傭兵だと報告を受けたが、目的地はどこだ?」

「まずはダハラに行こうと思っています。ですが目的地は決めていません。傭兵をしながら世界各地を回ろうと思っていますので」

「ダハラねぇ……では、なぜこの時期に我が国に入る?」

「仕事の依頼が多くきているからです。戦で家を空ける男達がたくさんいるのが原因のようですが、大金を払っても盗賊や陸魔から村や家族を守ってほしいと願う民が多くいるのですよ」

すらすらと答えるクレアに年高の検問官はしばしの沈黙後に言った。

「君達四人は若いようだが、一言言っておく。君達はヴィラシスク人だ。我が国に入れば命の保障はないと思え。そして腕に自信があるからといって、反乱など起こそうとは思わぬことだ。君達のような若輩者を捕まえられないほど、我が国は無能ではないぞ。罪を犯せば逃しはせぬ。何の目的で我が国に入るにせよ、くれぐれも気をつけることだな」

得意気ににやっと笑う検問官を見て、クレアは笑顔で答えた。

「ご忠告ありがとうございます。先に検問を受けた三人にも伝えておきますのでご安心を」

至って平静のクレアの態度に不快に思ったのか検問官はむすっとした顔で一言、通れと命じた。クレアは軽く会釈すると門を通って百メートル先にある出口の門へ向かった。

しかし門まであと数歩というところで若い警備隊員が両側から現われた。クレアは仕方なくにやにやと笑っているその二人の顔を交互に見て、立ち止まった。

「私に、まだ何か?」

冷たい声で、鋭い瞳で警備隊員を見るが彼らはまだ行く手を阻んでいた。

「こんな朝早くからどこへ?」

「君、名前は?」

そう言って近づいて来た警備隊員を無視して強引に通ろうとするが通してくれそうにない。

検問所内だし、抵抗するわけにはいかないわね……

クレアはどうしようか考えながら目の前の二人の警備隊員を睨んだ。

「ここで抵抗しない方が身のためだよ」

高笑いをする二人を前に強く手のひらを握り締めていると、二人の警備隊の背後に背の高い男が現れた。警備隊員は振り返りクレアは顔を上げてその男を見ると、彼はクレアの右腕を引っ張って自分の背後に隠した。

「悪いね。彼女は俺の連れなんだ。いくらいい女だからって、むやみに手出ししないでくれません?」

「ふん……ここで歯向かうと自分のためにならないぞ」

「そうだ、引っ込んでろ」

そう言って一人の警備隊員がヴィロを押しのけようと手を伸ばすと、ヴィロがその手を素早く取ってその警備隊員の懐に一瞬で入り込んだ。その速さに警備隊員は驚いてヴィロの顔を見上げた。

「俺がヴィラシスクから来た傭兵って事は知ってますよね?何なら今すぐ相手をしましょうか?槍なしでも結構いけるんですよ?」

そう微笑みながら言うヴィロに二人の警備隊員の表情が一瞬固まった。その隙にヴィロはクレアの腕を引いて門の外まで連れ出す。外ではエナとレイルが荷物を地面に置いて待っていた。ヴィロはクレアの腕を放すとクレアの短刀を手渡した。

「ありがとう、助かったわ。でもあんな事言って、下手したら連行されてたわよ」

「大丈夫だって。相手見て小者だって分かったし。普通はあんなこと言わねーよ。まぁ、さすがのクレアも検問所内では騒ぎは起こせないよなぁ。まったく、きたねぇ奴らだ」

そう呟いたヴィロを見ていると、エナがふわふわの金髪を揺らしながら走って近づいてきた。

「クレア、大丈夫?」

「ええ」

「……そのようだな。問題もなさそうだ」

レイルの声に顔を上げるとクレアは頷いた。

「ヴィロが助けてくれたから」

クレアがヴィロを見ると彼はにっと笑った。

「それにしてもあの検問所の役人、感じ悪かったですよねー」

「ああ。なんか見下してるし、皮肉をちくちくと……」

「そうそう」

エナとヴィロがぶつぶつ言い始めると二人を見てクレアが答える。

「仕方ないわよ。彼らはサージェスタ人で私達はヴィラシスク人。現在の情勢から見ても警戒されて当たり前だわ。もともと友好関係でもなかったんだし」

「まぁとにかく、無事にサージェスタに入れたんだ。それでいいだろ。気にしていても仕方ない。しばらくはクムラン南西部の町ダハラを目指して歩くぞ。夜は野宿だ。とりあえず、午前中は検問所の町ヨグで食料の確保とサージェスタの情報を集めよう」

レイルの言葉にヴィロとエナが同時に反応した。

「いきなり野宿かよ……」

「今日はそのヨグの町に泊まりましょうよ~」

クレアは左袖に短刀をしまいながら言う。

「辻馬車なら一日でダハラまで着くでしょうね。でも体力のある内に節約しましょう。でないと本当に傭兵をしないといけなくなるわよ?」

その言葉を聞いて二人は沈黙すると、荷物を持ち直してかすかに見える街の方へ歩き始めた。


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