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落し物2

 



 水面のニジと一緒にいる限り、リアルはずっと夢見のリアルのままだった。

 ニジにプロポーズする時に自分自身でそう言ったのだ。

「ニジに夢を見ていたい」と。


 ニジが動き続ける限り、リアルはずっとゴーレムの整備士でいられる。ニジがゴーレムでいる限り。そしてリアルの隣にいる限り。


 ニジは呆れ返ったように皮肉に口角を上げた。


「あなたの虹。何度そう言ったかしら」

「1000回目。今のでちょうど」

「ロマンチストなんだわ、全部そうやって整えようとしてくるから」


 ニジがそう言ってから、いっそう口角をあげると、唇にぴきりとヒビが入った。

 潤して直そうと、ニジの方から影を重ねた。

 負けず嫌いな二人が同時に動いたけれど、リアルが整備したゴーレムの方が性能がよろしかったからだ。


「それはそれで悪くない、でしょ」

「そうだけど。全部俺に似るとは、言葉遣いとかさ。敬語もやめてしまって」

「ゴーレムは学習するものだって本に書いてあったじゃない。だから満足でしょ、ゴーレムらしくて。──あなたの水面の虹より」


 ニジの告白は隙がなく、1001回目を奪うほどに情熱的。

 リアルは照れて赤くなり、ニジの頬にもそっくりの色が浮かび上がった。そして二人で、水の柱が吹き上がるときのように大笑いする。

 水の街の広場でそんなことをしていたら、あれよあれよと人が集まってきて、祝福の拍手を鳴らした。

 ファンファーレの音。

 地響きとともに水の柱がたちのぼり、空を水面に変えてしまった。

 すべてが、ほんとうにすべてが、水の芸術のようだった。


 水が雫となって降りそそぎ、青の花に水滴をつくる。

 青の花の季節が終わってしまわないほど、早く、リアルはプロポーズをしたのであった。

 毎日何度も聞き続けた「あなたの虹」が1000回をきざむ程度に、早く。

 他のものにニジを奪われてしまわないように。


「戦争があるかもしれないって」

「虹の戦闘部品は、リアルが外してしまった……」

「だから呼ばれないよ。遠くの大地にニジをやってたまるもんかってさ」

「あなたの虹。だからこの水の街で、リアルの人生を映しながら動き続ける。そう決めた」

「俺は決めたことを覆したりしないから」

「虹もなんだわ」


 一緒であることの、なんと心の安らぐことか。

 ニジはリアルで、リアルはニジだった。

 リアルはニジを眺めていると、自分自身のことがとてもよく分かるのだ。

 幼い頃に両親を亡くし、自分が何者なのかというアイデンティティを失っていたリアルは、ニジに出会ったことで夢を見て、ニジに触れて己を知っていく。


 そんなことがニジにとって幸せなのかといえば、ほんのわずかだけリアルと異なる愛おしい表情を見ていれば明らかだった。

 すぐに水面のように、リアルの表情を映してしまうけれど、結局柔らかな微笑みを浮かべていることは変わらない。

 そっと潤う。

 青い朝日が、二人の肌をみずみずしく染めた。



 ♪世界中の水路が通ずる場所 水の街シルファニア♪

 ♪水路が交わり 落し物がやってきた♪

 ♪水灰色のレンガの道を駆けていく♪

 ♪虹の声で よろこびを歌う♪

 ♪世にも美しいゴーレム♪



 あの日あの時、ニジが水の街に流れ着いてきてから、水路がひとつ通じた。

 定期的に、おかしな機械が打ち上げられて、リアルは銀の糸でそれを引っ張り落とした。

 隣にはいつだってニジがいて、両手を掲げて機械を受け止める。

 リアルはゴーレム整備士、ニジのメンテナンスはいつだって万全なのだから。


「この機械、どう組み立てようか? 腕が鳴る。ゼロから一つを作り上げるのが好きなんだ……だから教師よりもこっちが向いているらしい」

「ベイビー」

「また、そういうことを言うっ……!」

「同じこと思ってたくせに」


 そういうのが好きなのは、それで幸せなのは、二人にとって同じ事。



 希代のゴーレム整備士となったリアルの人生は、たくさんの機械の愛情に満ちていた。

 それぞれのゴーレムの心の声に耳を傾けて、水の街で生きられるように導く。

 全員が水の街を望んだのは、リアル以外にアンドロイドを整備できなかったゆえだった。

 この環境で、動いていたい、と望んだのだ。


「とても昔、もう動かなければいいのに、って考えていた気がするわ。ずっと」


 ニジがそんなことを言う。

 水の街の鐘がなる塔のてっぺんで、黒髪をすずやかな風になびかせながら、青い太陽の光をうけとめて。


「あなたの虹になってから、動くことが楽しくって、あなたもそれは同じ気持ちで、そしてあなたが死んだから、虹も止まりたくなったのね……」


 ニジが石碑を撫でながら言う。


 没後、リアルの石碑が建てられたのだ。

 数々のゴーレム整備の実績と、魔法によってこの水の街を戦火から守った魔法使いとして、生徒から慕われる教師として。

 ニジが歌うシルファニアの歌には、リアルの名前が加えられていた。

 リアルの存在がこの世界に刻まれた。


「おやすみ」


 まるで今から心地よい夢見に落ちるように、ニジは目を閉じて、墓標によりそうようにうずくまると、一切の動きを止めた。



 水の街シルファニア。

 1000回ごとに現れる水の柱は、ダンスのように水しぶきをはねさせて、空の水面は虹色に輝くのだという。








完結です!

よかったー!好きなものを好きなだけ好きなように、書けました。いいリフレッシュになりました( *´꒳`*)


この街を舞台にした小説はまた書くと思うので、もし巡り合ったら、読んでいただけたら嬉しいです♪


読了ありがとうございました。


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