表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/35

1-15


「あれ、レイルとエナは?」

しばらくしてヴィロとササが戻って来た。

「薬屋にいるわ。呼んでくるわね」

そう言ってクレアが走り去っていくのを見てササが呟いた。

「クレア・ラズロー。不思議な雰囲気を持った人物だな」

「それになかなかの美人だし。人を使うのも上手い。あいつがあぁも簡単に使われるとはね」

ゼオは先ほどのクレアとレイルのやり取りを思い出して笑った。するとヴィロは思い出したように彼に尋ねた。

「そういや、将軍。いつクレアと知り合いに?」

「ああ、それな。軍大には普通、人事部が極秘で人材探しを目的に視察に行くんだ。だが軍部が人手不足っていうことと、クレアが才持生ということで俺が代わりに行くことになったんだ」

それを聞いていたヴィロが首を傾げた。

「将軍が視察……ですか。それに極秘でって言いましたけど、クレアにばれてるじゃないですか」

「そりゃ、堂々と真っ正面から会いに行ったからな」

「は?」

ヴィロは思わず間の抜けた声を出してしまった。

「こっそりのつもりが、クレアを見てたらちょっと剣を交えてみたくなってな」

「何やってるんですか……」

「まぁいいじゃないか。クレアは確かにそのへんの軍大生や兵士とはレベルが違ったよ。なんというか不思議なくらい戦い慣れてる。どんな人生送ってきたらそうなるんだか……」

しばらく沈黙しているとクレアがエナとレイルを連れて戻ってきた。

「悪いな、待たせたか?」

レイルが言うとヴィロが首を横に振った。

「い、いいや。それより長居したな。六時近いぞ」

「ああ。そろそろ出ないとまずい。こっちの検問所が開く時間になる。いい加減、ここの国境警備隊もこの状況に怪しみ始めるだろう」

レイルがそう呟くとヴィロが手に持ったパスを一人一人手渡した。そして四人が顔を見合わせるとササとゼオの方に向き直った。

「私たち、行きますね」

「いろいろお世話になりました。テムド中長にもよろしくお伝え下さい」

エナとクレアが頭を下げた。

「隊長、ちゃんと仕事して下さいよ。遠くからそう祈ってます」

「将軍、隊長をよろしくお願いします」

ヴィロとレイルの言葉にササが呟く。

「お前らな、最後にそれか?」

「ははっ。あいつららしいじゃないか」

ゼオが言うと四人はサージェスタとの境の国境門へ向かった。四人の後ろ姿を見送りながらササが呟く。

「あの子達、利用されているな」

「ああ。おそらくな」

「……だいたい四人で特務に行かせるか、普通。どんな少数部隊でも八人以上はいるぞ」

「重要な任務だがなぁ……失敗でもすれば外交問題に発展する可能性だってある。ま、いい実施訓練になるんじゃないか?帰ってきた時どれだけ成長しているか、楽しみではあるな」

楽しそうに笑っているゼオを見てササが反論する。

「そう言っている場合か!!」

「ハハハ。でもこの状況から見て任務を成功させないように誰かが仕向けているのは確かだな。たった四人での特務、メンバーもエナは新人で、クレアは才持生とはいえまだ学生だ。そしてレイルとヴィロも特務に行くには早すぎる。それなりに地位があるにしても、まだ二人は入隊四年目だぞ。世界情勢も今緊迫しているというのに」

「有望株潰しが今回の特務の目的か?馬鹿げてるな。取り込むより……なぜ潰すほうを選択したのか」

ササが冷ややかな声で言うとゼオが隣で腕を組んだ。

「いや、それだけだったらこんな重要な任務をたった四人に任せないさ」

「どういうことだ?」

ササは隣にいるゼオの顔を見た。

「陛下はマルキアの依頼通り、セシリア・ニームの保護と護送を望んでいる。だが、それにしては手薄だと思わないか?」

「なるほど。三大官かその周りの奴らの陰謀か?」

「もしくは他の奴か、そこまでは分からないがな。どうやらセシリア・ニームをシーエンに連れて行かれたくない奴らがいるようだ。世界の繁栄を知っている可能性がある人物、そりゃあ欲しいだろうさ」

「つまり有望株潰しとセシリア保護の阻止、同時にしようとしているのか……」

ゼオは白壁を力強く殴った。

「俺もいい加減腹が立ってるよ。これから国を担っていく優秀な若者を潰し、ましてやセシリアは一般人。民を守るのが我々の役割というのに彼女の保護を阻止しようとしている。陛下の意思をも曲げ、そしておそらくセシリアの拉致を目論んでいる」

「欲に眩んだ愚か者。世界の繁栄を望むのは誰もが同じ事。だからといって拉致など……さらに国交間に溝を作るつもりか」

「それにセシリアがどこにいるのか、知っているのは陛下とレイル達、そしてその依頼人とか言う人物だけ。おそらくレイル達をつけるつもりなんだろう、殺し屋でも雇ってな。隙あらばセシリアを拉致し、将来的に見ても邪魔なレイル達を始末するってところだな」

ゼオも深刻な顔で言うとササがため息をついた。

「命の危険は自国からもあるってことか。国の役人が殺人と誘拐を目論むとは。あいつら、この事に気づいているのか?」

「さぁな。でもレイルとクレアは聡い。気づいているかもしれないな」

ササが悔しそうな顔をして整った顔を歪めた。

「私達は待つことしかできないのか……」

うつむくササの頭にゼオが兵舎の建物を見た。

「待ってるだけが俺達にできることじゃないぞ。異国の事はどうにもできないが、自国の事は手を貸せる。影で動いている有望株潰しをまずは探るぞ」

ササは顔を上げて四人が向かった門を見た。

「ああ、そうだな」


「思わぬかたちで時間を潰せたな」

ヴィラシスクとサージェスタの古い国境門を通り過ぎた時にヴィロが呟いた。

「そうですね、一時間待つはずだったのに向こうの検問所に着いても待つのは十五分くらいじゃないですか?」

「そうね」

クレアがエナの隣にそう頷くとヴィロが思い出したように隣のレイルを見た。

「なぁ、レイル。隊長はなぁんとなく予想ついてたけど、将軍は予想外だったな?」

「そうだな。将軍は今、新人の野外実地訓練に同行していたはずなんだがな……二人して仕事を放り出してきたようだ」

呆れたように言葉を発するレイルにヴィロも呟いた。

「似たもの夫婦だねぇ」

「それなんですけど私、第三部隊の隊長と将軍が夫婦っていうのは聞いたことあったんですけど、旦那さんは初めて見ましたよ」

背後から聞こえてくるエナの声にヴィロが答える。

「だろうね。あの人、前線にいてほとんど軍本部には顔出さないから。それにエナは救術部隊だから会う機会もないだろうし。で、どうだった?“豪剣のゼオ”に実際会ってみて」

「……なんというか、マイペースで明るい方でしたね。奥さんに振り回されてるって感じもありましたし。もっとこう、威厳のある人かと思ってました」

「はは、やっぱり?でも一番振り回されてんのは、あの二人の補佐官とお前だよな、レイル?」

「………………」

「なんか想像つくわね」

クレアの言葉にレイルは複雑そうな顔をしていた。


「ロディックス将軍!?」

「どうして将軍がここに!?」

「隣にいるのは第三部隊の隊長じゃないか?」

ピテラ検問所内の兵舎のロビーに集まっている国境警備兵達が二人の姿を見て騒ぎ始める。しかしテムドが兵舎に入ってくると、途端に静かになった。

「みなさん、ずいぶんと長い間兵舎に閉じ込めてしまって、すいませんでしたね。事情が事情でしたから、みなさんにも御協力していただかないといけなかったもので……」

テムドの言葉に兵士達は互いに顔を見合わせた。するとゼオが中央に立ち、兵士達は慌てて敬礼をした。

「驚かせて悪いな。今回テムド中長に協力してもらって、以前から噂があった不正問題の真偽を確かめに参った」

その言葉を聞いていた兵士達はざわついた。

「静かに。騒ぐな」

ゼオの隣に立つササの声を聞いて再び部屋は静かになった。

「ところが、当の責任者がいない。ちゃんと二日前に文をよこしたはずなんだが、一体どう言う事だ?」

沈黙が広がり何人かの兵士達は冷や汗を掻いている。真実を言うべきか言わないべきか考えているようだ。

「聞けば、四日前から責任者とその補佐官らがそろいもそろって休暇中だそうだな?」

ゼオとササの冷ややかな声に兵士達も動揺を隠せないでいた。

「この休暇に関してももちろん調べさせてもらうが、さっきの間に責任者の部屋を捜索させてもらった。そのことでいくつか面白いことがわかってね……ともかく調査は終わった。君達には仕事に戻ってもらおう。協力感謝する」

そう言うとゼオとササはロビーから出て行った。敬礼して兵士達が見送るとテムドが穏やかな笑顔で口を開いた。

「ということです。今から通常業務に戻って下さい。いいですね」

テムドもロビーを出ると再び兵士達の間でざわめきが広がっていた。テムドはそのまま談話室に向かい扉を開けると、ゼオとササの二人は向かい合ってソファでお茶を飲んでいた。

「テムド、協力に感謝する」

「おや、将軍。もったいないお言葉で。それにしてもうまく状況を利用しましたね。これで不正に助力していた兵士達もぼろを見せるかもしれませんよ……」

「お前のアイデアだろう?」

「いえいえ、私は何もしておりませんよ」

“責任者?あぁ、副長のことですか。彼なら補佐官達と共に昨日から休暇を取っていますよ。少なくてもあと三日は、こちらにいらっしゃる御予定はありませんね。中長も私以外は休暇に入っていますので、ここ数日は私が仕切ることとなります。上司のみなさんが、長期休暇を取るなんてここは平和でしょう?ですからいつでもいらっしゃって下さいと将軍にお伝え願いますか?”

三日前に商人に変装させた使者からテムドの言葉を聞いていたササとゼオは、彼こそが影の支配者だと心の中で思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ