6話―序盤には親切な人が多い
街に入ってみると、思ったより発展していた。
「おお、ザ·異世界って感じの街だな」
入ってすぐある道には、出店が並んでおり、それ以外にも店舗を置いている店もある。もう夕方に近いのに、大勢の人がいる。商業都市といった感じだ。
そして、たまに剣や槍などの武器を持った人も見かける。多分冒険者だ。
隊長さんは「冒険者の街」とか言っていたが、普通のそこそこ発展している街だった。
(ああ、こういうのだよ!俺が求めてたのは!レズ女神なんていなかったんだ!)
田舎から上京してきた社会人みたいな感想を抱きながら、これからどうするか考える。
(冒険者ギルド的なのに行くのがセオリーなんだろうが、魔法使ったせいでダルいんだよな。ギルドは明日にしようか)
別にあそこまで全力を出さずとも切れたのだが、この時の俺はそんなこと知らない。
それを抜きにしても、今日はいろいろと濃い1日だったので、ギルドに行くのを明日にしたのは妥当だろう。
(んー、どこの宿泊まろうか……あれ?そういえば……)
俺はそこで重大なことを思い出した。
……俺、金持ってるっけ?
(だ、大丈夫だろう。あの女神も何だかんだでしっかりしてるんだ。一泊分の金くらい……あるよね?)
ゴソゴソとポケットをまさぐるが、手に当たる物は何もない。やたら多いポケットには全部、何も入ってなかった。
前言撤回。やっぱあの女神しっかりしていない。
(どうしよう……仕方ない。野宿するか。金を借りる知り合いなんていないし、一回くらい体験してみるのも良いかもしれない)
そう腹を決め、どこか寝れそうな場所を探す。ホームレスになった気分だ。実際ホームレスなんだが。
キョロキョロと周りを見渡していると、急に声をかけられた。
「おい、どうしたんだ?」
「うぇっ⁉️」
「そんな驚くことねぇだろ」
「結構可愛い反応すんのな」
そんなツレみたいなことを言ってきたのは、さっきの兵士さんたちだった。勤務時間が終了したらしい。
ていうか変な声出してしまった。あと可愛いって言うな。
「んで、どうしたんだ?泊まるとこがないとかか?」
「うっ……そうだけど……」
「ハハハっ馬鹿だなぁ。出稼ぎに来たなら金くらい持ってこいよ」
ごもっともです。何も言い返せません。
「ならさ、今から飲みに行かないか?泊まる金くらいなら出してやるし」
「えっ?良いのか?」
「あんた、もうちょい悩めよな?男が3人で女の子を酒に誘ってんだから、もっと怪しめよ」
「俺は男だ」
「あぁ、ハイハイ。どうあっても認める気はないんだな」
「本当に男だ!……あと、そういうこと言うなら大丈夫だろ」
「違いねぇ。んじゃ行くか」
思わぬところから助け船が出された。結果的に晩御飯も食べさせてくれることになった。
あと、俺が女というのは曲げない気らしい。素顔を見られたのだからしょうがないか。だが、男と主張するのを止める気はない。
ちなみに襲われたら遠慮なく撃退させてもらう。その場合相手が悪いんだから加減する必要はないし。
少し歩いて止まったのは、「ヤギの足」と書かれた看板の店だ。もっとましな店名はなかったのか。なんだヤギの足って。足に蹄でもついてんのか?
俺の当惑を感じたのか、1人が答えてくれた。
「変な名前だろ?飼ってる動物が馬だったから「蹄」にしたらしいぞ」
そんな理由で決めるなよ。そしてそれなら「馬の蹄」にしろ。どっからヤギ出てきた。
中に入ると、そこそこの人数がいた。夕食時だからか。吹き抜けになっている2階は宿らしい。
内装を観察しながら、みんなと同じようにカウンターに座る。すると店長らしき人が水を出しながら言ってきた。
「いらっしゃい!お?誰だ?その子」
「あぁ、村から出稼ぎに来たらしいぞ。名前は……そういや聞いてなかったな。なんていうんだ?」
「レイだ」
「へぇレイちゃんか。お前らよくこんな子捕まえてきたなぁ」
水を吹きかけた。ちゃん付けもそうだし、捕まえたってなんだ。別にナンパされた訳じゃないぞ。
「捕まえた訳じゃねぇよ。泊まる場所ないらしいから奢ってやってんだよ」
「なるほどな」
「あと、こいつは男らしい。そういうことにしといてやってくれ」
「らしい、じゃない。普通に男だ」
「あぁ、そうだったのか。すまんかったな」
店長は人当たりが良くて、気前が良い。事情を話したら、一週間ただで泊めてくれることになった。「どーせ誰も使わんしな」と笑っていた。この際馬をヤギに改変させたことは目を瞑っておこう。
程なくして出てきたのは、豚(?)の串焼きと、これは……エールか?麦茶みたい
な液体だ。俺が飲んでいいんだろうか。
「どうした?飲まねぇのか?」
そうせかされたので、地球の法律は忘れたことにして飲む。
なんか、地球のビールを十分の一にまで薄めたらこんな味になりそうだ。酒なんて親戚の叔父さんにふざけて飲まされたことしかないので、なんとも言えないが。
串焼きの方はマジで美味かった。味付けはシンプルだが、かなりうまい。
エールをチビチビ飲んでいると、いきなり話題を切り出された。
「んで、お前。早く聞かせろよ」
「え?何を?」
「どうやったらあの木を一発で切れるかだよ」
あぁ、あれか。隠すこともないし正直に言うか。
「身体強化を全力で使っただけだよ」
「嘘つけ!それだけでできる訳ねぇだろ!あの木、ここ何十年と切ろうとしても切れなかったんだぞ?」
え?マジで?確かに大きかったけど、そこまでか?割とスパッと切れたぞ?
俺の驚いたような表情を見て、あっちはさらに付け加える。
「隊長も、切れる訳ないと思ってたから、あんな無理難題押し付けたんだぞ?それを切っちまったんだから。隊長のあんな顔初めて見たぞ」
そうなのか。あの隊長、本気で帰らせようとしてたのか。なんか申し訳ない。
あの隊長も外見はアレだが根は優しいのだ。心配してくれてたみたいだし。
「まぁそんだけお前がバケモンだってことだよ。これなら冒険者になっても安全だな!」
「バケモン呼ばわりは不本意なんだが」
その言葉にワッハッハと笑う兵士さん。ふざけてるんじゃないんだけど。
……そして、二時間ほど話してると、1人が寝落ちしてしまったのでお開きとなった。おぶって帰るそうだ。
外はすっかり暗くなっていた。
「じゃぁな。また飲もうぜ!」
「あぁ、またな。奢ってくれてありがとな」
「良いってことよ!んじゃ、さいなら」
グーグー寝ている1人を引きずりながら帰っていく兵士さんたち。それを手を振って見送る。
姿が見えなくなると、俺は店に戻った。もう店には誰もいなかった。皿洗いをしている店長が声をかけてくる。
「おう、嬢ちゃん!部屋は勝手に決めといたぞ!」
「俺、男です」
「あと、朝は裏庭の井戸を使ってくれ!化粧もしたいだろ」
「だから男です」
「あと、風呂は近くの共同銭湯に行ってくれ!こんな男と一緒の風呂入んのはイヤだろ?」
「…………」
人の話を聞かない店長だ。さっき男だと説明しただろうに……。
ちなみに俺はこの人には敬語だ。一週間も泊めてくれるんだから、当然だろう。
その後通された部屋はそこそこ広かった。地球の俺の部屋よりよっぽど。
「ちと汚ねぇが、まぁ我慢してくれ。銭湯はもう少しで閉まるだろうから、早く行った方がいいぞ」
「いえ、今日は疲れてるから、もう寝ますよ。ホントにありがとうございます」
「そうか?女は毎日風呂入んなきゃ死ぬって聞いたんだが」
「どこ情報ですかそれ。あと何度も言いますが俺は男です」
最後にもう一度抵抗して、部屋のドアを閉める。そして刀を置き、ベッドに倒れこむ。
「は~~疲れた~」
本当に濃い1日だった。1ヶ月分の疲れが1日に圧縮されたみたいだった。
(もう寝よう。明日は冒険者ギルドに行くんだし)
上着を脱ぎ、ズボンも脱いで、シャツ一枚になる。自分の体だが、暴力的に色っぽかった。関係ないが、パンツはショーツだった。女神め、下着までいじりやがったか。
夜は少しひんやりしているが、布団をかぶれば大丈夫だ。
……目を閉じると、3秒で寝れた。最短記録だった。
このくらいの長さでいいんでしょうか。あと同じ言葉を何度も使ってないでしょうか。なろう初心者だからよく分かんないです。不備な点があったら感想でお願いします。
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