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一行は狭い路地に戻るとゼオとササは検問所内部へ入って行った。しばらくして一時退去を命じられた国境警備兵達は足早に検問所内へ消えていき、門前にいた警備兵もいなくなった。するとゼオが門前の入り口で手招きしてクレア達を中へ案内する。大きな門をくぐると、中は白い壁に色褪せた赤い屋根の建物が立ち並んでいた。

「なんか……街みたいだよね。建物いっぱい、中もひろーい。うちの管轄とは大違いだわ」

エナが呟くと隣を歩くクレアも頷いた。

「そうね。まさか検問所内に、兵舎や検問署以外の建物があるとは思わなかったわ。武器屋、道具屋、宿屋、それに簡易診療所まで……町に出なくてもここで十分生活できるわね。」

「あーあまったくだ。第四部隊の奴らは贅沢だなぁ。その上、不正して仕事楽して賄賂で金儲け。いいご身分で……一生懸命働いている俺達が馬鹿みたいだよ。よく今までほっとかれたものですね」

ヴィロの皮肉な言葉にゼオが肩をすくめた。

「噂はあったんだが、内部不正は見つかりにくいんだよ。口裏合わせをするからなかなか証拠も出てこない。頭を悩ませていた時に、テムドの……あの事件が起きた事をササから聞いてな。あんな事になって彼には思い出したくない出来事だったろうが、他にこの役に合う人物が思い当たらなかったんだ。駄目もとでコーザに赴き頼んだところ、あっさり了承してくれてね……まったく彼にはすまないと思っているよ」

「そんなに気にされなくてもよろしいのに……」

聞いたことのない男性の声にクレアとエナは振り返った。その男性は白髪混じりの黒髪に眼鏡をかけていて五十代後半くらいに見えた。彼は眼鏡の奥で漆黒の瞳を細めて微笑んでいた。彼を見てゼオが苦笑した。

「聞いていたのか……ササは?」

「今、検問署内でパスに検問印を押していますよ。少々時間がかかるとは思いますが……」

そう言って視線をヴィロとその隣にいるレイルに向けた。二人は目が合うと深く頭を下げた。

「おや、二人とも。そのような事はもうしなくていいのですよ?特にレイル副長、あなたは私の上司なのですから……」

「いいえ、官位など……私がそうしたいのです」

そう言ってレイルは顔を上げて、改めて再会の挨拶をする。

「お久しぶりです、テムド教官。お変わりないようで安心致しました」

「あなたも立派になられて、御活躍されているようですね。あなたの御活躍は遠くコーザの地まで聞き及んでいますよ。私も鼻高々です」

「いえ、そのようなことは……」

「フフ、あなたも相変わらずですね」

そう言って微笑むとヴィロに視線を向けた。

「ヴィロ少長、顔を上げてください」

「お久しぶりです、テムド教官」

顔を上げてヴィロはテムドを見て言うと、テムドは困ったような顔をした。

「あなたも……相変わらずのようですね。寝坊と暴れん坊なところも、でしょうか?」

「久しぶりの再会にそれですか……」

ヴィロはくせのある明るい茶色の髪を掻いた。

「そのくせも変わらないのですね。困った事があるとすぐ頭を掻く。嘘がつけない性格ですね、あなたは。それが一番ですが」

「それって褒めてるんですか?」

「ええ、もちろんですよ。あなたも例の事がなければもっと高位にいるべき人物です。何事にも正直なところはあなたのいいところですが、それでは世渡りが下手ですね。ですがあなたのような方が上に行ったら面白いと私は思いますがね」

「……それを俺に言いますか。それにあなたは私を買いかぶり過ぎですよ」

ヴィロはふとテムドの奥に見える縦長の建物を見た。

「俺、ササ隊長の様子を見て来ます。レイル、終わってたらパスももらってくっから」

そう言って正面にある建物へ向かうヴィロの後姿を見てレイルは呟いた。

「逃げたな」

テムドは困ったような顔をしてレイルと視線をかわすと、そばにいる二人の女性に目を向けた。

「シュザード副長、こちらのお二人が?」

「そうです。向かって右から、今回の我々の同行者である第三救術部隊のエナ・フィオン研修士と、第一軍大校才持生、クレア・ラズローです。」

「は、はじめまして。お世話になります」

「今回のご協力、感謝致します」

エナとクレアはそう言って会釈した。

「こちらこそ」

そう言うとテムドはエナを柔らかい笑顔を向けた。

「あなたが今年の主席救術入隊者ですね」

「はい」

「フィオン救術士、入隊して二ヶ月を満たないあなたに、このような重要な特務と長旅は何かと苦労することもあるでしょう。だからといって背伸びすることはありません。あなたが今できることをして下さい。そうすればおのずと道は開かれるでしょう」

「はい……ありがとうございます」

クレアは震える声で頭を深く下げたエナを見て気づいた。入隊二ヶ月でろくに現場を知らない救術研修士が、初めての任務と長旅に不安でないはずがない。そんなエナの気持ちを知った上でテムドはエナの不安な心を和らげたようだ。クレアは俯くエナの背中を優しく叩きながらレイルを見た。

「エナ、ここなら町よりも薬草や医療品が揃っているわ。そうでしょ、レイル?」

レイルが察したように答える。

「ああ。検問所には多くの軍人がいるからな。……エナ、薬の買出しに行くぞ。テムド教官、薬屋はどちらに?」

レイルの顔を見てテムドはくすくすと笑いながら前方を指差した。

「前に見える武具屋の隣ですよ。緑の木製の看板が目印です」

「分かりました、ありがとうございます。行くぞ、エナ」

「え、あ……はい」

エナは返事をすると先に行くレイルの後を追って行った。

「ラズローさん、あなたで八人目の才持生です」

二人の後ろ姿を見つめていたクレアにテムドは言った。

「不思議なものですね……記録によれば百年に一人と言われている才持生が、百年が経たないうちにもう一人いるのです。それを不吉と思っている方々も確かにいます。でも古い言い伝えに捕われずに、あなたは自由でいて下さい。才持生であるあなたは戦争の道具でも、国の道具でもありません。一人の人間です。それを忘れないで下さい」

その言葉を聞いていたもう一人の元才持生ゼオは少し笑った。

「俺が入隊した時にあなたが言った言葉だな」

「ええ、覚えてましたか。才持生は万能であるばかりに、なかなか彼らの事を理解してくれる者がいないのです。ですがロディックス将軍のように理解してくれる人と出会うこともあるのです。ラズローさん、少なくても今のあなたは一人ではありません。これから長旅を共にしていく仲間がいます。彼らとどう過ごしていくか、あとはあなた次第ですよ」

クレアは少しの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。

「お言葉、ありがたく頂戴致しました」

クレアが一礼すると、テムドは仕事があるのでと言い警備兵が集まっている兵舎へ向かった。


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