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落し物1

 水の街シルファニア。そこに住む夢見のリアル。

(もはや夢とは言わせない)

 ……と、リアル青年は思った。


 リアルの夢は、ゴーレムの整備士になること。

 夢を運んできたのはゴーレムそのものである。


 ゴーレムとは一般的にはごつい岩を寄せ集めて魔法の糸で縫い合わせたようなものだが、目前のは繊細で美しい。

(細腕、美しい人の形。ゴーレムとは?)

 ……リアルがそう疑問を持つほど。


「起動後の調子はどう?」


 声をかけた。

 リアルの言葉を理解する知能もあるらしい。ゴーレムは首を傾けてまっすぐに声の主を見上げて、心臓の部品を虹色に輝かせた。


 水のさなかに光る虹とはこのことかと、リアルは彼女を「ニジ」と名付けた。

 名前を持っていないようだったので。心臓の部分を指でなぞっても、複雑な溝があるばかりで、シルファニア文字は見つけられなかった。教師リアルが知る限りの民族文字でもない。


「ニ・ジ」

「ワッ!? 音……いや声が……!?」

「ハイ。あなたのニジ」


 見た目は美少女、コレが話をするとしても違和感はない。

 ゴーレムとして前例がないにしても、だ。

 リアルの夢は「ゴーレムの整備士」である。


「その声、ひび割れた大地みたいにガラガラ。整備してみるからちょっと身を委ねてくれるかな……」

「ハイ。あなたのニジ」


 だから従います、とリアルは返事のうしろを読み取った。


 ニジは上体をまた倒して、ベッド脇に腰をおろしていたリアルの膝に、ごろりと横になった。

 重みが、リアルの細めの脚にはけっこうつらい。


「うっ。……口を開けていて、喉の器官は解放できるか?」

「アーン」


 本棚からゴーレム関連書籍を取り出して、見よう見まねで、ニジの喉に手を加えていく。


 表面はなめらかだったニジだが、内側はというとひび割れがひどかった。

 水差しからオイルを流し込み、机上のコップに刺さっていたマドラーでしっとりとなじませて、魔法の杖を差しこんで魔力を流す。網目のカバーが喉のなかにできあがって(応急処置にしては上出来。……なはず)

 喋って、とリアルがうながした。


「はい。あなたのニジ

「よろしく。マスターのリアル」

「登録しました」


 ニジがにこりと微笑むと、身体中に虹色の光が波紋のように広がって、爪先から抜けていった。

 ピキ、と唇がひび割れる。


「あ」


 ニジに見惚れていたリアルが(修正しなくちゃな)と現実に意識を戻した。

(成分はさっきのオイルで適合するだろうか?)


 ニジには知能があるので、尋ねてみようかとリアルは思いついた。


 どのような知識を披露するのか、未知の領域を知ろうとしている、そう思い至ったリアルの表情はまるで子どもっぽい好奇心に満ちていて、机に向かっていた学生時代よりさらに前、水祭りで特別な落し物を探していたまったくの子どものようだった。


「無邪気」


 ニジがそう判断する。


「判定は下手だな。偏屈、頑固、頭でっかち、夢見がち、そんな風に言われてるんだぜ。……っと、俺の感情測定ができていないってことは医療系ゴーレムではないらしい」


 じゃあなんだ、とリアルの意識が勉学の方に逸れる。


 ニジが口をへの字に曲げたことで、ひび割れが1ミリル拡がった。


「唇にはさっきと同じオイルを塗っても?」

「その意図は?」

「ひび割れを修復したい」

「それなら」


 ぐいと持ちあがったニジの頭はそのままリアルの影に重なり、離れると唇はわずかに修復されている。

 驚いて離れようとしたリアルの後頭部をつかみ、ひび割れを修復するという目的のために、ニジはもう一度唇をうるおした。


 ニジの表皮に使われている素材は、人間の皮膚に極めて近いものだという。

 舐めて直せ、なんて悪ガキが怪我をした時のような方法。極めて原始的で、ゴーレムに適用なんてちゃんちゃらおかしい。


「なんなんだ……ニジは……」

「あなたの虹です」

「違う。それじゃない。性質や成分や構成だ」


 俺が調べていくのか、と、リアルはハッとした。

 口角がくいと上がる。

 反して、ニジはムッとしたような顔をしていた。


「なんだその表情」

「アンドロイドにとっては主人に必要とされることが喜びなので、今のは不名誉です」

「ゴーレムだ。アンドロイドなるものはこれから探求していくから、ゴーレムと名乗れ、ニジ。水の街にいていいのはゴーレム、そう申請している。範疇から外れた時、ニジと一緒にいられない」

「分かりました。あなたの虹」


 リアルが窓を開けた。

 青の太陽。

 霧のリング。

 ちょうど、空を覆っていた水のまくが全て流れ落ちて雨のように降りそそいだ時だった。


 綺麗、とぽつりと口にしたニジの目は、空を映して青くなり、リアルはその色彩がピッタリだと思った。


 この水の街で生きていくゴーレム。

 ニジもそれを望んだ。

 一緒にと。




 黒髪に、青の瞳。

 水面のニジ、といつしか呼ばれたのは、表情もしぐさも言葉も感情も、ゴーレム整備士のリアルを映したようにそっくりになっていったから。

 リアルの夢を映したみたいだったから。






読んでくださってありがとうございます!

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