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1-13


クレアが路地裏に出ると街灯がうっすらと明かりを照らしていた。同じような灰色の建物が立ち並ぶ通りには誰一人として姿は見えなかった。しかしクレアは槍を出すと二本に素早く分け、一本を二階建ての建物の屋上に向かって投げた。するとカランと音を立てた槍は、屋上から姿を消し再びクレアの手元に現れた。

「はずしたか……」

そして背後から感じる殺気に槍を一つにして振り返ると、金属がぶつかる音とともに槍が剣と交わった。クレアは目の前の人物が街灯の灯りの影になっていて顔が見えないが、軍服を着ているのに気づいた。そこにレイルが剣を抜きクレアと槍を交わしている人物の背後に気配を消して近づいたが、軍服の色を見て立ち止まった。

「まさか、あなたは……」

レイルの声にその人物が少し驚いたように反応すると、その隙を見てクレアが喉に槍の刃先を向けた。しかしそんな状況の中でもその人物は不敵に笑っているように感じた。

「あなたは、誰?」

少しの間の後その人物が声を上げて笑い始めた。

(女性?)

目の前の人物が剣を下ろすと、街灯の灯りのそばに立って姿を見せた。その女性は170センチを軽く超える身長と短い黒髪で男性っぽく見えるが、緑色の大きな瞳が女性らしさを引き立てていた。年齢は三十代後半といったところだろうか。

するとヴィロとエナが合流し、その人物の後ろ姿を見て絶句した。女性は微笑んでその赤い唇から言葉を発した。

「なるほど……いい目をしているな。あいつの言ったとおりか」

その声を聞いてレイルはため息をついた。

「お前、今ため息をつかなかったか?」

女性はレイルを見て言うとレイルが額に手を当てて答えた。

「やはりあなたでしたか、ササ隊長」

「何だ……私じゃ不服か?」

「呆れているんです。仕事、放り出してきましたね……」

「だよなぁ。一週間も経ってないのに、あの書類の山が全て終わっているはずがない」

ヴィロもレイルの背後で言った。

「あいっかわらずお前たちは失礼だな。私は上司だぞ?」

レイルはもう一度ため息をついた。

「また隊長補佐に全て任せてきたのでしょう?いい加減にしないと彼、辞めてしまわれますよ」

「それこそ余計なお世話だ!!」

二人の言い合いにクレアとエナは呆然と立っているしかなかった。それに慣れているヴィロは外にはねた明るい茶髪を掻いた。

「おーおー、賑やかなことで。緊張感、皆無だな……」

エナとヴィロの背後の路地から背の高い見たことのない黒の軍服を着た四十代前半くらいの男性が現れた。180センチを超えるこれまた長身で背中まである長いウエーブのかかった黒髪を一つに束ねている。

エナは誰か分からないように首を傾げると、その男はクレアに漆黒の目を向け右手を上げた。

「よっ!久しぶりだな、後輩」

「後輩??」

エナがますます首を傾げるとクレアが彼を見て頭を下げた。

「お久しぶりです、ロディックス将軍。」

「しょ、将軍て……もしかしてゼオ・ロディックス将軍!?」

「ああ、そうだ。それとロディックスじゃなくてゼオでいいぞ、クレア……とそこのお嬢さん」

そしてゼオは前方にいるササを見た。

「レイル、それにみんなも。先ほどは妻が失礼した。私がクレアの事を話したもんでな……」

「なんでお前が謝る……クレア、驚かせてすまなかったな。ゼオに聞いていた通り、さすがといったところだな。卒業したらうちに来い、待ってるぞ」

「はぁ……」

クレアが戸惑いつつも返事を返すとヴィロがおそるおそる声をかけた。

「あのー……」

その場にいる全員の視線がヴィロをとらえる。彼は商店の壁に掛かる時計を指差していた。

「ちょっといいっすか?……もう時間、過ぎてるんですけど。今五時十分過ぎ」

「え、急がないと!!退去した国境警備隊が戻ってきますよ」

そう言って路地の方へ戻ろうとするエナをゼオが静止した。

「待った。その心配はないぞ。えーっと……」

「エナ研修士だ」

「そう、エナだ。エナ、まだ退去を命じてないから大丈夫」

「まだ命じてない?」

ゼオの言葉にレイルが反応した。

「そう。ここにはテムドがいるだろ?あいつがいれば、融通なんていくらでも利くからな。好きな時に行けばいい。それともお前達、そろそろ行くか?」

(なんててきとうな……。今までの計画は一体何だったんだ?)

そう思いながらゼオとササ以外の四人は沈黙した。

「それじゃあ、通行パスを俺かササに渡してくれ。検問印を押す。そうしたらあとは国境警備隊に一時退去を命じて、お前らが検問所を抜けるだけでいい。」

「それで……第四部隊の隊長は?」

レイルの言葉にササが通行パスを受け取りながら答える。

「正式には隊長じゃないな。ここは治安がまだいい方だから隊長ではなく、副長が国境警備班班長として責任者の任に就いている。本物の隊長は軍本部にいるはずだ。そうだな、ゼオ?」

「ああ。ちなみにここの班長は休暇中だ」

「へ?」

「休暇?この忙しいご時世に!?」

エナとヴィロがあっけにとられた声で言う。

「ああ。ここの班長と中長、それにその補佐官達はな、そろいもそろって四日前から休暇中だそうだ。テムド以外はな。つまり今ここを仕切ってるのはテムドだ。こっちが手を回すまでもない」

「ある意味助かるがな。テムド曰くこれは有給ではないそうだよ。まったく、ここまで堂々と仕事を休んでいられるなんて、素晴らしいね」

ゼオとササの言葉に四人は声にならなかった。

「それにしてもどうしてテムド教……テムド元隊長補佐がここにいるんですか?コーザに駐留しているはずでしょう?それにここは第四部隊の国境警備班の管轄ですが……」

ヴィロの言葉にゼオとササはなぜかレイルに視線を向けた。

「レイル、お前なら分かるだろ?なぁ、ササ?」

「ああ、気づいているよな?」

「お二人とも……気配を消して、聞いてましたね?」

二人はお互いに顔を見合わせ首を傾げた。それを見てレイルはため息をつく。

「今回の特務のため……だけじゃないですね?ここは国境の町にしては治安がいいにしても、検問所内部では不正が多い。テムド……中長は以前、不正問題を降格させられたにしても、いち早く気づいて解決に導こうとした。結果はどうであれ、あなた方はその正義感と勇気を買い、彼を第三部隊に在籍させたまま第四部隊に派遣した。不正問題の噂が絶えないこの地に、不正の真偽を確かめるために、つまり密偵として。まったく、あの方も人が良い。あの方のお人柄からして快諾されたのでしょう?先ほどの話からしても、何も知らない第四の副長は有能な方が来たからと、大喜びして休暇を取っているようですし」

「さすが未来の軍事部長官、いやゼオの後継者か?一言一句、間違いはなかったよ」

そう言ってササが拍手をしていると、その隣でゼオが四人を促すように言った。

「じゃあそろそろ、そのテムドに会いに行くとしますか」


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